ささくれは燃やさなきゃ。

過言

赤い血が、ささくれから覗いていた

その日も僕は、祭りに参加していた。


地域に根付いた奇妙な祭りだ。年に一度、冬至のころに執り行われる。

祭りっていうのはもとは神事らしい。そうでない物もなくはないが、少なくとも僕の村の、その祭りはそうだった。

ある年、とある理由で、祭りは行われなかった。

その年、村は滅びた。


祭りの内容はこうだ。

その年、村の中で最も手の綺麗だった者をひとり選ぶ。

この者の指を供物として、一本燃やす。

どの指を燃やすかは本人が選んでよい。

また、このとき燃えた指は神に捧げられたことを明確にするため、生涯使ってはならない。

こうすることでようやく、手を汚した他の村人たちと対等というわけだ。

そして、晴れて村の本当の仲間になったその者と共に、朝まで飲み明かす。


いくらなんでも、しないっていうのは、我慢ならなかったらしい。

予想通りに。


その年一番手が綺麗なのは僕だった。

だから僕を残して村は滅んで。

僕は毎日、指を捧げさせられている。


例えば僕が小指を燃やすと、微妙な顔をする。

渋々人差し指を燃やすと、嬉しそうな顔をする。

両手の親指を燃やした日なんかは、顔が溶けていた。多分笑っていたんだと思う。


僕は、村人たちがどうして手を汚したのか知っていた。

この神の殺害が村人たちの悲願だったからだ。


穢れた血は、それだけで神殺し足りえる。

もう何百年も前から、村全体で血を汚す為に、「手を汚し」続けているらしい。

何をしているのかは、手の綺麗な僕には知る由もないことだ。

世代を経るごとに、きっと穢れは、血の中に蓄積され続けている。

神の側にもだ。

毎年捧げられているのだから。

自分の手を汚す必要も無いほど、既に汚れきっている血を。

神の側はそれを無邪気に、意味も分からず受け取り続け、喜んでいるのだろう。

そして今も、変わらず要求し続ける。餌を欲しがる雛鳥のようだ。

今はもう、村一つを滅ぼして、人間一人を閉じ込める程度の力しか残っていない。

弱っているのだ。

それこそ、僕一人の血でとどめが刺せるくらいに。

そのときを見計らって、

僕は託された。


村の奴らはクソムカつくけど、

こいつはもっとムカつく。

理由なんてそれで充分だ。


今日は人差し指を燃やそう。

ちょうどささくれができている。


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