29-食事会・後

チラホラと食卓を囲んでいる幼馴染達が食べ終えている姿を目にしながら、インベントリから濡れタオルを取り出すと口の周りにチーズを付けたままのマオと黒鉄の口元を拭ってやる。

ダスクに関しては俺が食べさせているからかそこまで汚れていないので頭だけ撫でておく。


「私はギルド、漆黒の魔帝のギルド長をしてます。まぁ、基本の運営は副ギルド長に全面的に動いてもらっているので有事の際に私が動くという形にしてます」


「……リヒト、アンタまさか影の支配者になりたいとかそういうので表向きな行動控えてるとかじゃないわよね?」


「流石にそれはねぇだろ!なぁ、リヒト!」


「影の支配者、いい響きじゃないか!頭脳明晰な私にこそふさわしい称号でありピッタリだろう?」


『カッコイイ人なのに残念なんだね、この人』


『なんとなく、カール殿の表情も苦虫を噛み潰したような感じでござるな』


『パパ殿が普通の人で良かったです!』


「なんだか、ライアのペット君達に失礼な事を言われた気がするが…気のせいかい?」


「マオ達がそんな事考えるわけないだろう…?」


考えていたなど言える訳もなく咄嗟に嘘で返せば、カールが今回だけ見逃しますという顔で俺を見ているので軽く頭を下げておく。

マオ達の頭を軽く小突いては口をチャックするようなジェスチャーをして返される。

一通り椿達の近況を聞けたので今度は俺が話す番だなと思い、先程軽く話はしたが何処から説明するべきかと首を傾げる。


「どこから話せばいいか分からんが、韋駄天や椿、リヒト達とは違って前線は目指さずにゆっくりプレイさせて貰ってた」


「まぁ、ライアの性格を考えればトップ争いとかには興味無いでしょうしそこは普通よね」


「ペット達の様子を見て分かるが、NPC達にも気に入られて色々と面倒事に首突っ込んでるまでがデフォじゃねぇか!?」


「人の縁を大事にするのは悪い事じゃないですが、ライアの場合は面倒見が良すぎるのと緩く考える所が長所のようで悪い所でもありますからね」


「褒めてるのか貶してるのかどっちなんだ…」


「どっちもに決まってるでしょ?後は絶対こうした方が良いって時にも相手の事考えて一歩踏み出せないもんねぇ、ライアは」


「容姿に引かれて寄って来た女子や男子も捌き切れないから前髪下ろして瓶底眼鏡させたんだもんなぁ!」


「アレは効果覿面でしたよね。変な輩が一発で減って有難いくらいでしたよ」


頷き合いながら話す内容が俺の耳には痛く目を逸らしていれば、気遣う様に傍に来た凛の頭を優しく撫でると傍に居たマオが間に割り込むように入ってくる。

動揺している凛に謝罪のつもりでここに来る前に食べてもらったクッキーを手渡せば、嬉しそうにしながら椿の傍に帰って行くのを見送る。


『パパ!そう簡単に僕達以外のペットを撫でちゃダメなんだからね!』


『そうでござるよ!某達が居るのに!』


『パパ殿、浮気ダメ絶対!!です!』


「さっきお前達も韋駄天やリヒト達と触れ合ってただろう」


『アレは別!』


『某なんて観察されただけでござるからな!』


怒るマオ達にはいはいと返しながら、それぞれ撫で回しているとリヒトが僅かに目を細めて俺を見ていた。

何か嫌な予感がしてちゃんと話をしようとすると、テーブルの上に肘をつき頬杖をついた椿が徐に口を開く。


「そういえば、匿名が情報を掲示板に投稿した時に書かれてた雪みたいに白くて綺麗な小動物の絵が描かれてて一時話題になったわよね」


「そうだな!俺もあの絵を見たが、なんかどっかで見たような描き方だったんよなぁ?」


「何処と無くライアが絵を描く時のタッチに似ていた気がするんですよね。それに、その子龍くんですけど…あの時一緒に描かれていた白蛇と黒蜥蜴の面影と似ている気もしますし…」


些細な疑問を解消する為にしている話だとは思うが、冷や汗が背中を流れていくのが分かる。

その他にも同じようなペットと使い魔を連れている人間が居るだろうと、下手に突っ込むとそこから口論に発展し洗いざらい吐かされる未来しか見えない。

どうにか話題を先程のように変えられないかと視線を彷徨わせるが、リヒトと椿の目はどこか確信めいた物を感じさせる光が宿っている。

上手く誤魔化せてもバレれば死刑、素直に話しても死刑という選択肢しか自ずとなくなっていく。

無言の圧力を感じ始めれば深い溜息を一つ零してから両手を上げる。


「…回復薬を作れなくなると道具屋のヨハネっていう青年から相談を受けて必要となる素材をドロップする敵の生息地まで確認しに行き、その情報を掲示板に投稿したのは俺だ」


「そうだったのか!ライアは凄いな!」


「ねぇ、あの匿名がライアだったって言うなら…テラベルタ周辺で色々報告されてたのって全部アンタってわけじゃないわよね?」


「分かりきった事を言ってどうするんですか、椿。確認せずともライアでしょう」


「いや、俺じゃない可能性も…ちょ!まて!俺は痛覚切ってないからアイアンクローだけはやめ…っ!いっづっ!」


「何か言ったかしらー?聞こえないわねー?」


『わー!!パパー!生きてー!!』


『女子の癖に片手でこの威力とあれば両手だった場合の事など考えたくないでござるな!』


『解説してる場合じゃないです!黒兄!』


徐に立ち上がった椿が俺の傍に来るなり笑みを浮かべると、片手で頭を鷲掴みにされ嫌な汗が頬を伝う。

咄嗟に抗議の声を上げるも掴むのに込められた力が尋常じゃなく、襲ってくる痛みに苦悶の声を漏らしつつ手を離させようと椿の手首を掴むがビクともしない。

マオとダスクが間に入った事で手は離れていったが、話の展開によっては再びアイアンクローをされる確率は高い。

昨日は抱き潰されそうになり、今日は頭を潰されそうになるという不幸続きにこの場を逃げ出したくて仕方がないのだった。

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