24-幼馴染・後

グリフォンの頭を撫でる韋駄天を見つつ、ダスクを労わるように撫でていればダスクの傍に移動してきたマオが、ほんの少しの隙間に頭を突っ込み自分も撫でてもらおうとしている。

黒鉄も便乗しようか迷っている姿に苦笑を浮かべるが、相変わらずの幼馴染達の姿に安心感を覚えてしまう。


「韋駄天と椿が揃ったって言う事はアイツも来てるのか?」


「えぇ。昼には着くって言ってたけど遅いわね」


「時間に正確なのが取り柄なのにな!!」


「韋駄天、声でかい。少し抑えろ…」


「相変わらず喧しい奴だな、韋駄天…。私は一時間前にはここに来ていたぞ?」


「………近くに美味しいレストランがあるのよ。予約してあるから行きましょ」


「待て、私の存在を無視するんじゃない…椿。あぁそうか…ふっ…このカッコイイ仮面のせいで私だと分からないんだな?苦労して手に入れた甲斐が有るというものだ」


わざとらしい靴音を響かせながら背後から声を掛けられたので振り返れば、表が黒で裏地が赤のマントを身に付け紫のスーツを着たフルフェイスのヘルメットを被った男が居た。

黒のステッキを持ち胸元から金色の懐中時計を取り出し時間を確認している姿は紳士のようにも見えるが、傍から見れば怪盗を目指しているのか、それとも悪の君主を目指しているのか悩む姿である。

話し方は普通なのだが、要所要所でポーズを決める姿に紛うことなき自分の幼馴染であることが分かってしまう。

マオ達が目を瞬かせれば不審者さながらの男を指さして俺に問いかけてくる。


『パパー、この人が幼馴染ー?』


『喋り方は紳士のような雰囲気があるでござるが、時折額を抑えて肩を竦めたりする姿はなんというか…ナルシストみたいな感じでござるな』


『なんか、見てて痛いというか…感想を述べ難い人ですね』


『んー、パパが普通の人で良かったなーって思う』


マオ達に酷評を受けている最後の一人に笑ってしまいながらも、俺を見てはフルフェイスのヘルメットを外して声を掛けてくる。

金色の緩くウェーブの掛かったウルフカットの髪に青色の切長の瞳が特徴的な男が俺を見て微笑む。


「久しぶりだな。元気そうでなによりだ」


「相変わらず、そう言った服装が好きなんだな…えーっ、と」


「Arcaでは、リヒトと名乗ってる。二つ名は盤面の奇術師だ。忘れないでくれ。今、フレンド申請を送……お前、面倒くさがったな?」


「…そこに関してはノーコメントだ」


「はぁ、本名だってバレるんじゃないぞ…」


「そこに関しては私も同感よ」


「まぁ、ライアらしくていいだろ!」


軽く話をした後に周りの視線が集まっている事に気付いた椿が場所を移動しようと持ち掛けてきたので、先程軽く話題に出ていたレストランに足を向ける。

歩いている途中でマオに服を引かれては、後ろを指差しながら声を掛けてくる。


『パパー。ジェスが尾行してるみたいだけどどうするー?』


「やっぱり尾行させてたか…。椿が何も言わないって事は気付いてないか、さっきのメッセージでリヒトとなにか企んでるか…なんだよな」


『ポスカにも困ったものでござるな…。若が取られないのか心配なのでござろうが、束縛は時に人の心が離れる原因となるのに』


『パパ殿、幼馴染さん達が動く前に痛い目に遭わせますか?いや、気絶の方がいいです?それとも黒焦げに?』


「最初の方は軽めなんだろうが、最後の選択肢は殺意しか感じないぞ…。とにかく、椿達に危害を加えそうにないならそのままでいい。あくまで監視してるだけならな」


『じゃあ、変な動きをしたらぼく達からガブッといっぱーつ!しますね!』


舌を出しながら口端を上げて俺を見るダスクの頭を優しく撫でれば、リヒトが黒鉄をじっと見詰めていることに気づく。

黒鉄だけではなくダスクやマオの事も気になっているようで聞くか聞かぬか暫し悩んでいるような素振りを見せた後、好奇心に負けたのかリヒトが口を開く。


「ライア、連れているペット達は何処で購入したんだ?」


「いきなりどうした、リヒト。普通の子達と変わらないだろう?」


「…私や椿、韋駄天が連れているのとは少し雰囲気が違く見える。前線でも見たことが無いタイプだ」


「言われてみればそうかもしれないな!俺のグリムはタマゴから孵った時からそんなに小さいサイズじゃなかったし!」


「リヒトが言いたいのはサイズじゃないわよ、バカ…」


真剣な話が韋駄天のせいで逸れそうになったが、そうはいかないとリヒトが俺を見つめてくる。

昔から勘がよく隠し事を見抜く才が長けていたがそれは今も健在ということらしい。

どうしたものかと答えに困るがこの三人に隠した所で何時かはバレるし、逆に隠していたことで俺にそんな悪知恵を仕込んだのは誰だと探しに行くだろう。

俺に対して過保護な所があるのも困ったものだが、伝えておけば力になってくれるとも思い此処に来るまでの出来事を包み隠さず話す。

最初の方は大人しく聞いていた三人なのだが、途中から椿の目付きが鋭い物になり、韋駄天は苦笑いのようなものを浮かべ、リヒトはと言えば眉間を抑えながら深い溜息を吐く。


『パパー、皆の目が怖いねー。お叱りが来るか、呆れられるか…はたまた拳が飛んでくるのか…どれなんだろー?』


『パパ殿…たとえボロ雑巾にされても痛いの痛いの飛んでけーしてあげます!』


「……黒鉄、悪いが回復魔法を用意しておいてくれ」


『承知でござるよ…』


幼馴染達の反応を見たマオとダスクが何かを察したかのように俺を哀れむような目で見てくるので、もう慣れっこだと言うように遠い目をしながら小声で黒鉄に回復魔法の用意をしてもらうのだった。

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