38-鬼ではなく犬疑惑

兎にも角にも状況が状況なのでポスカに対する凍てついた対応は今回の件により多少緩和されるだろう。

正直、ナイスタイミングで神威が連絡をくれたと思う。

祖父の件がなければあの肩身の狭い空間が継続していたと思うと胃の痛みで暫く再起不能となっていた気がする。

マオ達の食事もまともに作れていなかった可能性が頭を過ぎるが、俺が大好きなペットたちの事だから飯に異様な拘りのある白銀以外はきっと寛大な心で気遣ってくれていたとは思うが。


「取り敢えずは…幼馴染は何とかなりそうだな…」


『ライア、なんかオラも手伝える事があんべか?』


「そうだな…。ルフは物作りも得意だったよな?」


『おう。大抵のものなら作れるだ』


「それが重いものでも問題ないか…?」


『物によるっちゃよるだが…何を作らせる気だべ?』


「いざと言う時の為なんだがこう言ったものをな…」


『うへぇ…よく考え付いたもんだべ…。材料はなるべく硬めのものがいいなら長老に少し相談してくっから箱庭さ入れてもらっていいべか?』


「分かった。必要な材料は後で教えてくれると助かる」


俺の話を聞いたルフが眉を顰めるもののこれぐらいしないとダメな相手である事を理解してくれたのか、綠に逢いに行くと言うので箱庭の中へと移動させる。

俺とルフのやり取りをじっと見ていたポスカが徐に立ち上がると、こんなに動くの早かったか?と思うレベルの駆け足具合で傍に駆け寄り俺の前で膝を付くように座る。

何度か瞬きをした後に声を掛ければ満面の笑みを浮かべてご褒美を強請ってきた。


「ライアさん!私役に立ちましたよね?幼馴染さん達にも認められた様なものですし、もっとアプローチしてもいいんですよね!?」


「いや、認めたって訳じゃなく絡むのを大目に見るという感じだと思うが…?」


「それは私からしたら認めてもらったという事と同義!ライアさん、深く考え過ぎですよ!」


「そう、なのか?…俺の考え方が間違ってるのか?」


『いや、旦那はんは間違っとらんやろ』


『幼馴染さん達、パパに迷惑が掛かったら殴り込んでくる雰囲気あったよー?』


『アレはどう見ても認めたではなく大目に見るって感じですの』


ポスカの勢いに戸惑う俺だが、考え方に疑問が浮かびつつあった所を白銀とマオ、毒舌担当のドジっ狐ヴィオラが意見をくれる。

そうだよなと思いつつ、今の内にNGに当たる線を明確にしておかねばいけない気がするのでそちらの話へと持って行く。


「ポスカ、俺に対するNGな行動を明確にさせておきたい。知らぬ内に琴線に触れて幼馴染を召喚して詰められるのは嫌だろう?」


「私は別に構いませんよ?あの手この手を使って論破するのみですから!」


「いや、舌戦を繰り広げられるとここで働く皆や俺が居心地悪くて空気が凍るだろう。そうならないようにちゃんとしておこうって話だ」


「むぅ、仕方ないですねぇ。ご褒美に頭を撫でながら話してくれれば、ちゃんと考えます!」


『うわ、ずる賢いんだぞ…』


『なんというか強か?でござるな』


『黒兄ちゃん、正直に面の皮が厚いって言ってあげた方がいいよ』


『セラ姉がヴィオ姉の毒舌に染まりつつあるのです…!!危険なのです!!』


酷い言いようだなと思いつつ、ポスカに話を聞く体勢を取らせるには致し方がないので頭を撫でてやれば、錯覚かもしれないが犬耳と尻尾があるように見えてしまう。

鬼の血と言っているが実は犬の獣人なのではないかと思うも、持ち前の怪力を思い出せば後者はありえない事が分かるが。

不満げにポスカを見るマオ達が何かしでかそうものなら直ぐに対応できるように、噛み付く位置や攻撃を仕掛ける場所をコソコソと話し合っている。

俺には全て筒抜けだが、ポスカの頑丈さなら問題ないと思い黙認した。


「ライアさんからの頭なでなで…へへへっ…」


「先ず、俺の普段の生活や私用で出かける時に尾行をさせることは止めるてくれ。何か危険な依頼があった場合にはサポート目的でやるのは構わないが、いまのままだと俺のプライバシーが筒抜け過ぎる」


「えぇ!?ライアさんに色目を使う輩や害を加えそうな人間を把握するのには大事なんですよ!?後、隣を狙うヤツとか暗に消すためにも!!」


「最初と最後の条件を満たす人間はそうそう居ないし、暗に消すとか簡単に言うんじゃありません」


『パパ…呆れてるせいか口調が親みたいになってるね。僕達と話してる時みたーい!』


『普通に似合うから違和感ないんよなぁ…。わて等を叱る時と同じ口調やからか?』


『とと様が本当に叱る時は目が笑ってないから恐怖ですの。今はまだ言えば分かってくれると言う期待があるから優しめな口調ですの!』


『主に叱られてるのは姉上とやり過ぎた兄殿、それに何も無い無い所で転けて花瓶とか割って隠そうとするヴィオでござるがな』


俺の怒り具合なら一番知っていると言いたげな白銀とマオとヴィオラ、黒鉄のツッコミを聞きつつも、納得していなさそうなポスカの説得を試みる。

しょげながらもポスカに尾行はつけないと約束させることが出来た事に安堵の息を漏らすも、何か抜け道はないかと模索するような面持ちに頭を撫でる手を離して俺はデコピンを喰らわせるのだった。


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