40-呼び止める者・後

微笑みを浮かべながら俺を見つめるZに言い表し難い何かを感じるが、あまり調子に乗っては行けない何かがある。

暫しの沈黙が痛く感じていたが、Zはまるで世間話をするように言葉を紡ぐので俺はそれに真剣に耳を傾けた。


「うん、君には少しこのゲームに関して話をしようか。俺がこのゲームを作ろうと思ったキッカケも交えてね」


「は、はい…」


「そこまで緊張することはないよ。気楽に聞いてくれればいいから…さて、じゃあ動機に関してだけどある柱から話を持ちかけられてね。滅びゆく世界の魂達を救済してくれないかって。最初どうしようかと思ったんだけどさ。受け入れるべき場所が無いから断ろうとも思ったんだよ、最初は」


「い、いきなり壮大ですね?」


「これを説明するにはどうしてもそこから話さなくちゃいけなくてねぇ。つまらない話かもしれないけど聞いてよ」


Zの口から紡がれる言葉は人が理解するには中々に難しい内容となりそうである。

しかし真剣に語ろうとする姿に、あまり不用意に話を中断させるべきでは無いと思い俺は小さく頷きながら口を閉ざす。

聞く体勢となった俺を見て満足気にZは頷きながら言葉を紡ぐ。


「新たに世界を産み出して維持するのにはかなりエネルギーが必要だし、忘れられつつある俺達には中々に難しい事でもあったんだけどさ。子供達が文明の機器を使って新たな世界をデータ領域に産み出して管理してるのを見てピンと来てねぇ。この方法だったら俺達の力の消耗も抑えられると思ったんだ」


一度そこで言葉を区切るとZは珈琲を一口と、クッキーを一枚を食べて小休憩を入れる。

俺は口元を手で覆いながら今までの話を噛み砕けば、この世界は人ではないそれよりも遙か上の存在が作り出したという事だろうか?

それを俺達は嬉々としてプレイし、様々な楽しみ方をしながら過ごしていると考えると心臓が早鐘を打つのが分かる。


「この世界を作り出す為にお願いをしてきた8つの柱が俺達と要となる存在に神格を捧げる事でリリースするまでの時間を稼いだんだ。最初はかなり不安定だったけど搭乗者である君達が接続した途端、世界は簡単に安定したんだ。君たちの高揚感や満足感、好奇心のような正の感情を俺達の力に変換されるようにプログラミングしたけど、それが大成功だったんだよねぇ」


あの最初に踏み締めた草原の草の柔らかさや青臭い独特な香りを嗅いだ時の高揚感は今でも忘れられない。

現実で仕事へ向かう時のような憂鬱な物ではなく、これから経験したことの無い何かを経験出来るかもしれないという期待に胸が震えた。

初めて会ったNPC達は現実の人々と遜色なく会話を楽しめたし、魔法や剣などのファンタジーな部分も楽しめる素晴らしい世界であるとも思っている。


「君達がこなしているクエストの一般的な討伐クエストは俺達が考えている物だけど、貴重なクエストはNPC達の後悔や生前の願いが関連してたりする。貴重だからこそ受けた本人がちゃんと遂行できるように秘匿の制限を付けさせてもらったりしてるんだよ」


「……NPC達が復活できないって言うのは」


「彼等の魂が輪廻に帰るから、だね。彼等の後悔を払えるか否かは君達次第だけど…クエストとなると躍起になる所があるから良い感じに消化されてて有難いよ。ああ…喋りすぎちゃったなぁ。またOに迷惑が掛かっちゃうから君の記憶を俺と会って簡単な世間話とアンケートを受けた感じに弄らせてもらうよ」


ごめんねと言いながらZが手を合わせた際に、頭痛が襲ってきて視界が歪むような感覚に襲われる。

何とも言えない感覚に眉を寄せた後に目を伏せると俺は意識を手放した。



ーーーー


一方的にこの場に招き入れたライアに己の落ち度で話し過ぎてしまった事を後悔するも、あの種族を選んだだけあって命を大切にする善良な子である事に安堵し終始笑みを浮かべてしまった。

対となる種族を選んだ子にも接触しなければならないが、対人恐怖症という事で色々と苦労をしていると言うのは耳にしている。

可憐なあの子を見て周りのNPCが庇護欲を感じて放っておかないそうだが。


「ライアくんの記憶を弄っておいて謝罪だけってのは申し訳ないよねぇ…。そうだ、お詫びに報酬の良いクエストをあげよう。今回のイベント運営で欠かせないポジションだから大変かもしれないけど、その分報酬は実装予定のホーム建築用の土地購入権とレア度の高い貴重なランダムBOXでいっかな」


目の前にウィンドウとタイプ用のキーボードがZの前に現れると、慣れた手付きでクエストを作成すれば目の前でライアのリストバンドに送信する。

無事に届いたことを確認してからライアをログアウトさせるも、一番伝えておこうと思っていた事を話忘れていたことに気づく。


「あちゃー…。NPC達の行動を運営である俺達が介入できないって伝えとこうと思ったのに…。まぁ、ライア君なら上手く対処してくれるよね」


苦笑混じりに告げながらライアと話していた時の事を思い出し、あの時はよくまぁ簡単に大丈夫だろうとか思ったなぁと思うも、結果的にはこの選択が双方の願いを叶えるキッカケともなっているので良い判断だったと言えるだろう。

この世界を旅する彼等が退屈しないようなイベントを作る為にも、もっと精進しなければならないなと思いつつZは会議室を後にするのだった。


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