35-強制中断
自分が無意識に撒いた種とはいえ、現在ポスカを睨み付けながら会話をしている椿達との間に流れる空気は一触即発と言っても過言では無い。
ここで下手に首を突っ込めば斜め上かホームランぐらいに話の方向がズレるのは目に見えている。
「もう、帰りたい…」
『パパ、ここに帰ってきちゃったの僕達だよ』
『素直に宿に泊まっておけば何かしら変わったかもしれないでござるなぁ』
『無理ちゃう?やって、どこ泊まろうと来たと思うで』
『ポスカは何かセンサーでもあるのかと思うくらいとと様の行動を把握してましたの』
ボソリと呟くもすかさずマオ達からツッコミを頂いてしまいぐぅの音も出ない。
深い溜息を吐けばルフが気遣うように頭を撫でてくれるので礼を述べる。
俺がマオ達と話をしている間にも棘のある言葉のキャッチボールが耳に入ってくるので気分転換所では無い。
「持てるコネと力、情報を使ってライアを口説く…ですか。そもそも、貴方は男でしょう?商団長ともなれば次の代に繋ぐ為にはちゃんと妻を娶らねばならないと思いますが?」
「生憎と私が率いるファンビナ商団は実力主義ですので。能力のある者が居ればその子を育てれば済むこと。それに同性であろうと惚れてしまえばそんなもの些事だと思いますがねぇ?」
「あぁ言えばこう言うし、なかなか素直に聞き入れようとしない所がリヒトに似てると思わない?…韋駄天」
「ん?俺達はライアの事になると皆同じ感じになるだろ?」
今はリヒトとポスカが舌戦を繰り広げているが、それを眺めている韋駄天と椿も互いに言葉を交わしながら自分の番が回ってくるのを待っている感じだ。
この光景を前にして思うことは、コアなファンが新人ファンを囲いこんでルールを説き伏せているようにも見える。
新人のファンも一歩も引かず応戦しているから中々話し合いが集結せずに着地点が遠ざかっていくばかりなのだが。
落とし所を提示しなければいつまでも俺を放って話を続けそうな雰囲気に参っていると、不意にリストバンドから通知音が鳴ったので確認してみれば、神威からのメッセージのようだ。
『どうしたんだぞ、主?』
「ん?いや…この状況で神威からメッセージが届くと大抵嫌な予感しかしないなと」
『ママ…フラグ?』
『内容は確認しておいた方がいいと思います!』
『神威って誰だべ?』
「俺がよく世話になってる奴だ。今、妹さんをテラベルタに迎えに行ってたハズなんだが…は?」
ルフに軽く神威の事を説明しながらメッセージを開いて書かれている内容を見て思わず口が開いてしまった。
ここに書かれていることが本当だとしたら、現状がさらにややこしくなるのが間違いないし、椿にとってもやばい状況になるだろう。
〈To:ライア |from:神威
▽題名:見たらご連絡を
こんにちは、ライア。今、テラベルタで妹と合流したので軽いレベリングの後にラビリアへ向かっているところです。
その旅の道中で豪快なご老人を連れた二組の夫婦とドラグの生息地に向かう途中で会いまして。
うちの妹が人見知りしないタイプなので迷惑が掛からないよう注意を払いつつ、色々と話しかけていた際にライアさんの名前が出てきたので知り合いならこのままキャリーしようと思ってるんですけどこの方々に見覚えありますか?
返事、お待ちしてます。
画像※タッチすると写真が手に入ります〉
一気に喉が渇く様な錯覚を感じつつ、目の前にあるカップを手に取り残っていた紅茶を熱さも感じぬままに飲み干せば恐る恐る画像部分にタッチする。
ピッと言う音と共に目の前にデータが収束するようなエフェクトが出たかと思えば、四角い形を形成すると写真が現れ俺の手に収まる。
なんだなんだとマオ達も写真を覗き込めば口々に感想を述べる。
『わー!これなぁに?パパ?なんか、パパによく似た人が写ってる!』
『なんや、ラルクに似とる雰囲気の爺さんが写っとるなぁ。雰囲気的にどっこいどっこいそうな気ぃするけど…』
『こちらに写っている御二方は椿という女子に似ているでござるな』
「ヤバい。非常にヤバい!」
取り敢えず神威に知り合いだが二日ほど上手く他の村などに立ち寄って時間を稼いで欲しいことを書いてメッセージを送信すると、未だに険悪な雰囲気で話を続ける椿達の話に割って入る。
「私だって商団長さんが慕ってるみたいに女の子に心動かされるけど相手も同じように同性に興味を持てそうになければ一定の距離を保つくらいの余裕は持ち合わせてるけど貴方のやり方は違うじゃない」
「少し性急だとは私も自覚していますよ。でも、幼馴染である皆さんが知っているようにライアさんは魅力的な人なので少し強引だとしてもいきなり現れた人に盗られるぐらいなら押すしかないでしょう?」
「そうだとしても尾行は…「お前らストップ!!」
「急にどうしたんだ、ライア?」
「いくらライアでも途中で話を中断させるのはマナー違反ですよ?」
「それは悪いと思ってる。だが、椿これはお前にも関係してる」
「どういう事よ?」
「母さん達がもうラビリアまで来そうなんだよっ!」
「何嘘言ってんのよ…母さん達のセンスでそんなに早くここまで来れるわけないじゃない。私達の中で誰も迎えに行ってないのよ?」
「……今、俺の友人から同行者の写真を貰った中に爺ちゃんが居たんだよ」
「…………嘘でしょ?」
「あの方が居るなら…元々のセンスが並外れているので来てもおかしくはない、ですね」
「現実で腰やってても、ここじゃ関係ないからな…。って事は、全盛期の暴れ熊軍曹が!!」
話の腰を折られ戸惑うポスカに謝罪しつつ、俺や椿達にとって幼い頃のトラウマ植え付け機のような存在が来てしまう。
神威に時間稼ぎをしてもらってはいるが、飽きれば絶対に一人ででも来ようとする。
何よりも恐ろしい存在が降臨しようとしている事実にポスカとマオ達を除いた四人が頭を抱えたのだった。
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