40-朝は花畑が見えやすい
鈍い頭の痛みを感じながら目を覚ませば、寝心地のいいマットレスの柔らかさと普段なら窓から入ってくる陽の光で起きるのだが、遮光ガラスが目の前にありカプセルの中であることに気づく。
この中で目を覚ますのは何度目だろうかと思いつつ、朧気な記憶を呼び覚まして昨日の事を思い出す。
Zと名乗った運営の方と軽く話をした事は覚えているのだが、その他にも何か重要な事を聞いた気はする。
「ん?ヤバい。もうこんな時間か…マオ達が怒りそうだな…」
カプセルの外に出て伸びをしながら備え付けの時計を確認し、昼に近い時間であることを確認すれば俺は焦りながら部屋の掃除や洗濯を手早く済ませる為にせっせと動く。
食事も出来れば摂りたかったが、早く休んだというのに幼馴染や祖父の件で疲労が倍溜まっていたのかもしれないと思えば、無意識に苦笑いを浮かべる。
「早々にログアウトしたが、ポスカと何かしらバトってそうで怖いんだよな…」
床に掃除機を掛けつつ、ちゃんとマオ達はご飯を食べた後に部屋に戻ってこれたのか不安になる。
いざとなればダスクの鼻を使って辿り着くとは思うが、一緒に就寝する事が多かった事もあり心配が募る。
親役のルフも昨日は箱庭で長老と過ごしている筈なので、本当に子供達だけの状態なのだ。
「…いかん、心配過ぎて集中出来ない。明日ちゃんとやろう」
洗濯済みの干し物だけは手早く済ませ、掃除機を所定の位置に戻すと足早にカプセルの中に横になる。
目を閉じ起動の言葉を告げれば、機械の稼働音がすると意識が引き込まれる。
何かが動く気配に薄目を開けると俺の顔を目掛けて何かが飛びかかって来ているのが視界に入った。
『今日のパパ殿を起こす係はぼくなのです!とりゃぁぁぁっ!』
『オレ様も混ざるんだぞー!』
『ちょっと待つんですの!二匹がかりでやるもんじゃないですのっ!』
「おは…ぐっ!!」
柔らかな毛が顔面に覆い被されば、紡ごうとした俺の朝の挨拶が途切れ苦悶の声を発する事になる。
一度だけの衝撃なら良かったのだが、更にその上に重い物が乗っかるような衝撃に口が完全に塞がれてしまえば剥がそうと思い手を己の顔へと伸ばそうと試みる。
しかし、試みてはいるが身体に何かが巻き付いている用で腕が動かせない。
『きゃふんっ!なんでぼくの上に飛びかかるんです!?ウィン兄早く退くのです!』
『オレ様にゲームで勝ったからいけないんだぞ!退いて欲しかったらごめんなさいするんだぞ!』
『り、理由が理不尽です!!』
息が出来ないせいで苦しさにどうにか起きている事を伝えようと頭を振るが、上にのしかかっている者同士がじゃれているせいで伝わらない。
足先を動かすとその上にも何かが乗っていたようで転がり落ちたような感覚が伝わった気がする。
『んん?なんなのー?』
『マオ兄ちゃん。あの二匹退かさないとママが起きた時、大変』
『ホントだー!コラー!何やってるのー!?パパの上から退きなさーい!』
『うぅん…騒がしいでござるな…』
『ヤバいですの!マオ兄様が来ましたの!ウィン、ダスク!早く退くんですの』
呼吸が出来ないせいで遠のきつつある意識の中でも辛うじて交わされている会話を聞き取ることは出来たが、マオの一声で慌てて退いたウィンとダスクの重みが顔から無くなり、一気に酸素を取り込んだせいで肺が驚いのか咳き込んでしまう。
俺が起きていると気付いたウィンとダスクが嬉しそうに寄ってきて頬を舐めるので擽ったく感じつつ、マオやヴィオラ、セラフィが傍に来て顔を覗き込んでくる。
黒鉄の声も聞こえたので何をしているのだろうかと思い、視線を巡らせると白銀の長い尾を持って忙しなく動いている。
『おはよう、パパー!大丈夫?ウィンとダスクは僕が叱っておくからね!』
『おはようですの、とと様!ウィンとダスクを止められなくてごめんなさいですの…』
『むしろ煽ってたもんね、ヴィオ姉ちゃん…』
『しーっですの!』
『ヴィオもお説教ねー?』
『うわぁぁん!セラのおばかー!ですの!』
『お説教は嫌ですぅ…』
『今回だけは許して欲しいんだぞぉ…』
尻尾を後ろ足に挟んで耳を伏せたヴィオラとダスクが震えながら、仁王立ちをして目を細めているマオを見てクゥンクゥンと鳴いている。
ウィンは耳を伏せると俺の顎下に頭を突っ込み隠れているつもりなのか尻尾を丸めて伏せている。
『ったく、寝る時に若の足以外には巻き付くなって言っているのになんでこう言う事聞かないでござるかなぁ、姉上!?』
『んぅぅ、旦那はぁん…今日の朝飯は…ステーキ…を…』
『寝ながらリクエストするんじゃないでござるよ!』
先程から黒鉄が飛び回っていたのは巻き付いていた白銀を剥がしてくれていたようで身体が自由になると、開放された両の手でマオ達を撫でて行く。
「おはよう、ちゃんとこの部屋でマオ達の起きた姿を見れて安心したよ。またこうやって俺だけ早く寝る事があっても大丈夫そうだな」
『ちゃんと僕達だけでも過ごせるよー!でも…やっぱり夜はパパにおやすみって挨拶してから寝たいなぁ…なんて…』
『マオ兄ちゃん、あざとい…』
耳を伏せながら俺の様子を上目遣いで伺うように見てくるマオの姿になんとも言えない顔をすれば、畳み掛けるように黒鉄やセラフィ達も参戦してきて、その可愛さに唇を軽く噛んで悶えた後に分かったと告げる。
喜ぶマオ達を見ながら体を起こせば、この子達に俺が勝つ事は怒る時くらいしかないんだろうなと思う。
白銀だけまだ夢の中なので起きたらご飯にしようと話をすれば、昨日してあげられていなかったブラッシングやマッサージをマオ達にしてやるのだった。
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