33-凍る室内・前

客間へと通されポスカに促されて椅子に座るも、位置的にお誕生日席に案内され嫌な予感が頭を過ぎる。

綠は何か嫌な予感がするからと早々に箱庭の中へ逃げてしまい、現在俺の膝の上には椿やリヒトを威嚇するように睨み付けながらヴィオラとウィン、ダスクが乗っている。


『あの二人は要注意人物なんだぞ!』


『気を抜いたらまた捕まりかねないですの!』


『もう捕まりたくないです!徹底応戦するのです!』


「ほらほら、大人しくしてなさい」


『あ、ちょ…主、そこはダメなんだぞぉ…グルル…』


『とと様…その撫で方は狡いですの…』


『あ!ヴィオ姉とウィン兄狡いです!パパ殿、ぼくもー!』


俺がウィンの機嫌をとるように優しく喉元を撫でれば、ほんの少しの抵抗を示すが喉を鳴らしながら尾を揺らしているのを見て笑みを浮かべつつ、ヴィオラには触られまくったせいで逆だった毛並みを整えるように手ぐしで撫でる。

先程の分も含めて甘えさせてくれと訴えるようなダスクもヴィオラ達の威嚇が止んだ後に、腹や頭を撫でてやれば安心感もあったのか眠そうな顔をしている。

三匹が落ち着いたのを見てマオが俺の肩の上に移動してくると頬に鼻先をつけた後に身を擦り寄せてくる。

それに続くように見守っていた白銀が体を伸ばして頭に顎を乗せてくれば重くなったように感じて問い掛けると顎で叩かれた。

痛いと返しつつ、セラを頭に乗せながら黒鉄が左肩付近に張り付くと顎を乗せるようにして甘えてくる。


「くっ、私の時にはじたばた逃げようとしてた狐ちゃんと狼くんがあんなに蕩けた様な顔してるの見てるとなんか腹立つわねっ!」


「あんなに引っ掻いてきた漆黒の君も安心しきったような顔を見せている…悔しいっ!」


「いやほぼお前達が悪いと思うぞ、俺は?まぁ、俺も熊には悪い事したと思ってるがな!」


「羨ましい…私もライアさんの膝の上に乗りたい!撫でて欲しい!」


ルフは俺の傍で座っているのだが韋駄天を見て気にするなと言うように手を振っており、全員席に着いた事が確認するといきなり俺以外のこの場に居る者の表情が切り替わる。

一気に部屋の中の温度が冷えた気がしつつ、長い足を組みポスカを値踏みするような目で見ながらリヒトがゆっくりと口を開く。


「お初にお目に掛かります。ファンビナ商団の団長がこんなにお若い方だとは思いませんでしたよ」


「つい最近代替わりしたばかりなので致し方ありませんよ。それに、拠点の執務室に籠るのが嫌いな物でよく留守にしていますし。まさか、ご贔屓にしてくださっている漆黒の魔帝のギルド長様がライアさんの幼馴染だったとは思いもしませんでした」


「私も最近ライアがラビリアに来たと知りましてね。こちらの拠点でお世話になっていると聞きましたから…是非、ご挨拶に伺っておかねばいけないなと思いまして」


「そんな、私の方もライアさんには色々とお世話になっているので、そのお返しに色々とやらせてもらっているだけですよ」


リヒトとポスカの間で丁寧な言葉が行き交っているが、その表情は笑ってはいるものの目は一切笑っていない。

今のやり取りの中に違う副音声があるのではないかと疑ってしまう程、部屋の中の空気は下がったままなので居心地が悪いったらない状態である。


『パパー…なんか凄く怖いんだけど…』


『このひりつく様な空気…村で嫁さんに浮気を疑われた旦那が少しずつ追い込まれてる時の空気に似でっかもしんねぇな』


『ママ…ホントにあの人達は幼馴染なの?』


「幼馴染だぞ?俺に対して過保護な所はあるがな」


『過保護…確かにそないな感じはすんねんけど、なんや行き過ぎとるような気も…』


『それを言ってしまったら某達も若に関しては敏感に反応してしまうでござるからどっこいどっこいな気もするでござるよ?』


『でも、パパの事を家族みたいに思ってるのは分かるかなー?』


その間にもポスカ達の問答は進んでいるのだが、俺がここに居るというのに一人蚊帳の外で放置されている気分になる。


「ふぅん、ライアにウォルと山賊に襲われていた所を助けてもらったの。ちゃんと聞いた話とは一致してるわね」


「私は嘘を吐いたりしませんよ。久遠の麗姫のギルド長様…よく各支部から地図を購入頂いていると部下から話を頂いております。この前お渡しした砂漠の地図はお役に立ちましたでしょうか?」


「ふぅん、私のことも把握済みって言うわけ…。侮れないわね」


「商団を纏める身ですから…商人にとっては情報の収集力も大事ですし、よくご入用頂いているお客様の事を把握していなければ笑われてしまいますよ」


ただの話だと言うのに背中にゾワゾワとしたものを感じてしまい、マオ達が大丈夫かと心配してくれるが出来ればこの場を離れたい気もする。

そもそも、この場に俺が居ないかのように話を進めているのだから退室しても問題ないだろうと席を立とうとすれば、四人の鋭い視線に射抜かれる。


「どこに行く気よ、ライア?」


「この後、ライアにも聞かなきゃならねぇ事があるんだから出ていったりしねぇよなぁ?」


「いや、その…俺は必要なさそうな気がして…」


「ふふっ、そんな事ある訳ないじゃないですか…ライアさん。今美味しいお茶とお菓子も用意させてますから待っててくださいね?」


「お茶とお菓子、ね…。商団長さんのセンスを楽しみにしていよう」


にこやかに紡がれた言葉達にこの部屋からは逃げられない事を悟ると、客間の扉が開かれ紅茶と菓子を乗せた配膳台を押したジェスが現れる。

他のメイド達はどうしたのだろうかと思い、扉の方を見ればガッツポーズをしているのを見て何らかの方法で決めたのが見て取れた。

ジェスもこの部屋の雰囲気がおかしいのは気づいているのだろう。

俺と視線が会うと頑張ってくださいっす、と口パクで言っているのが見える。

応援じゃなくてお願いだから助けてくれと思うが、配膳が終わると逃げるようにジェスは部屋を出て行ってしまい俺の願いは叶うことが無かったのだった。

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