23-幼馴染・中
流石の椿も可愛い子供の狼に止められてしまえば従わざるを得ないのか恨めしげに俺を睨むんできているが、ゲームの中でまで問題を起こされては困る。
そもそも俺が居るから突っ込んでいくとかお願いだからやめて欲しい。
三人組が楽しげに話している姿を見て椿も誘拐ではないと分かったのか、大人しくその場に留まっているのを見て安堵する。
傍まで行くと不貞腐れたように頬を膨らませながら俺を見る椿に苦笑混じりに声を掛ける。
「椿…その後先考えないところ直せって言っただろ?」
「幼馴染の前だから気兼ねなく出してるのよ。いつもはちゃんと冷静に判断できるように勤めてるわ」
「いや、その冷静さを俺が居る時にも出してくれよ」
「嫌に決まってるじゃない!折角肩肘張らなくていい知人と居る時くらいのびのびしたいもの!」
「気の抜き方がどう考えても違うだろうが!」
『パパの面倒見の良さってここから来てるのかなー?』
『そうかもしれぬでござるな…。椿殿はじゃじゃ馬と言うやつではなかろうか?』
『パパ殿…大変です。後で沢山ぼく達で癒すんです!』
椿の暴走が止まったのでダスクが服の裾をから口を離し、俺の足元へ来れば体を擦り寄せてくるのでその場にしゃがんで再び抱き上げる。
腕を組みながら憤慨している椿がリストバンドへ視線を落とすと、慣れた様子で操作しているので誰かからメッセージが届いたのかもしれない。
しばしの休憩時間だと思いインベントリからマオ達のおやつ用にストックしやすいクッキーを取り出しては、椿のペットの凛にも渡してやると暫く見つめた後に一口齧り嬉しそうに尾が揺れている。
『パパのお菓子美味しいでしょー!』
『甘さも丁度よく歯を入れると硬すぎず、柔らか過ぎずのサックリ感が良いのでござるよなぁ』
『パパ殿美味しいです!もっと早くパパ殿の元に来たかったです…』
クッキーを食べながら何やら盛り上がっている四匹を見ていると、椿が深い溜息を吐きつつ片手は腰に当て眉間を抑えていた。
何かあったのか問おうと口を開き掛けた所で、何故か上から声がしたので不思議に思い俺は顔を上げる。
上空の方に大きな鳥の影が見えれば、そこから誰かが飛び降りてきたのが見えた。
幾らゲームとはいえ、かなりの高さから落ちれば落下ダメージが入ってもおかしくないと思うのだが大丈夫なんだろうか?
「椿ぃぃ!!そこに居るのがライアかぁぁぁ!?」
「………なぁ、椿。アレってまさか」
「そのまさかよ…。少し離れましょ」
『ちょ、若?アレ、大丈夫なんでござるか?』
『結構な高さあると思うよー?』
『パパ殿の幼馴染は…なんか、凄いです!』
椿に腕を引かれて建物の傍まで避けると、動揺している黒鉄の背中を優しく撫でつつ、マオとダスクがどうなるのか興味津々と言った形で行く末を見守っている。
凛はと言えばクッキーが気に入ったのか俺にもう一枚欲しそうな顔をしており、暫し悩んだ後にクッキーを手渡すと同時に石畳の床が割れる音と土煙が辺りに広がる。
マオがトワイライトに鉄球を落とした時よりはマシな衝撃なので俺は平然としていれば、走ってくる音と共に勢い良く抱きつかれ間に挟まれたダスクからくぐもった悲鳴が上がった。
凛は巻き込まれまいと既に椿の肩へと避難しているのを視界の隅に捉えつつ、マオと黒鉄が焦ったようにダスクの様子を確認している。
「ひっさしぶりだなぁ!!昨日、電話で話はしたがこうして顔が見れて嬉しいぜっ!」
『うぐぅ…くるひぃでしゅ…』
「ちょ、離れろ…ダスクが潰れかけてる…」
『ダスク大丈夫ー!?』
『生きるでござるよー!!』
『たしゅ、たしゅけて…』
「ん?あぁ!!すまんすまん!何か柔らかい物が挟まってるなとは思ってた!」
『花畑が、見えました…』
相変わらずの周りの見えて無さに苦笑を浮かべつつ、椿にも抱きつこうとして顔面に一撃を喰らっている姿に笑ってしまう。
尻餅をつく形で地面に座り殴られた顔面を抑えている男は、重力に反して跳ねている焦げ茶色の短髪に黒い目をしている。
服装は楽そうなTシャツとジャージの上下を着ていてサンダル姿である。
なんとも緩い格好をしているが、昔からスポーツ万能で駆け回っていたので自然に鍛えられているからかガッチリとした体付きである。
「えーっと、ゲーム内では…なんて名前だったっけ?」
「おいおい!記憶力悪くなったんじゃねぇか、ライア?
「言い難い名前にしたわよねぇ…。っていうか、なんで空から来てんのよ!」
「街歩いてても広場に着かねぇからに決まってんじゃねぇか!ついでに、俺の相棒もライアに見せたかったしな!」
「相変わらず方向音痴なのか…韋駄天…」
『うわぁ!おっきいねぇ!』
『立派な翼でござるなぁ!』
『丸焼きにしたら美味しそうです!』
『いや、焼いたらダメでござろうよ。姉上みたいなこと言うんじゃないでござるよ』
『流石に白も彼は食べないでしょー?野生ならともかく使い魔を食べたらパパみたいな主さんが黙ってないよー』
『いや、野生でも食べぬでござろうよ…。でも、肉になったらペロッと食べそうで怖いでござるな…』
韋駄天の後を追うように後から飛来した大きな翼の持ち主が地に降り立つ。
鷲の上半身と獅子の下半身を持つ姿の使い魔として良く物語にも出てきやすいグリフォンが礼儀正しく俺達に礼をする。
何処となく高貴な雰囲気を纏う姿に呆気にとられていたのだが、食べようとするダスクとマオ達の会話のせいで笑うのを必死に堪えるしかない俺だった。
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