30-イヌ派の執念

椿のアイアンクローを逃れた俺は頭を抑えながら何をするのかと睨むが、ふと昔の事を思い出す。

ダスクを見てアレだけ目を輝かせていた時に気付くべきであった。


「アンタが…テラベルタを賑やかせた匿名だって言うなら…子狐もペットとして連れてるハズでしょ!!なんで連れてこなかったのよ!前線に居る事をどれだけ後悔したことか!」


「やっぱ、そこかぁ…」


「疾風や凛も勿論可愛いわ…でもね、神様の悪戯かイヌっ子は私の所には産まれなかったのよ!!なのにアンタは…可愛い狼と子狐連れてるとか不公平じゃないっ!!アイアンクローもかましたくなるわよ!」


「椿はイヌ好きだからな!」


「イヌ科と名のつく動物は皆、私のモノ!とか前言ってましたもんね」


『なるほど…椿殿はヴィオラに会いたかったのでござるか』


『好きな子を連れてる筈なのに会えなくて暴挙に出るしかなかったんだねー』


『先程、お腹を差し出すべきだったのでしょうか…?でもでも、やっぱり…初めてはパパ殿が良いですっ!』


血走った目で俺を見る椿の威圧感にヴィオラを連れてくればよかったと思うも、連れてきていたら何が起きていたかも分からないので逆に良かったのではとも思ってしまう。

ヴィオラとダスクを寄越せと言われても是とはならない。

たまに遊ぶくらいなら許せるが、ペットを譲渡する方法を何処かから仕入れて来て交渉を持ちかけられても困る。

今は冷静だが、俺が連れているペットや使い魔がどんな容姿をしているか聞いたらリヒトや韋駄天も参戦しかねない。


「取り敢えず…落ち着いてくれ。今回ヴィオラを連れて来なかったのは、俺のペットや使い魔達を全員連れてきたら今以上にこの部屋が狭くなってたからだ…」


『一つ、私からお伺いしてもよろしいでしょうか…ライア様』


「色々と見逃してもらってるしカールさんの質問なら答えるよ」


『感謝いたします。差し支えなければライア様の連れているペットや使い魔の総体数を教えて頂いても?』


「えっと…マオ、白銀、黒鉄、ヴィオラ、セラフィ、ウィン、ルフ、長老、ダスク…にもう一匹孵化待ちだから全部で10か?」


『…なんと、ライア様の器は底知れずのようですね。それだけ連れているのは大変でしょうに』


「食いしん坊な奴らばかりで大変だが可愛くて仕方ないよ。今はファンビナ商団の拠点で預かってもらってるがな」


『なんか、照れるでござるなぁ…』


『パパに可愛いって言われちゃったー!でも、カッコイイのが嬉しいかもー…』


『マオ兄は見た目的に可愛いが一番似合…いたっ!いたい!なんで殴るんです!?』


俺の連れているペットと使い魔の数を聞いたカールは目を見張りながら感心したように告げる。

器という言葉が気になりカールに尋ねて見ようかと思ったが、マオとダスクの小さな喧嘩を制した事でタイミングを逃してしまう。

食事を摂り終えた後で何かを考えていた椿が立ち上がると、韋駄天とリヒトに声を掛け三人で目の前で何やら話を進めている。


「リヒト、韋駄天。ライアがファンビナ商団とどういった繋がりがあるかも気になるし、このまま拠点まで一緒に行くのはどう?」


「え!?いや、それはいきなり押し掛けるのはどうかと思うぞ?」


「今回ばかりは韋駄天に同意ですよ。日を改めるならまだしもこれからは流石に…相手にも迷惑でしょう」


「他にもペットを連れているなら大会が開かれる前に知っておいても損は無いじゃない。後、ライアに迷惑を掛ける性格かも把握しておかないと心配でしょ?」


「椿の下心が丸見えなんだが…?まぁ、会っておいても損は無いと思う…でもなぁ?」


「取り敢えず、ライアに一度聞いてみてからにしましょう」


こっそりと話しているつもりなのだろうが殆ど聞こえていることを言うべきか言わざるべきか額を抑えながら考える。

俺を心配しているような素振りを見せているが狙いはヴィオラに会う事だろう。

韋駄天とリヒトも俺の他のペット達を見たら変わる可能性がある。

と言うか、絶対に絡みに行くのが目に見える。

不意に服を引っ張られる感覚に下を見ればマオ達が俺を見上げている。


『パパー。外にジェスが居るんでしょー?これから行くってポスカに伝えてもらったら?』


『そうでござるよ。どうせ、ポスカも若の幼馴染がどんな人間か気になって落ち着かないでござろうし、一片に解決出来たら万々歳でござろう』


『補修作業してるルフさんがまた何かやらかしてるかもしれませんし、手伝って貰えそうな筋肉も居るので一緒に行っちゃって良いと思います!』


「…椿達とポスカを会わせる方が心配なんだが。はぁ、取り敢えずジェスに相談してみるか」


ちょっと席を外すと椿達に声を掛けてから部屋を出ると、店の手伝いもしながらバタバタと走り回っているジェスを見て潜入するのも大変だなと思ってしまう。

俺の視線に気付いたのか配膳を終えた後の台を持って歩いてくるジェスに手を振ると、オーダーかと思いメモを持ちながら傍へ来る。

その自然な動きに変装までされていたら気付かなかっただろうなと思いつつ声を掛けた。


「ジェス、俺の幼馴染たちが拠点に行ってみたいって言ってるんだが…連れて行っても問題ないか?」


「あー、今の所大事な商談とかの予定は無いんでいけるとは思うっすね。ちょっとポスカに確認してくるっす」


「悪いな…。ついでに俺の監視の事も話をしたいと伝えておいてくれ」


「…あはは、分かったっす」


あくまで注文の為に呼び止めたという体は崩さずにジェスはメモを取ってから台を片しに調理場へ向かうのを見送る。

この提案が後に壮絶なバトルを引き起こすとは俺は露にも思っていなかったのだった。

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