36-嵐の前の準備

頭を抱えて溜息を吐く俺と椿達を見て困惑しているポスカ達にどう説明したものかと頭を悩ませる。

母さん達が祖父とArcaを一緒にプレイする事になったのは多分、気分転換の為にと言ったところだろう。


「どうするべきかしら…パパとママにもう少しゆっくり来てと言った所で逆に早くラビリアに辿り着く可能性があるから下手に動けないのよね…」


「そもそも、何故こんなに早く動いているのかですよ…。まさか、今回のイベントを求めてだったり?」


「それは有り得る…だが、爺ちゃんや母さん達がペットを連れているようには見えなかった」


「そういや、この街には成獣召喚ってのがあるんだろ?それ求めてだったりするんじゃねぇか?」


「………俺のせいじゃないか」


「え、あのワールドアナウンス…アンタだったの!?」


「ま、まぁ…成り行きで…」


正確には広場で連れていたペット達が、たまたま店の主達に絡まれたという感じなのだが召喚陣を直したのはマオの拾い物のお陰でもある。

いやしかし、それがこんな状況を釣り上げる餌になるとは思わないだろう。

本当に自分の行動には気を付けなければならないなと思いつつ、心配そうに見てくるマオ達の頭を優しく撫でながら祖父の気を引くことが出来そうな物を考える。

一に筋トレ、二に拳、三が健康、四が死闘と言えそうな順番で生きている人なので、美味しい料理などではまず満足しないだろう。


『パパー、パパのお爺ちゃんはどんな人なのー?』


「…よく言えば健康的なお爺ちゃんだが、悪く言えば戦闘マニアのトラウマ製造機…だな」


『え…ちょっ、なんや物騒すぎんか?』


『齢の行っている方なら落ち着きがある筈では?』


「落ち着きのない子供の心を忘れないパワフル爺さんだ…」


『逆に見てみたくなるんだぞ…』


『でも、皆さんの反応から…なんか、悪い予感がしますの』


「ポスカ、一つ聞きたいんだが…この街に腕利きの戦士が居たりしないか?」


「ふむ、そうですね。迷宮でのドロップ品を集めて生計を立てている猛者達が集まる酒場がありますよ。下層のレア物を狙う人々ではありますが、チームを組む方々で探すと個々の腕はピンキリなので殆ど博打みたいなものですね」


俺がポスカに問いかければ、顎に手を添え暫し考える素振りを見せた後に懐からベルを取りだして鳴らすと、部屋の扉を開けて待機していたのであろうメイドが姿を現す。

紙とペンを持ってきて欲しい旨と、人の名前を告げれば軽く頭を下げてから部屋の外へと去っていく。

それを見送ってから再び話を戻すようにポスカが言葉を紡ぐ。


「チームではなくソロで活動する人々の方が商売敵に見せたくないようなスキルや切り札の一つや二つは確実に持っているでしょう。ライアさんの望むような腕のある人が見つけられると思います」


「ふむ…ソロで活動してる人達と接触するのは簡単だったりするか?」


「難しいでしょうね。ソロで活動する人々は数日掛かってもいいように食料と道具を全て異次元袋に詰めて行動します。中の食料と道具がドロップ品と全て入れ替る位を目安にダンジョンから出てくるような生活をしていますから」


「そうか…。それだけ長い期間ダンジョンに潜っていたら気も張ってるだろうし話をするのも断られる可能性もあるか」


「中にはそういう人も居ますね。今、最近の冒険者達の行動を知っている団員を呼びに行かせているので少しお待ちください」


『なんか、いつもパパ殿の周りを彷徨いてる姿とは全然違います!』


『んだな!オラはこっちの真面目な感じの時の方が好きだべ』


『ボクは違和感が凄い…』


マオ達もそれぞれポスカに対する認識が変わってきているように思ったが、時折ご褒美くれますよね?という感じにチラチラ見られている俺からしたら何を求められるか気が気じゃない所なのだが。

椿も話を黙って聞いていたが、時折目配せをして韋駄天を見ているのでお前も何か言えと押し付けあっていた所にリヒトが不意に口を開く。



「打てば響く知識量の持ち主なんですね…。正直少しナメてました。商団長として情報を武器として使う所を見てライアへのアプローチを続ける事は許そうと思います」


「えっ…そこまで言っちゃう?この子、尾行も付けてたのよ?」


「でも、ライアも気付いただろうし呆れているだけならまだいいんじゃないか?そういう面は嫌だと思ったら自分で言えるやつだしよ!」


「とにかく、今回の件が無事済みましたら私や椿、韋駄天は口出ししない事にします。但し、ライアがブチ切れた時には徹底的に潰します」


格好よく決めているが祖父の件が上手く纏まりそうなのがポスカのお陰なので、現段階で責め立てる要因が無くなってしまっただけだろうと思う。

まぁ、椿達が何かやらかしても俺がブチ切れることは大いにある。

この後、メイドがメモ帳と羽根ペンを渡す為に入室し、紅茶のお代りを持ってくると告げて退室すれば、入れ替わるように呼ばれて部屋に入ってきた団員がポスカから少し離れた位置に腰掛ける。


「一番簡単な方法で行きましょう。私の商団に直接呼び出し現在手に入れている素材を売ってもらえるよう交渉の場を設けようと思います」


「簡単に言ってるけど呼び出しに応じるもんなの?」


「ウチの商団と直接素材のやり取りをしたい冒険者が大半だよ。馴染みの商店に売りに出したとして適正価格からそれ以上の金額で買ってもらえる事なんざぁ中々ねぇのよ」


「…それが下層の品であっても、ですか?」


「おぅよ。高品質の物を馴染みだからと安く購入できるよう交渉して手に入れるなんざぁ常套手段。私腹を肥やして豚のように強欲になった悪どいヤツらはウジャウジャってやつよ」


ポスカから少し離れた位置に座った団員は灰皿を置くとポケットから現実の煙草が入っている箱を引っ張り出すと、一本取り出して口に咥えると火を付ける。

日に焼けた焦げ茶色の肌に黒のタンクトップ、迷彩柄のボンタンを履いたベリーベリーショートに整えられた深緑色の髪と銀色の瞳が特徴的で、鍛えられた腕などを見ると荒事関係を扱う団員なのだろう。

それでもこの場に呼ばれたという事はそういう情報にも長けているという事なので計画を練って行く。

韋駄天が若干頬を赤く染めながら惚けたように彼女を見ていたので、この後何も起きなければいいなと密かに思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る