44-人たらし+あざとい=危険?
最終チェックの為に綠は箱庭の中に戻り、簀巻きになっているアメを囲むようにしてマオ達と話をしている姿を横目に見つつ、インベントリからマオが当ててくれた布地の中から肌触りが良い物を取り出す。
裁縫キットを取り出すと裁断用の鋏を手に持ち危ないから傍に寄らないように声を掛けておくと、元気な返事が返ってきたので安心して布を切っていく。
ルフが興味深そうに俺の傍に来て各部位ごとに切り分けた布を摘みあげると、どうやって服にするのだろうかと首を傾げている。
『ライア、これ、どれとどれを組み合わせるんだべか?』
「ああ、コレはこっちの布と対になってこうやって合わせていくんだ」
『はー、なるほどなぁ…。これ、オラがやったらグチャグチャになっちまいそうだべ』
各布が揃えられると針と糸を取り出しルフに見せるために合わせておいたパーツを縫い合わせていく。
ふと普通の短パンとシャツを作成するつもりだったが、様子を伺うようにアメの方を見ればヴィオラを抱き抱えながら楽しそうに笑っている。
擬態できるとはいえ、周りの兄妹達が柔らかい毛皮を持っているのに一人だけ喋る為とはいえ俺の姿を真似ていて毛色が違う。
『ん、何見とるんだべ?』
「あー…いや、普通の短パンとシャツを作るつもり…というか、作ったんだがな…」
『もう完成したのがそこにあんべな』
「いや、我ながらこんなに早く作れるとは…じゃなくて。マオ達と遊ぶなら、同じ姿に近い格好の方が嬉しかったりするかと思ったんだ」
『そうだなぁ…オラ、同じ探鉱熊達から同じ仲間として扱っていいのか分からねって顔されまくってたかんなぁ…。でも、マオ達見とると皆容姿なんざかんけぇねって感じだからこの服で良いとオラは思うだよ。それに、ライアが作ったってだけで嬉しい方が勝つべよ』
ふにゃりと笑いながら話すルフの頭を両手でわしゃわしゃと撫で回し、簀巻きにしてしまったアメに取り敢えずは作ったシャツを着せる。
下着も手早く縫い上げて履かせてからズボンもしっかりと着用させるとクルクルとその場で回りながら確認するアメの姿が可愛い。
部屋をノックする音が聞こえてどうぞと声を掛れば、扉の開く音と共にコック姿のターニャが配膳台を押して入って来た。
「あれ、ターニャさん。マンダは?」
「急な商談が入っちまってね。部屋で食べると言伝貰ったから私が持ってきたのさ」
「すいません、忙しいのに…」
「話は聞いてるから大丈夫だよ。んでだ……ふぅん、この子が例の使い魔くん、かな?」
「うっ?ねーちゃ、だぁれ?」
「本当に念話じゃなく言葉を話せるんだねぇ…。それに、すっごく可愛いじゃないか!…っと、話が逸れたら飯も冷めちまうね。簡易テーブルを持ってきてるからコレ使うかい?」
「あ、お借りしてもいいですか?」
持ってきてもらった料理を載せるためのテーブルも借りてマオがヴィオラ達にも食べさせやすい料理だったので普段使っているスプーンも一緒に配置する。
今回アメに食べ方を教えてあげないといけないので俺が抱き抱えて食べようと思っていたのだが、ターニャがチラチラとこちらを見ては何かを言おうとするもすぐに口を閉ざす。
ターニャの視線に気付いたのか分からないが愛嬌たっぷりの笑顔で腕を広げてアメが見上げる。
仕上げと言わんばかりにこてんとアメが首を傾げれば、数刻前に俺がマオ達に向けていた唇を噛んで耐えるような顔をした後に、ターニャはアメを抱き上げて頭を優しく撫でる。
一連の様子を見ていたマオ達が困ったような顔をしながら話をしている。
『アメは…なんか、パパの人たらしの所継いでるよねー?』
『んー、アメの場合は計算入ってそうな気がせんか?』
『擬態する程知識が付くのでござろう。…む?そう考えると最初に小さな兄殿になっていたでござるよな』
『なら、あのあざとさはマオ兄様から学習したと言うことですの?』
『人たらし+あざとい=危険…?ママとアメは揃っちゃダメ…ってこと?』
『白姉様と黒兄様は擬態させたら絶対ダメって言うことは分かりましたの!』
『ボクはヴィオ姉ちゃんも擬態させたらダメだと思うよ…』
マオを中心に白銀とヴィオラ、セラフィがテーブルを囲んでおり、ウィンはルフの右足の上に、ダスクは反対の左足の上に乗って配膳の手伝いをしてくれている黒鉄を応援している。
俺はといえばターニャがアメにメロメロでそのままご飯を食べさせてくれようとしているので、急遽久し振りに誰の口にも料理を運ばなくていい状況になってしまった。
たまにはいいかと思いつつ、食事を取るのにいただきますをしてから騒ぐ様子を眺めながらチーズとキノコ類が沢山使われたリゾットと、ウィンや白銀の肉好きを考えてかブルルンのリブの香草焼きという献立である。
『ちょっ、待つでござるよ!ウィン、ダスク!お前たちちゃんと噛んでるでござるか!?』
『ぼく次これが食べたいですっ!』
『オレ様はこのリゾットが食べたいんだぞ!』
『いんやー!いい食いっぷりだべな!オラが食べる暇がねぇだ』
朝食もまだだった為か気持ちが良いくらいの食らいつき様に、俺とアメとターニャは一瞬惚けた顔をするも賑やかな食事を摂るのだった。
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