31-どうしてこうなった

ジェスと話した後に個室に戻れば、俺が居ぬ間を狙ってかダスクが椿に確保されていた。

マオと黒鉄はどうしたものかと慌てていたが、ダスクの無の表情を見て色々と諦めたのでショックなんて感じませんと遠くを見ている。

その背中に顔を埋め猫を吸うかのように笑みを浮かべている椿の顔が怖い。


『パパー!おかえり!』


『椿殿が若の居ぬ間を狙って物凄い速さでダスクを連れて行きもうした…』


『パパ殿、お帰りなさい…ぼく、お腹だけは、絶対に死守してみせます…』


「はは…一応、ファンビナ商団の方にお前達が行く事で問題が発生しないか確認を今してもらっている」


「おや、NPCに対してはメッセージ機能を使用出来ない筈ですがどうやって?」


「たまたま、ファンビナ商団の団員が店の手伝いをしているのを見掛けてな…。忙しそうだが頼んだんだ」


呆れたように椿の様子を見ていたリヒトが、片眉を上げながら問い掛けてきたので監視されているという事は伏せつつ苦笑混じりに返す。

本来なら商団でこういった店の手伝いなどは引き受けないのだろうが、情報屋として動く場合に潜入という形で動く団員が居てもおかしくは無い。

特に個室のあるレストランなどでは良からぬやり取りに使用する者は少なくないだろう。

こう考えるとあんな風に自然に溶け込めるジェスは相当なやり手と見て間違いない。

扉をノックする音に振り返れば、ジェスではなくマンダが立っており深々と礼をしてから無表情でいる事が多かったその顔に笑みを浮かべており、見慣れぬ俺とマオ達は呆然と見つめる。


「団長より拠点訪問の許可が出ましたのでお迎えに上がりました。既にライア様は私の事をご存知とは思いますが自己紹介を…ファンビナ商団の団長補佐を務めているマンダと申します。以後お見知りおきを」


「凄いな!団長補佐が直々に来てくれるなんて!」


「ファンビナ商団の団長は敏腕で滅多に顔を出さないと聞いていたが…ライア、どれだけ気にいられてるんですか?」


「早く行きましょうよ!私の子狐ちゃんが待ってるわ!」


「この店の会計は団長が持つと仰っていましたので皆様は外に待機させている馬車の方へ先に向かって下さい。ジェス、案内任せたぞ」


「はいはーい!それじゃあ皆さんは俺について来て欲しいっす!」


椿に韋駄天、リヒトが一旦ペットと使い魔達を己が持っている箱庭へ戻らせる。

こちらに礼をしてから去るカールを見て俺に対する深い敬意のような物を感じつつ、椿にもみくちゃにされそうなダスクを救出するとジェスの案内に従い馬車を目指す。

尻尾を足に挟んで俺に体を擦り寄せてくるダスクを落ち着かせる様に背中を撫で擦りながらマオと黒鉄も腕に飛び乗り気遣う様に声を掛けている。

マンダが俺を呼び止めたので先に行ってるように椿達に言うと部屋から出て行くのを見送ってから話をする。


「どうした、マンダ?」


「拠点に戻ったらポスカに気をつけてください」


「…何かあったのか?」


「一応俺とジェスの方で同じ鬼の血を引くポスカの父親…先代の商団長に連絡はしましたが、アイツの血を抑える方法を用意するには少し時間が掛かるらしく一週間ほど時間が欲しいそうです…」


「ん?その方法が用意されればポスカは落ち着くのか?」


「はい。監視のような事はしなくなると思います…が、ライアさん好き好きは多分止まりません。行動の制限は出来ても感情の抑制は出来ないそうなので」


マンダの口から好き好きのような言葉が出て目を見張るも、現在の行き過ぎた行動が収まれば過ごしやすさは変わるだろう。

ヴィオラがポスカが夜這いを仕掛けるのではと言う不安も取り除けそうだ。

だが、まだその方法が実行されている訳では無いので今はちゃんと警戒して欲しいという事なのだろう。


「なんか、ジェスとマンダには苦労を掛けてばかりだな…」


「俺達からしたら、ポスカが変な奴に魅了されて大変な思いをしている訳では無いので…。過去にはそれで悲惨な末路を辿った者も多かったそうですから」


マンダがどこか遠くを見つめながら告げれば、引き止めてすまなかったと頭を下げ伝票を持ってレストランの店主と話をしに行くのを見送る。

今でも十分に大変な思いをしていると思うが、それ以上の事も過去にはあったと言う事なのだろう。

取り敢えずはポスカと椿達がぶつからないように気を付けようと思いながら、レストランを出て御者席に座っているジェスに声を掛けてから馬車に乗り込む。

既に中に座っている椿達を見てから空いている場所に座ると、ダスクを気遣っていたマオと黒鉄が俺を見上げて問い掛けてくる。


『皆、ちゃんと大人しくしてるかなー?』


『某達が戻る事を伝えてあるとしたら皆待機してそうな気がするでござるよ』


「いや、まさか…門前で並ぶなんてこと…」


『ないとはいえないですよ?』


『まぁ、僕達パパ大好きだからねぇ…。お留守番させられてたとなると…特に』


『歯止めは効かぬでござるな』


いやまさかと思いつつ、馬車を降りて門前に向かうとマオ達の言う通り白銀達が待っているのが遠目に見えた。

俺に見えたという事は椿や韋駄天、リヒトにも見えているわけで彼らの姿を目に留めて明らかに目の色が変わった気がする。

いや、気がするというか確実に変わった。


『旦那はんおかえ…ちょちょちょちょっ!?なに!?なんなんこの人ら!?』


『はわわわわわ!捕まっちゃいましたのぉ!』


「うふふふふ、可愛いわぁ!手触り、尻尾の柔らかさ…さいっこう!」


『キャー!!!ですのぉ!!』


『なんなんだぞ!?この金髪のお兄さん!俺様の肉球を勝手に触るし嗅ぐんじゃないんだぞぉ!?』


「ライア…猫がいるなんて聞いてないですよ!?はぁ、可愛い…この肉球の柔らかさにしっかりと手入れされているからか香ばしい香り!」


『うぉぉ!?なんだべ!?オラは最近抱き着かれる事多くないべか!?』


「熊!熊だ!ライア!熊が居るのになんで言ってくれなかったんだ!?おぉぉぉ!でかい!毛皮が暖かい!最高だァ!」


さっきまで俺の後ろに居たはずの椿と韋駄天、リヒトがすごい速さで駆けて行ったかと思えば、それぞれ目に止まった動物を抱き上げるなり抱き着いたりとしている。

椿はヴィオラを抱き上げ尻尾に顔を埋め、リヒトはウィンをその腕に抱え前足を嗅いで口元を緩めている。

韋駄天はほぼ強制的に抱き着かれどうしたものかとルフが両手を上げながら泣いている。

思ったよりもカオスな状態に俺は顔を手で覆いつつ、白銀とセラフィ、綠やマオ達もポカンとした顔で見ているしか無かったのだった。

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