37-話は逸れても案が固まる不思議
煙草を吸う女性の団員、カンナに協力してもらいダンジョンからの帰還祝いに目を付けた冒険者が立ち寄る酒場を張る事にした。
普通の客を装い利用する必要があるのでファンビナ商団の顔として知られているジェス、マンダを除いた団員でローテーションで時間をずらして見張ってくれるように話を進める。
「えっと…その見張りには、カンナも行ったりするのか?」
「ん?そりゃあねぇ。馴染みの酒場だしマスターともそこそこ仲がいいからねぇ。それとなく情報をくれるようにも言っておきたいから話も纏まったしこれから行くところさぁ」
「そ、その…都合が悪くなければ、俺も一緒に行っても良いだろうかっ!?」
「え、あぁ…別に構わないけどぉ…。兄さん、酒は強い方かい?あそこの店は酒が強いのばかり揃えられてるからねぇ」
「問題ない!これでも酒は強い方なんだ!」
「なんか、韋駄天食い気味じゃない?」
「勝気な漢気ある女性が好みと前に私と飲んだ時に言ってましたね…ストライクゾーンかもしれませんよ?」
「嘘でしょ!?っていうか、リヒト…。お酒飲むのになんで私を誘わないのよ?」
「椿が下戸だからですよ…。アナタの介抱は私と韋駄天には荷が重すぎます」
酒を飲んだ時の椿を思い出してか遠い目をするリヒトを見て俺は少しだが羨ましさのようなものを感じる。
仕事の忙しさにかまけて彼等との交流を断っていたのは俺のせいでもあるのだが、それだけ心に余裕をもてない生活をしていたという事でもある。
頭に顎を乗せていた白銀が退くと長い身体を伸ばして俺の顔を覗き込んでくる。
『旦那はん、大丈夫かいな?顔色が少し悪いように見えるで?』
「あぁ、大丈夫だよ。心配してくれてありがとな…白銀」
『お、おん…なんや素直に感謝されると照れくさいねんな』
『普段おふざけが過ぎるからでござるよ。若はいつも某達を気遣って優しくしてくれるし、感謝も忘れないでござる』
『白はいっつも食い意地とおふざけが先行しちゃうからねー。芸人気質ってやつかなー?』
『その割にはあんまりウケなくて滑ってる時が多いですの!』
『ヴィオの姉者の毒舌が出たんだぞ…』
『ヴィオ姉ちゃんも結構ポンコツなのにね』
俺の気分を盛り上げようと声を掛けて来てくれるマオ達に感謝をしつつ、最初の見張りにはカンナと韋駄天が酒場に行ってくれるという事で話が纏まる。
その後も事前の人柄の把握も兼ねて各団員とペアを組む事にした。
順番としてリヒトの後に椿、椿の後に俺という形になりそうである。
俺とのペアに自分がとポスカが名乗り出るも、まだ未成年で酒が飲めないという事もあり泣く泣く辞退していた。
「うっ、私が成人していたら他の団員にライアさんを任せるなんて事なかったのに…」
「…噂には聞いてたけど、団長が惚れてるっての本当だったんだねぇ。あんなに気をつけてたのにさぁ」
「そんなに厳しい訓練みたいなのしてたのか?」
「どんな美人にもなびかないように先代の団長がそりゃもう、自分の姿を反面教師としなさいって感じで見せ付けてたよぉ?まぁ、悪い例ではあったと思うけど…相思相愛同士の惚気の見せ付けだからあんまり意味は無い気はしたねぇ」
「胃袋は鍛えられなかったので私はライアさんの真心の籠った料理に陥落されましたが…でも、後悔はありませんし…早く手に入れないとライバルが増えると気が気じゃない日々を与えてもらってます!」
ガックリと膝を付きながらもポスカが床を叩きながら悔しげに告げた言葉に幼馴染達が顔を見合わせると首を傾げる。
俺の実家で何度か食事をした事があるのでその時の記憶を掘り返しているのだろう。
「ライアの料理そんなに美味しいの?」
「そういや、俺達食べたことないんじゃねぇか?」
「何言ってるんだ?たまに俺の家で飯食って帰ってた時に俺が作った料理も一、二品混ざってたんだぞ?」
「マジで!?ママさんが全部作ってたんじゃないの!?」
「そう言えば時折焦げてはいるものの、味付けが丁度いい煮付けや生姜焼きが出てたりしてましたが…まさか?」
「俺が作った奴だな。料理が面白そうで母さんに少しずつ習ってたんだが俺そっちのけでお前達が騒いでる時に作って出したりとかしてたが、あの時は加減が分からなくてよく焦がしてたんだよな」
「…あのママさんの料理の腕を引き継いでたらそりゃ美味しいわよね」
昔はよく考えが合わなくて喧嘩になっていた三人の仲を仲裁するのも面倒くさい時があり、放置している間に母に料理を教わっていた懐かしい記憶が蘇る。
そのお陰で今はマオ達を満足させられる美味しい物を作れている事には感謝しかない。
話は脱線したがそろそろ何人か冒険者達が帰還してもおかしくない時間なのでカンナが動くと、韋駄天もそれに反応して立ち上がり部屋を出ていくのを見送る。
「私もじぃじと遭遇する事を考えて他にも対策する為に独自に調べてみるわ」
「ギルドの方で何か問題があったようなので私もこの辺でお暇させていただきます。ライアがここの拠点にまだ世話になるなら何かあれば連絡してください。足を運びますから」
「商団長くん、色々と意地悪しちゃって悪かったわね。あんまりライアに迷惑は掛けんじゃないわよ?」
椿とリヒトもソファーから腰を上げると紅茶や菓子など美味しかったと告げながらそれぞれポスカにも挨拶をしてから拠点を去っていく。
どっと疲れが押し寄せてくればソファーに深く凭れるように背を預け、疲れたと言わんばかりに大きな溜息を吐きながら天井を見つめる俺を気に掛けるマオ達とポスカが部屋に残ったのだった。
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