42-本物はどっち?
気絶している幽魂族の子供を手の平の上に乗せ優しく撫でていると、小さく震えてから咳き込むような素振りを見せる。
手の平の上で右へ左へ少し転がった後に宙に浮かぶと、紫水晶のようなつぶらな瞳と視線が合う。
口などは見当たらず二つの目と柔らかな球体に薄い紫の炎のようなオーラを放つ姿を見て人魂に近い姿だなと思う。
いや、本物の人魂はこんな可愛い目は持っていないのだが。
「さっき凄い勢いで跳ね回ってたが痛い所は無いか?」
『☆▽★…っ!』
『ふむ、チビちゃんすまんがこの子と向かい合って何秒か見つめあってやってくれんか?』
『僕?いいよー?』
何か言っているようなのだが聞き取れず首を傾げていると、綠が何かを察してかマオに声を掛ければ前に進み出て幽魂族の子供と暫くの間見つめ合う。
数秒後にパチパチと幽魂族の子供が二度瞬きをすると、眩い光が放たれ目を細めれば次の瞬間にはマオが二匹居た。
ポカンとしているマオが思わずと言った感じに自分の目を両手で擦り、同じ姿の人魂の姿だった筈の子供を見ている。
『おとうちゃ、わち、だいじょ、ぶ!』
「そ、そうか…長老、これ体に害は無いのか?」
『無問題じゃ。幽魂族は他の姿を借りて世界に溶け込む種族なんじゃよ。成り代わった者の知識を吸収するから沢山擬態してこそ誠の大人になれるって聞いた事があるわい』
『おとうちゃ、しんぱ、ありがちょ!』
男とも女ともとれる中性的な声色で声を掛けてくる幽魂族の子供は朗らかに目を細めている。
マオと同じ姿で俺の手に擦り寄る幽魂族の子供の姿を見ながら優しく撫でてやりつつ、今後の事を考えれば早めに名前を付けて識別出来るようにならないと困るのは俺だけではないと思う。
『ふむ、声を聞かねば兄殿と見分けが付かぬでござるな?』
『せやなぁ…ん?あ!瞳の色がちょこっとちゃうか…いや、気のせいやったわ』
『白姉様が天才になってしまわれたかと思いましたが、いつものポンコツでしたの』
『ボクは見分けがつくよ…!』
『えーセラの姉者には分かるんだぞ!?むー、オレ様は匂いも同じだから分からないんだぞ…』
『ぼくの鼻でも嗅ぎ分けできないです…悔しい…』
『ライアと居ると不思議な出会いもあって暇を感じる事もないし、退屈しねぇべなぁ』
セラフィがドヤっとしながら胸を張る姿に笑ってしまうも、見分け方がないか躍起になっている白銀達を見る。
紫水晶と言えばアメシストなのだが、そのまま付けるのも変だなと思い最初の二文字をいただく事にする。
見分け方についてマオも加わって話をしているのを横目に、幽魂族の子供を手の平の上に乗せると視線を合わせながら微笑みかける。
「名前なんだが、アメはどうだ?本当ならその瞳に因んでアメシストって名付けたかったが皆に沢山呼んでもらえる方が良いかと思ってな」
『アメ、わち、アメ!ありがちょ!』
『可愛い名前じゃのぅ。じゃけど、そんなに見つめ合っとるとライア殿…』
『ちゃぁと、しゃべる、なる!おとうちゃ、なる!』
「ん?どういう事だ?」
手の平の上に居たアメが嬉々として両手を上げて万歳の姿をになると、俺を暫く見つめた後にパチパチと二度瞬きをすれば再び光に包まれる。
「ライアさん、起きてますか?大分お寝坊さんですが昼食の方はどうし……え?」
『おとうちゃんになった!!』
「う、うん。なってるな?俺の子供の頃、かな?」
『わー!!パパのちっちゃい頃?かわいー!!』
光が収まると産まれたばかりの子供だからか完全に擬態する事が出来ず、中身の年齢に合わせてか幼稚園くらいの時の俺の姿がそこにあった。
擬態する時にその対象の知識を得るという事なので、姿を真似やすい頃が選ばれたのだろうがすっぽんぽんなのが頂けない。
インベントリから適当なローブを出して簀巻きにしていると、ノックをした後に扉を開けて中へ入ってきたポスカがなんとタイミングの悪いものか。
「な、なななな!なんですか!?大人なライアさんと子供のライアさん!?え、なんですか、この最高なハッピーセットは!?」
『アカン!ポスカを撃退せな!』
『お尻をガブッとしてやるんだぞ!』
『じゃあ、ぼくは股間に噛み付いて一生使えなく…』
「やめろ、ダスク。見ただけで俺も痛い」
『きゃうん!我慢して足にします!』
今にも飛びかかってきそうなポスカに反応した白銀が告げると、ウィンとダスクが任せろと言わんばかりに動く。
ベッドを飛び降り先ず最初にウィンがポスカの尻に噛み付くが、痛みを堪えながら歩き続ける姿に執念のような物を感じる。
これはダメだと思ったダスクが足に噛み付くと、ポスカの動きが止まるものの悔しさからか血の涙を流している。
『甘噛みしてるけど、思わず力を加えたくなるくらい力強いんだぞ!?』
『しゃあない、わても加勢しちゃるわ』
「うぁぁぁ!三匹で来るなんて狡いですよぉ!!」
『そもそも三匹で行かないと止まらない時点でこっちこそ驚きなんですの…』
『ほんと、それだよね…』
『まぁ、姉上が巻き付けば万事解決でござる』
『わー!なんでぼくまで一緒に巻き込むんですかー!?』
『か、間一髪だったんだぞ…』
動きが止まったのを見計らい白銀がポスカの体に巻きついて拘束するも、逃げそびれたダスクがポスカの足に噛み付いたまま身動きが取れずキュウンキュウン鳴いている。
直ぐに尻から離れたウィンは安堵の息を漏らしながら悔しげに白銀に拘束されたポスカの顔の前に陣取ると、アメと俺の姿は見せませんと言わんばかりに睨むというシュールな図が出来上がったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます