第4話 冒険者にならんとす
「邪魔だ」
「うわっ」
思いもよらぬ後ろからの衝撃に思いっきり顔面からダイブしてしまった僕はその衝撃の正体を突き止めるため、倒れたまま振り向く。
そこには、見た目細身にもかかわらず、全身に重たそうな甲冑を身につけた男が僕を見下すようにして立っていた。
ギルドの中も静まり返っている。
「何だその目は。早くどけと言っているんだ」
その男は僕と目が合うやいなやそんなことを言い捨てた。
(タケル様、早くそこを退いた方がいいかと)
ケイの言葉に僕はそそくさと立ち上がり、会釈しながら「すみません」と小さく口ずさんで横にはけた。
それを見るやいなやその男は他の冒険者を気にすることなく堂々と受付までの道をレッドカーペットのように歩いて行き、その後ろには仲間と思われる四人が付いて歩いて行く。
その中の一人、自分の背丈ほどの杖を持った小柄な女の子が男の元に駆け寄り声を掛ける。
「サモンズ様、ぶつかったのなら謝るのが筋ではないかと思います」
「なんだ、アストレア。この俺様に指図しようって言うのか?これはこれは良いご身分になったことだな。お前がどうしてこのSランク冒険者の俺様のパーティーに入れているのか分かっているよな?」
「す、すみません」
「分かればいい。でも、まぁ、お前の言うことも一理し、次からはそうする……よ!」
サモンズと言う男はそう言うと、次の瞬間何故か不敵な笑みを浮かべると思いっきり女の子にぶつかって彼女を突き飛ばした。
そして勢いよく僕の方まで来て倒れそうになった彼女を支える。
「ぶつかったら謝るんだったよな。すまん、アストレア。」
「大丈夫?」
「あ、ありがとうございます」
「何ぐずぐずしてるんだ、早く行くぞ」
サモンズの掛け声に俺の腕の中にいた彼女は急いで彼らの元へ走って行った。
彼女を支えたときに感じたデジャブのようなものは気のせいだろうか。
そんな彼らは二階の方へ行き、しばらくするとさっきのような活気が戻って来た。
(感じの悪い方でしたね)
(そうだな。まぁ、ああいう奴はどういうとこにも居るよ)
そんな愚痴を脳内でケイと溢しあいながらギルドの受付の場所へ向かう。
「初めまして、わたくしメイと申します。初めて見るお顔ですが今回はギルドへの登録でよろしかったですか?」
僕が受付に立つやいなや、受付の女性は慣れた口調でそう言ってきた。
この人たちはギルドに来る全員の顔を覚えているのだろうかと少しぞっとする想像をしながらも、「そうです」と答えると、メイさんは「では、お名前とご年齢をこちらの紙にご記入いただけますか?」と一枚の紙を僕の前に出してきた。
言われた通り記入し紙を提出すると、メイさんがその紙に何かしながら俺に話しかけてくる。
「そうそうに大変な人に絡まれて大変でしたね」
「あぁ、見られていたんですか。恥ずかしい。あの方々は?」
「あの方々はサモンズ様と彼のパーティーです。彼は数少ないSランク冒険者で実力は申し分ないんですが、性格がどうもひねくれていまして、いつも私たちも困っているんですよ。」
「Sランクと言うのは?」
僕がそう尋ねるとメイさんは「ちょっと待ってくださいね」と言って、どこかに行ったと思えば数分後すぐに戻って来た。
「すみません、お待たせしました。こちらがギルドカードになります。」
「ギルドカード?」
「はい。こちらがギルド所属の証明書となります。ドロップ品等を換金する時に必要となります。」
「なるほど」
「そして、最後にタケル様の血が必要になるんですが……」
「血!?」
「そんなに驚かれなくても、1滴ほどですので。ちょっとチクッとするくらいですよ」
メイさんは右手に針を持ち、幼稚園児でも耐えられるくらいですので大丈夫ですよと言わんばかりの笑顔と奥の方に感じるこの位もできないんですかと言う目で見てくる。
Sだ。絶対メイさんドSだ。Sランクだ。
(タケル様、不純な考えは辞めてください)
(どこが不純だよ。至って真っ当な高校男児です!)
「それじゃあ、右手の中指出してくださいねー」
そんな僕の頭の中など露知らず、メイさんはマニュアル通り事を進めていく。
僕は刺されるとこなんで見たくもないので、顔をあさっての方向に向け、目を瞑り終わりを待つ。
「終わりましたよー」
メイさんのその声で僕は再び目を開け視線を戻す。
するとギルドカードの右上にDの文字が浮かび上がってきた。
「タケル様の冒険者ランクはDですね。初めはEの方が殆どなんですが、タケル様は冒険者に向いているのかもしれませんね。」
「そうですか!ありがとうございます」
「初回以外はご自身で血を垂らしていただくことで更新できますので、定期的にしていただくことをお勧めします」
「……そうなんですね。わかりました」
「ギルドへの登録はこれで以上になります。それと、ギルドからの支給品の剣です、木製ですが。それでは、頑張ってください」
「ありがとうございました」
僕はメイさんに別れを告げる。
冒険者ギルドのドアを前にして1つ深く息を付いた後、俺は今度こそと思い右足を前に踏み出した。
(よし、記念すべき冒険者での第1歩だ)
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