閑話1 彼女の気持ち ※視点が違います

<アストレア視点>


「はぁはぁはぁ……。これで…はぁ…やっと40階層突破できた。でも、もう動けない」


長かった戦いのせいかそんな独り言を溢しながら、私は肩を動かし、全身で息を吸う。無理をしたせいか、それとも持病のせいか視界がぼやけて倒れそうになるのを、何とか両ひざに手を付き堪える。


『お前みたいななぁ、一人で中ボスも倒せねえような雑魚はこのパーティーにはいらねえんだよ!』


「何で私、こんなことしてるんだろう…。あんな奴のパーティーなんてどうでもいいのに…」


思い出したくもない言葉が脳内でフラッシュバックされる。

私はその記憶を頭を振り全力で消し去る。

こんなこと考えるなんて疲れているのだと思い、私は息を整え帰ろうとしたその時―。


ドーン!


ダンジョン内も大きく揺れるほど大きな音が正面から響いてきた。

顔を上げるとそこにはこの階層の魔物であるヴァイパーが獲物を見つけた目をしてこちらを睨んで来ていた。

恐怖のせいか、それとも疲れているせいかはたまた両方か、動くことも声すらも出ない。

死を目の前にした時、走馬灯のようなものが見えた。


『使えねぇな、雑魚』

『君の病気はもう、治らない』


そんな悲しいことが見え、私はこのまま死んでもいいやと再び思い目を瞑る。

そして、歯を食いしばった時に、再び今度は違う走馬灯が見える。


『良かったじゃない。気を付けていくのよ~』

『行ってらっしゃい』


懐かしく、聞き馴染んだ声とその風景。

それを見た瞬間、死にたくないと思った。強く思った。

その心が疲れ切った体を動かした。


ヴァイパーが振りかざしてきた尻尾は体の真横を掠めていく。

私は間一髪でその攻撃を躱したのだ。

が、それも最後。


間髪入れずにヴァイパーは口を大きく開け、体を大きく仰け反らす。

毒霧の準備だ。


今度こそ死を覚悟し……そして気を失った。



「……えっ、そんなにこの子ヤバいのか?この子タケルって言いう名前……って、へ?タケル?まじ?」


そんな声で私は目を覚ました。

視界にはダンジョンではなく綺麗な夜空と、まだ疲れがとれておらずはっきりとは見えないが視界の端に私を担いでいるであろう人。

私はこの人のお陰で死なずに済んだのだろうか。


「ケイ、そんな事は早く言ってよ!どこ行けばいい?!急げ〜!!」


そんなことを考えていると、私は違う人に渡されその人はどこかに走って行ってしまった。感謝も出来なかった。

名前はタケル……か。


それから、私はギルドの治療室に連れていかれ、安心したのかすぐにまた眠ってしまい、パーティーに気付かれないように彼らの元へ戻ったのは日を跨いだころだった。


♦♦♦♦♦


翌日。


パーティーメンバーとギルドへ向かうと一人ギルドの入り口で立ち止まった人が居た。その人に、リーダーの彼は当たり前のように後ろからぶつかった。

ぶつかられた彼は床に顔面からダイブしてしまった。


「何だその目は。早くどけと言っているんだ」


ぶつかったらまず謝るのが筋だろうに。

リーダーずらのクソ男はそんなことを言い捨てると、ぶつかられた彼はそそくさと立ち上がり、会釈しながら「すみません」と小さく口ずさんで横にはけた。

それを見るやいなやクソ男は他の冒険者を気にすることなく堂々と受付までの道をレッドカーペットのように歩いて行く。


「サモンズ様、ぶつかったのなら謝るのが筋ではないかと思います」


居ても立ってもいられず私はそんなことを口ずさんでいた。


「なんだ、アストレア。この俺様に指図しようって言うのか?これはこれは良いご身分になったことだな。お前がどうしてこのSランク冒険者の俺様のパーティーに入れているのか分かっているよな?」

「す、すみません」


マズいと思いすぐに謝るも、すでに後の祭りだった。


「分かればいい。でも、まぁ、お前の言うことも一理し、次からはそうする……よ!」


ウン子男はそう言うと、次の瞬間何故か不敵な笑みを浮かべると思いっきり私にぶつかってきた。その威力はすさまじく、私は吹き飛ばされてしまうが、さっきの彼に支えられ何とかこけずに済んだ。


「ぶつかったら謝るんだったよな。すまん、アストレア」

「大丈夫?」

「あ、ありがとうございます」


一瞬、本当に殺してやろうと思ったがそんなことをしてはダメだという理性が働き何とか心を落ち着かせる、と言うか何故か心が落ち着く。


「何ぐずぐずしてるんだ、早く行くぞ」


糞野郎の声に私は急いで彼らの元へ走って行く。

私を支えてくれた時、デジャブのようなものは気のせいだろうか。

そんなことを思い、もう一度支えてくれた彼の顔を確かめながらその場を後にした。





――――――――――――――――――――――――――




たくさんの作品の中から当作をお読み頂きありがとうございます!

いよいよ、ミドルの冒険が始まろうとしています。


続きが読みたい、気になる!と思った方はぜひ「お気に入り」と「☆☆☆」をいただけると嬉しいです。

執筆の励みになりますので、なにとぞー!


どうも、みっちゃんでした!(^^)!






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