43-危険人物は一人のみ

後から様子を見に顔を出してくれたジェスとマンダが、欠伸をする白銀に巻き付かれてダスクと一緒に拘束されている姿を見てギョッとした顔をしたのは面白かった。

何を見て興奮しているのかと部屋の中を見回し、ベッドの上で幼少期の俺の姿をしているアメを抱き抱えているのを見て何かを察したのか苦笑を浮かべる。


「昼食に声掛けに行ったはずなのに中々ポスカが戻ってこないからなんかあったのかと思ったら、どうしたんスか…その子?」


「ライアさんによく似ているな」


「あー、この子はアメって言ってな…。ついさっきタマゴから産まれたばかりのペット…いや、使い魔か?まぁとりあえず赤ん坊みたいなもんだな」


「あ…あー…おとうちゃん、わち赤ん坊ちがうもんっ!」


「うぉ、凄いっすね。言葉を話せる使い魔は初めて会ったっスよ…」


「ちっちゃくて可愛いな…飴舐めるか?」


「アメ?んぅ?…飴!ほちぃ!」


足元に寄ってきたヴィオラをジェスは抱き上げ木の実を食べさせながら、マンダと共に部屋の中へと入ってくると少しの発声練習の後、話し掛けてくるアメを見てさらに驚いていた。

だが、子どもの姿で無垢な笑みを向けてくるアメに口元を緩めながらマンダが懐から可愛らしい水色の水玉模様の包み紙の飴を取り出す。

目を輝かせて雛鳥のように口を開けて待つ姿に、包み紙を取ってからアメの口に飴玉を入れた後、思わずと言った感じにマンダは空いている方の口元を手で覆いながら顔を背ける。


『うんうん、分かるよー。アメ可愛いよねー』


『旦那はんの子供の頃の姿もかわえぇからなぁ。大人の姿やと普通にかっこいい感じやし』


『姉上、某いいことを思いついたのでござるよ。後でアメと…』


『お、えぇやん…うんうん。楽しそうやん!やろやろ!』


『白姉様と黒兄様がなんか悪巧みしてますの…』


『ヴィオ姉ちゃん…しれっとジェスから餌付けされてる』


『ポスカに主とアメは見せないんだぞぉ!』


『きゅうん、そろそろ…助けてくださいぃ』


「うぁぁぁん!私にも、私にもライアさんの子供の頃の姿をしているアメくんを愛でさせてくださいぃ!」


「ポスカはダメだ。アメに何するか分からないからな」


「…なるほど!幼い頃の自分ばかり構って欲しくないという嫉妬ですね!!なら、ライアさんにだったらナニしても」


「「「いいわけないだろっ!」」」


俺とマンダとジェスからツッコミと共に睨み付けられてしまえば、ポスカがしょぼくれながら床に悔しげに頭突きをしている。

アメには俺の幼少期の姿になるのはポスカの前では控えるように言わなければならないなと思いつつ、当初の目的である昼食に関しては部屋に持ってきて貰えないか話せば、快く受け入れて貰えたので安堵する。

色々とやりたい事はあるが、すっぽんぽんであるアメの服を急拵えとなるが作るとなるとなるべく部屋で過ごさせてもらった方が効率がいいのだ。


「ライアさん…」


「どうした、マンダ?」


「一回だけ…抱っこさせてもらいたいんだが…ダメか?」


「アメ、抱っこしたいらしいんだか大丈夫か?」


「あい!抱っこどうじょ!」


マンダが抱いても良いかと問うてくるのでアメに確認すれば頷いたのを見て差し出せば、抱っこをしてもらい喜んでいた頃の幼い己の姿を懐かしむように見てしまう。

マオ達のような兄妹も沢山いるし、成獣となる綠とルフも居るのでアメが退屈するような事はそうそう無いのではないだろうか。


『なぁ、ライア』


「ん?どうした、ルフ?」


『今、作ってみたんだけんど…このロープ、頑丈にしてみたんだべ!ポスカに使ってみてくんろ』


「いつの間に…。ありがたく使わせてもらうな」


「あ、ライアさん!やっと私の拘束を解いてくれるんですね!良かったぁ………え?」


「悪いがアメが他の姿に擬態するまではお前はこのままだ、ポスカ…」


「な、なぜですか!?いっいた!きつく縛り過ぎです!あれ、でもなんか…気持ち…いぃわけないですね!いたぁぁぁいっ!!」


「ジェス、マンダ…運んで行ってくれるか?」


「うわっ、綺麗な逆海老縛りっすね…。執務室に連れてって仕事させて来るっスわ」


「俺は厨房に行って昼食を持ってきます。アメくん、ありがとうございました」


縛り上げられているポスカを俵持ちするジェスと、アメを俺の腕の中に返して軽く手を振ってから部屋を出ていくマンダを見送る。

思わず深いため息が口をついて出てしまったが一旦色々なことを整理する時間が出来たことは有難い事である。

ポスカと一緒に拘束されていたダスクが俺の元に駆け寄ってきて泣いているのを宥めるように背を撫でていたが、暫く黙って様子を見ていた綠が口を開く。


『ふむ、落ち着いたようじゃな。ライア殿よ、箱庭の訓練空間が完成したんでの、今日か明日のどちらでも構わんのじゃが…そこの白いのか黒いのを連れて行っても構わんかの?』


「構わないが、白銀と黒鉄の両方じゃなくていいのか?」


『よいよい。一匹ずつみっちり地獄を味わわせる方が成長しやすいからのぅ』


『今なんか、すんごい耳を疑うこと言っとらんかったか…あの爺さん…』


『オラもちょっと確認したが、結構えぐかったからなぁ…。二匹とも頑張るんだど…』


『某、生きて帰れるのでござろうか…』


愉快そうに笑いながら白銀と黒鉄を見る綠に、ゾッとしたような顔をしながら身を擦り合っている。

今日からやるのは時間的にも中途半端なので明日からやろうという話になり、以降はアメと遊ぶべく綠とルフを交えてマオ達が色々と考え、昼食を食べた後で俺が服を作ったら庭で遊ぶことになったのだった。

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