Beyond a man

「実は、僕人間じゃないんだ。」


『んなこたぁ~分かってるっ!

 さっさと起動させなっ!』


 操縦室コックピットに座る学ラン姿の男子が放った厨二発言を看破する無線機ラジオの女性。


主機関運転開始エンジンスタートっ!

 各種計測器準備センサー・セット&レディーっ!」


 後席には、レオタード姿の女性ナビゲーターがシステムを始動していく。


差動装置運転開始ディファレンシャル・セット&レディーっ!

 電圧・空気圧・油圧安定アクチュエータ・セット&レディーっ!

 起動しますっ!」


 ナビゲーターの声に呼応するように、真っ暗だったディスプレイに外界の風景が映し出される。

 ディスプレイの中央には、緑色の文字で各種システムの起動情報が上に流れるように表示されていく。


 外界は倉庫のようなコンクリート壁で囲まれた風景が広がっている。


「起動終了っ!

 何時でもいけますっ!」

 ナビゲーターが叫ぶ

『発進っ!』

 ラジオがガナリ立てる

「おいぃ~~~っ!」

 男子の悲鳴気味の叫び


 流れるような言葉の掛け合いを残し、巨大ロボットはカタパルトを使って基地そうこから外界へ出される。


「…ところで、僕は何故こんな所に?

 それに、君は誰?」

 運転席パイロットシートから立ち上がり、後席に身を乗り出してナビゲータへ声を掛ける男子。


「そうですね、挨拶が遅れました。」

 ナビゲータが男子に向かい顔を上げる。


「私の名前は…。」

 ナビゲータが名乗り始めようとした時、コックピット内に警告音が流れる。


『警告っ!

 会敵しますっ!』

 放物線を描き、自由落下をしていたロボットの眼前に外星系の怪物バケモノが待ち構えている。


「戦闘開始ですっ!」

 ナビゲータが視線を落とし、計器類を眺めスイッチ類の操作に入る。


「お…おぅ…。」

 慌ててパイロットシートに座り直す男子


「…で、僕はこんなロボットを操縦できるの?」

 男子の不安をよそに、バケモノの前に降り立つロボット。


 微動だに出来ない二つの物体。

 コックピット内は緊張感でピリピリしており、ラジオも沈黙したまま。


 じっくりとバケモノの様子を見ている男子パイロット

「???」

 あることに気づく。


 バケモノの視線が可笑おかしい…。

 何となく、こちらを見ないような仕草をしながら、チラチラっと視線を向ける様が、キョドッているように見えるのだ。

 短い前足もワキワキしているが、これも女子が組んだ手の人差し指同士をモジモジ動かしているようにも見える。

 ガニ股に開かれた後ろ足も、爪先は内股寄りで、気恥ずかしそうな立ち方にも見える。


「ねぇ、ナビゲータさん?」

 正面を向いたまま、視線だけ後ろに送るパイロット

「どうしました?」

 計器から目を離さず返答するナビゲータ。


「彼女、戸惑ってませんか?

 話しかけたほうが良いですよね?」

「はぁ~~~~あぁ~~~?!」

 パイロットの発言に驚きを隠さないナビゲータ。


「い…今、何と?」

「だから、彼女は戸惑っているように見えるんだ。

 だからね…。」

「あのバケモノは女性…なの…ですか?」

「ええ…。

 って、気付きませんでした?」

「そんな事、解るわけないじゃない!

 私も人間じゃ無いんだから!」

「スイマセン、話が解りません。」

「私だって解らないわよっ!

 だいたい、あなたも私も人造人間AIだし、気がついたら怪獣退治こんな仕事任されたのっ!」

「それって、命令を拒否できないんですか?」

「わたしらにはないから、拒否という選択肢はないわね。」

「そ…そんなぁ~。」

 二人共席から立ち上がり、喧々諤々の状態へ遷移し、コックピット内が大騒ぎになっている。


 ち・な・み・に、コックピットの会話は、外部スピーカーから盛大にだだ漏れ中…。

 だったので、バケモノがガン見モードに遷移し、ロボットの様子を伺っている。


「…自己紹介しましょうか。」

「そうですね、色々やり辛いですから。」

しばしの口論を済ませ落ち着きを取り戻した二人。


 自らの胸に手を当てるナビゲータ。

「ラビィです。」

 パイロットは深々と頭を下げる。

「タツローです。」

 無線機ラジオから女性の声が漏れる。

『ミホです。』



 …おやぁ?



 自らの胸に手を当てるナビゲータ。

「ラビィです。」

 パイロットは深々と頭を下げる。

「タツローです。」

 無線機ラジオから女性の声が漏れる。

『ミホです。』


「「ミホって誰?」」

 コックピットは勿論、ロボット周辺を眺め回すラビィとタツロー。


「「まさかっ!」」

 二人の視線の先にあるのは…くだんのバケモノ。


『こんにちは、ミホです。

 ”はじめまして”が正しいのかしら?』

 陽気に語りかけてくる女性の声


「なぁ、ラビィさん?」

「何ですか、タツロー君?」

「この無線機ラジオは、どこに繋がっているのかな?」

「勿論、どこにもわよ!」

「じゃぁ、基地で怒鳴り散らしてた女性の声は?」

「え・ん・しゅ・つ♫」


「…じゃぁ、ミホちゃんって、誰かな?」

「目の前のバケモノでしょ!」


『バケモノじゃないもんっ!』

 地団駄を踏むバケモノミホちゃん。


 おもむろにコックピットハッチを開くタツロー。

「ちょっと、何をする気?」

 ラビィは後席から困った表情でタツローを見返す。


「正体を確認する!」

 そう言って、外界に姿をさらすタツロー。


 それに呼応するように、バケモノのトサカ部分が二つに割れ、向こう側からも一人の女性が姿を表す。


 紺のセーラー服に、白いスカーフ。

 肩まで伸びた桃色の髪と白人を思わせる象牙のように白い肌の女性。

 眉毛の上に角と触覚のような長い毛をした器官が二対生えている。

 角は正面に迫り出し、角の根本から背面に向かって長い触覚が伸びている。

 ルビーのように赤い瞳と唇が妖艶である。


「右腕を相手の方へ!」

「了解!」

 タツローに促され、渋々ロボットの右腕を真っ直ぐバケモノの方へ差し伸べるラビィ。

 その腕に飛び移り、バケモノへ向かって走り出すタツロー。


 すると、バケモノもセーラー服少女ミホを乗せたまま、ゆっくりとロボットに歩み寄ってくる。

 やがてロボットの右腕の先にバケモノが到達する頃、タツローも右腕の先に近づく。

 バケモノから、ロボットの右腕に降り立つミホ。


 歩み寄るミホとタツロー。

 二人が手を繋ぎ語り合おうとした刹那

『ちょぉ~~っと、待ったぁ~~!!』

 ロボットの外部スピーカーから、ラビィの怒号が大音響で再生される。

 慌てて耳を抑え、ロボットの方へ視線を送るミホとタツロー。


 ラビィは叫び始める!


 Fin














 ドゲシッ!


 痛たぁ、何するんですか?


「おい、話が終わってないぞ!」

「そうよ!

 やっと物語が始まろうとしているのに…」


 え、いいんですよ。

 これ以上やると、本格的に話を作らないといけませんから。



 ドゲシッ!


 痛たぁ、何するんですか?


「そんな事するから、宿題を貰うんでしょ?」

「ちゃんと結末を示さなきゃ!」


 ええ~~、大丈夫ですって。

 もう、皆さんお腹いっぱいですって。


 ドゲシッ!


 痛たぁ、何するんですか?


 … Fade Out

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