祖母が怒る理由

影神

ただいまの後に



「ただいまー」


「お帰り。」 


このやり取りは何処の家庭でも当たり前の様にされる。



まあ、一人暮らしの俺には、


『お帰り』


なんて言ってくれる人は居ないんだが。


つい、


「ただいま」


と。クセで言ってしまう。



この間。ふとした出来事をきっかけに。


あの時の記憶を、思い出した。



俺は【霊感】と呼ばれるモノがある訳では無かった。


だけど何故か。祖母によく、


「変な者を連れて帰って来るんじゃないよ!」


と、怒られる事が多かった。



別に変な所に行った訳でもなく。


普通に帰って来ただけなのに。


玄関を開けて、


「ただいまー」


と言うと、祖母が怒った顔で玄関に来て。


「ここはあんたの家じゃないよ!


どうぞ、お帰り下さいな!」


そう、俺に向かって怒鳴って来た。



最初のうちは、それが何だか悲しかったし。


「どうして俺が言われなきゃならねんだよ!」


なんて事を、正直。思っていたりもした。



両親は共働きで。


俺は母親の実家で生活する事が多かった。



父親と母親は仲が良く無く。


俺が小さい頃から、よく喧嘩をしていた。



けれども俺の目の前でする事は無かった。


一応気を使って、俺が寝た後や居ない時にしていた様だ。


まあ、俺にはバレてはいたのだが。



そう考えると、どちらかと言えばあの時の環境は、


正しくは"別居"になるのかもしれないな。



喧嘩の原因は子供の俺には分からなかった。


きっと。


大人にしか分からない"大人の問題"があるのだろう。



父親も母親も。俺には優しかった。


普通だった。


ただ、祖母だけは俺に当たりが強く感じた。



「まったく。変な者を連れて帰って来るんじゃないよ!」



そう祖母に言われる度に。


「はーぃ。」


と、流す様にしていたが。


内心は少し、傷付いていた。



その度に祖母が夕食後の皿洗いをしている時に、


祖父はタイミングを見計らったかの様に、


俺に向かって、いつもこう言って来た。


「ごめんな?


別にお前の事が嫌いでああ言ってる訳じゃないんだ。


俺もよく言われたが。血筋?なのかも知れないなあ?



ばあさんは悪い人じゃないんだよ。


ああやって"変なの"から、私達を守ってくれてるのさ。」


「ぅん。」



俺はこの時間が嫌いじゃあ無かった。


祖母に怒られる度に。俺は祖父との話を思い出した。


だから祖母のその行為も。


何だか、有り難く思える様にもなって来た。



しかし、時とは残酷なもので、


祖母の事を理解しようと思い始めた頃には。



祖母は、亡くなってしまった。



祖父は葬儀の時に俺にこう言った。


「ばあさんは、お前の事をよく心配して居たよ。


何せ。大事な大事な、孫だったからねぇ。



夕飯のメニューも。お前が大きくなれる様に。


一生懸命、悩んで作っていたもんさ。



、、あの人は本当は、すごく。優しい人だったんだよ。



ただ。周りの人よりも見えるものが多くて。


それらのせいで、強く居るしか、無かったんだよ。



俺も、、見えてりゃあ。


少しはお前の笑顔を、沢山。


周りの人に、見させられたのに、なあ。。」


祖父は祖母の写真を強く抱き締めて居た。



俺もいい大人になった。



自立し。


今では一人暮らしをしている。



子供の時の一人になりたかったあの、衝動を。


今では強く、後悔している。



家に帰っても誰も迎えてはくれず。


夕飯のいい匂いも。温かい風呂も。


今の居場所には、何も。無かった。



【暖かな空間】



皆。それが欲しいから。


きっと"結婚"をするんじゃ無いだろうか?


と。そんな風に結婚の理由を考えてみたりもする。



けれど、残念ながら。


俺には、そんないい人は居なかった。



何かが充実していれば。


何かは充実しない。



本当に世の中は上手く出来てるものだな。


と、思う。


それとも。俺自身に何か。


"結婚出来ない理由"でも、あるのかも知れない。



祖母に孫の顔でも見せてあげられてたら、、



俺はそんな後悔を胸の何処かに抱えている。



あの日。


いつもの様に帰った。



「ただいま」


俺はクセでそう言った。



その日は何だか疲れていた。


いや。最近何だか酷く疲れている気がした。



玄関の鍵を締め。


靴を脱いで上がろうとすると。


目の前には祖母が居た。


「、、ぇ?


何で。。」


俺は涙が溢れた。


祖母「ここはあんたの家じゃないよ!


どうぞ、お帰り下さいな!」


祖母は怒っていた。


あぁ。


また連れて来ちゃったんだな。


そう、申し訳なく思った。



ばあちゃん。


ごめんよ?


そう言おうとした時。


さっきまでの怒った顔ではなく。


目の前には、優しい顔をしたばあちゃんが居た。



祖母「まったく。


変な者を連れて帰って来るんじゃないよ、?」



「ばあちゃん!」


手を伸ばし祖母の服を掴もうとしたが。


祖母は部屋の奥へと、行ってしまった。


「ばあちゃん!??」


急いでその後を追って部屋の電気を付けたが。


そこには、誰も居なかった。



「ばあちゃん、、


ごめんな??



俺。いつも怒られてばっかりで。。」



涙がズボンに垂れ、鼻水を啜ると。


微かに祖母の匂いがした。




























俺は久しぶりに祖母の家に帰った。



「ただいま」


祖父「お帰り。」



あの日。電話で祖母の事を祖父に話した。



すると祖父は、


「たまには帰って来なさい?」


と、優しく言ってくれた。



「、、ばあちゃん。


ありがとうな?」



俺は仏壇に手を合わせた。



祖父「ゆっくりして行きなさい。」



この家は、あの時のまま。


まるで時が止まっているかの様に。



何も。変わって無かった。



けれども、もう。


ばあちゃんは居ない。



夕食後。


あの場所で祖父は言った。



「ばあさんには見えて。


お前お父さんにも見えて。



見えないのは。俺とお母さんと。


お前だけ、、なんだな。」



そう祖父は悲しそうに言った。






























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祖母が怒る理由 影神 @kagegami

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