25-ペット達の紹介・前

レストランに辿り着いた俺達はペットや使い魔を連れている人用の 広めの個室に案内される。

室内には防音の魔法が組み込まれているらしく、壁などを故意に壊さない限りは音が漏れる事はないそうだ。

わざわざ壊そうと思う輩は居ないようにも思うのだが念の為に説明しているという所だろうか。


『わー、広い部屋ー』


『この部屋だったら姉上達を連れてきても余裕がありそうでござるな』


『パパ殿!走り回ってもいいですか?』


「周りの物を壊さないように配慮できるなら…って言いたい所だが椿や韋駄天、リヒトの連れてる子達も大人しくしてるだろうし様子を見てな」


『はいです!ぼく我慢します!』


それぞれ用意された席に座れば、一呼吸置いた後に椿がこの店のメニューを配る。

手元に行き渡ったことを確認し、決まったら手を挙げるようにと一言添えてから椿達が箱庭から使い魔達を呼び出し一緒にメニューを見ている。

椿の傍には帰ってきた感がある少し砂埃が羽に付着している首に薄い布を巻いている大きい鷹と、テーブルの下から細長い何かの先端がチラチラと見え隠れしている。


「今抱くから待っててね…。よっと、これで見えるかしら?」


『わー、見たことない動物だー!』


『なんという種族なのでござろうな?』


『首に巻いてる数珠から不思議な力を感じます!』


「アレってなんて言う動物だったかな…。アリクイ…?」


「残念、アリクイに少し似てるけどこの子は獏よ。名前は夢。体は大きいけどペット枠で優秀なサポートスキルを持ってるの。こっちの鷹長たかおさ疾風はやてと組ませてお使いに出てもらってたの」


長い鼻を少し上へあげてから横に揺らす夢と呼ばれた獏の姿を見て挨拶をしているのだと思い俺は軽く手を振り返す。

思ったよりもゆっくりな動きをする獏を見ていたが、マオが肩から降りると俺の前に立ちはだかりじっと獏を見ている。

何かあったのだろうかと思っていたが、韋駄天に声を掛けられたのでそちらを向くとグリフォンと同じぐらいの体格のゴリラが隣に召喚されており思わず驚きに目を見張る。


「はっはっはっ!ゴリラの方がバルク、さっきから一緒に居たグリフォンはグリ太郎だ!仲良くして…いて!いてぇよ、グリ太郎!」


「そんな変な名前をつけるからだろう…脳筋め」


「んだと!?じゃあリヒトはなんて名付けたんだよ!」


グリ太郎と呼ばれれば不服そうに眉間に皺を寄せると、大きく口を開けて嘴を大きく広げると韋駄天の頭を挟んで力を入れる。

命名の仕方に何処ぞの亀の姿が思い浮かべば、マオ達も長老の名付け候補を思い出したのか憐れむような視線を向けていた。


『…なんというか、世の中には凛々しくても残念な思いをさせられる某達のような使い魔も居るのでござるな』


『グリ太郎は…嫌ですよね…。凄く分かります…』


『僕達だけはグリ兄ちゃんやグリ兄って呼んであげようね』


『そうでござるな…。姉上にくれぐれも太郎とか言ってからかうなって念を押しておかなければ…』


『蛇と鷲ならやっぱ鷲が勝つのかなー?』


グリフォンに向けて同情の視線を向けるマオ達が視界に入れば、自分より小さく子供のような子達に同情されたのが辛いのか更に嘴に力が加わったようで韋駄天が止めるよう叫ぶ。

暫くした後に満足したのか嘴が離れると涙目になっている韋駄天を横目に、リヒトの方へと視線を向けたところで思わず動きを停めてしまう。

そこにはシルクハットとタキシードを身に付けた白うさぎが居り、リヒトの前にカップを置いてお茶を淹れている。

その隣にはタキシードを身に纏った山羊のような逞しい角を頭から生やした青年が居た。


「リヒト、隣の人は?」


「ああ、彼は私の大事な執事でね。戦闘も勿論、家事や伝令役などさまざまな事に長けたサテュロス族のカールだ。彼のような亜人を使い魔にするのはここより先の街や都に行く必要がある」


『皆様のお話はリヒト様より伺っております。以降、任務時にお顔を見せる事もあると思われますのでお見知り置きを…』


「念話も習得してるなんて凄いじゃない。リヒトなんてやめて私の所に来てくれればいいのに」


「俺のグリ太郎やバルクも念話を覚えてくれりゃあな。もっと楽しい旅ができそうなのによ」


「…韋駄天、お前は真っ先にグリ…君から罵倒を喰らうと思うぞ?」


残念そうな韋駄天を見ながら告げれば、同意するように頷くグリ太郎にかなり知能が高そうなので念話を覚えるのも時間の問題ではなかろうかと思う。

視線を感じてそちらを見ると、リヒトから紹介されたカールがジッとマオとダスクを見つめている。

何かを思案するような顔をしているので、どうかしたかと声を掛ければ何でもないと頭を横に振る姿にスッキリしないような何かを感じる。

服を引っ張られたので下を見れば、各料理の写真が貼られているメニューの中に気になる物があったのだろうマオが声をかけてくる。


『パパー!このチーズフォンデュ食べたーい!』


『某はこのホワイトチーズソースのハンバーグがいいでござる!』


『僕はエビたっぷりのチーズグラタンがいいです!』


「あ、はい…えーっと、チーズフォンデュとホワイトチーズソースのハンバーグに、エビたっぷりのチーズグラタン

と…」


マオ達の紹介をしようと思ったのだが、先に注文したい物を述べられてしまったので俺は忘れないようにメモをとるのだった。

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