32-便乗者は成敗
幼馴染達の毒牙に掛かったのは、ヴィオラ、ウィン、ルフの三匹と言いたい所だがそこに再びダスクも捕まっている。
お腹がダメなら背中という事で椿は両手にイヌ状態で背中に顔を埋められていた。
「はぁぁぁ…さいっこう…。ここが天国って事ね」
『とと様ぁ…助けて欲しいですのぉ…』
『パパ殿ぉ…怖いですぅ』
蕩けるような笑みを浮かべながらヴィオラとダスクで己の顔を挟む椿を見つつ、助けたくとも邪魔をすれば再びアイアンクローをやられかねない恐怖に尻込みしてしまう。
頭を割砕くつもりなのが分かる程の痛みをまた受けたいとは人間誰しも思うまい。
流石にMと呼ばれる人達も死の危険と隣り合わせなら嫌がるだろう…多分。
「はぁ、この世の至福は猫との戯れですよね…加減して引っ掻いてくれるのがまた、イイです…」
『主の幼馴染だから手加減してるだけであって本当はバリッとしてやりたいんだぞぉっ!』
「ああ!肉球で頬を叩かれるのも良い!ご褒美ですね!」
先程まで紳士然としていたリヒトがキャラ崩壊している姿を見つつ、俺の幼馴染という事もありウィンが本気で抵抗できないでいる姿に申し訳なさが募る。
腹に頬擦りしようとするのを猫パンチで応戦するウィンだが、それすら今のリヒトには最高の抵抗なようで見ている俺もドン引きである。
後でウィンにはブルルンのステーキを作ってやろうと思う。
「この自分よりも大きい動物に抱き締められるのがいいんだよなぁ…。うちのバルクやグリ太郎はやらせてくれなくて…」
『も、もう…オラはこういう星の元に産まれたんだと諦めるべきってことだべか…』
『フォッフォッフォッ!小さい女子か大きい男にしかモテんとわ!おっもしろいのぅ!』
『長老!笑い事じゃねぇべよ!』
韋駄天はリヒトや椿とは違って抱き着くだけなのでルフも無下には出来ず、諦めたように背に腕を回して大きな手で優しく叩いている。
小さい頃から自分より体格のある動物に興味を示していた韋駄天が好きなのが、正に熊やパンダ、ゴリラなど自分の力で傷付ける事がない大柄な物が好きなのだ。
まぁ、自分の事をスッポリ包んで抱き締めてくれる動物は獰猛な性格の持ち主などが多いので、こうして触れ合える事など滅多にない。
それに、ルフが来てから数日も経たないうちに抱き着かれているからか、どこか慣れた手付きであやしているのが面白く思ってしまう。
どうやって辞めさせるか悩んでいると背後から抱き着かれるような衝撃を受け、白銀がまた頭突きでもしたのだろうかと振り返ればそこにはポスカが居た。
「お前は何をしてるんだ…ポスカ」
「皆さん好きな子と触れ合ってたようなので便乗しました!」
『ポスカー!旦那はんに近づくんやない! 』
『油断も隙もない…!』
『パパから離れろー!』
『その髪の毛を灰にしてやるござる!』
『若いモンは元気じゃのう…』
「ふふ!そう来ると思ってましたよ!伊達に何度もマオ君達に妨害されまくってな…いったぁぁぁぁっ!」
『頭突きは流石に…ボクも痛かった…』
綠だけのほほんとしているが、俺に抱き着いているポスカを引き剥がそうと、マオがハンマーを持って襲い掛かり、白銀は噛み付くべく大口を上げて尻を狙う。
そうは行かないと直ぐさま退いて距離をとるポスカだったが詰めが甘い。
セラフィが上空から隕石のような速さで翼を畳んで突っ込み見事にポスカの額に頭突きを喰らわされふらついた所に、追い打ちを掛けるように黒鉄に尻を噛まれている。
頭突きのせいでフラついているセラフィをその手に回収しつつ、本当ならオーバーキルでも良さそうな連撃を喰らいながらも地に倒れるだけで済んでいるポスカを見て頑丈だなと思ってしまう。
『全く、油断も隙もあらへんやっちゃ!』
『むー!避けられたのムカつくー!』
『ペットじゃけど全員戦闘センス良さそうなんじゃよなぁ…。息ピッタリじゃし…にしても、あの若者は難儀なもんじゃのう。血を制御出来ればここまで大事にならんっちゅうのに』
ハンマー攻撃を避けられた事に憤慨するマオを頭に乗せて傍に来た白銀の立派な鬣を撫でてやりつつ、綠の発言にポスカのような鬼について何か知っているのだろうかと視線をやれば、後でと茶目っ気たっぷりにウィンクを返されてしまう。
この中で一番の年長者の言うことを聞かない訳にもいかないので、小さく頷いて返すと馬車を元の場所に停車してから戻ってきたジェスがこの光景を見て思わず口元を引き攣らせる。
レストランで見た幼馴染達の冷静な姿とは打って代わり、それぞれペットを抱き抱えてメロメロな姿を見せているのだ。
呆気にとられるジェスの気持ちは痛いほどわかる。
「取り敢えず…ポスカを回収しつつ客間に向かいましょうか…」
「昨日大変なことになってたがもう修繕できたのか?」
「ルフくんが壁の修繕ついでに直してくれたんす!あの時より豪華で綺麗になってるんできっと驚くっすよ」
地面に倒れているポスカをおんぶしようとしているジェスを手伝った後に、椿に声を掛ければ渋々だがヴィオラとダスクを地面に降ろすと直ぐさま俺の方へと駆け寄ってくる。
何時もなら転んでいる筈のヴィオラが転ばずに俺の元へ辿り着いた事に驚きつつ、白銀と黒鉄に頼んで二匹を抱えてもらう。
韋駄天はすんなりとルフから離れると照れ臭そうに笑いながら感謝を述べていた。
最後にウィンを離してもらおうとリヒトに声を欠掛ければ、ウィンの飼い主が女であったらそのまま抱いていていいと口走ってしまいそうな顔で俺を見ている。
生憎、俺は男なので屈する事無くウィンを返してもらうと不貞腐れたように唇を尖らせた。
色々と疲れる事になったが客間へ着いて一息つくも、冷静さを取り戻した椿達とポスカがいつになく真剣な表情で睨み合いを始め、俺とマオ達は困惑する事になるのだった。
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