16-ドリアは好評

地面に伸びているポスカとターニャの傍で正座をしているジェスを交互に見つつ、取り敢えずはドリアを配膳すると匂いに涎を垂らした白銀が食べていいのか伺うように俺をチラチラと見ている。

熱いから気を付けるように注意をしつつ、食べさせ係を買って出てくれるマオとルフにスプーンを渡してから箱庭に声を送る為に指輪に触れる。


『ん?どうしたんじゃ、ライア殿』


「食事が出来たんで長老も一度出てきて欲しい。一緒に食べよう」


『おや、ワシらも馳走になってよいのかの?人の手作りの料理は久々じゃのう』


返答が来れば指輪から淡い光が放たれ、足元に綠が現れればドリアの香りにやられたのだろう。

大きな腹の音を響かせれば誤魔化すように笑ってからルフの傍へと移動していく。

その様子を見ていたターニャとジェスが呆然としているので冷めない内にどうぞと声を掛けてやっとそれぞれスプーンを手に持った。


『むー…すっごく熱そうなんだぞ…』


『ウィンは猫舌だもんねー…少し冷まさないとダメかなー

?』


「マオ、ウィンには俺が食べさせるからセラフィとヴィオラに食べさせてやってくれ」


『ありがとなんだぞ、主っ!』


ドリアを食べたいが湯気を見て耳を伏せて恨めしげに見ているウィンを抱き上げれば、マオが頬を膨らませながら地団駄を踏んでいる。

不満げにしながらもセラフィとヴィオラに少しずつスプーンで掬って食べさせる手は止めないマオの姿に、面倒見の良さが滲み出ていた。


『むむむ…なんで僕こんなに器用になっちゃったんだろー!』


『マオ兄ちゃんは一番上のお兄ちゃんだから仕方ないよ』


『時折やり過ぎるけれども頼れるお兄様ですの!』


『あ、ちょっ、亀の爺さん!?それわてのやで!?』


『ん?なんじゃ、皆同じ器じゃから間違えてしもうたわい』


『姉上のドリアを熱そうな素振りも見せずに食べているでござるよ…』


『オラ、こんなに美味い飯初めて食ったど!幾らでも食えちまいそうだぁ』


今回は黒鉄が白銀に食べさせているのだが、熱さなど気にせず食事を楽しんでいる綠にどうやらドリアを奪われてしまったようだ。

凱ともちゃんと分けているのか満足気な顔をしており、ルフは膝の上に茜色の体毛の子狼を乗せながら分け合って食べている。

今何か見逃した気がしなくもないが、ウィンにドリアをスプーンで掬っては少し息を吹き掛け冷ましてから食べさせてやりながらターニャとジェスの方を見る。


「これは、美味いね…。ペット達も食べるから塩味を少なくしてるんだろうけど素材の旨味も出ている…。ジェスやポスカ様が気に入るのも分かるかもしれない」


「ターニャも気に入ってくれたようで嬉しいっすよ!あ、口元付いてる」


「ばっ、ばばば、バカヤロウ!誰が見てるか分からないんだぞっ!?」


「いいじゃん…夫婦のスキンシップは大事でしょ?」


「私が大丈夫じゃないんだよ、このバカッ!」


「のわっちぃぃぃっ!!」


ドリアを一口食べては僅かに目元を緩め咀嚼するターニャの傍にジェスが座っている。

どこか幸せそうな雰囲気を放っている二人の会話を聞いていれば、ターニャの口の端に付いた米粒を食べるというジェスの行動に頬が一気に赤く染まる。

照れ隠しの様な言葉の後に、ジェスが皿を持って食べているのを見たのか手を重ねるようにターニャが添えたかと思えば顔面に向かって押し付ける。

良く芸人がバラエティ番組で生クリームを乗せた紙皿を顔に押し付けられるという図なのだが、持っているのは熱々のドリアなのだ。

顔を真っ赤にしたジェスが顔を冷やす為に外に走って出ていくのを見送る。


「ターニャは相変わらず照れ屋なんですねぇ…」


「ポスカ様…あんまりジェスをこき使わないでやってください…。スキンシップが激しくなると私が困りますっ!」


「そんなに照れる必要ないと思いますよ?私だってライアさんにアピールしまくってる…ひっ!」


『あんま調子乗っとるとケツに牙食い込ませたるで?』


『若には今後、指一本触れさせぬでござるよ…』


『ポスカ接近禁止用の結界が張れる護符を作りますの!』


床に伸びていたポスカが復活して俺の傍に来ようとすれば、立ちはだかるように白銀と黒鉄が威嚇をし始める。

互いに睨み合っている二匹と一人の様子を見て苦笑を浮かべつつ、ドリアを完食して満足気な顔をしているウィンの腹の毛を撫でていると、綠がこちらへと歩いてくれば空の器を差し出してきた。


『もう食べ終わってしもうたんじゃがの…ワシ、もう一杯食べたいのぅ』


「長老…結構食べるの早いんですね…」


『パパー、僕もおかわり欲しいー!ヴィオとセラフィと三匹で分けるからひとつでいいよー!』


『お、オラも食べたいんだな…』


「今作ってくるから待っててくれ。ターニャさん、おかわりは?」


「頂いても、いいのか?」


「大丈夫ですよ。ペット達のおかわりように少し多めに分けてあるので」


ジェスが居なくなった事で料理を集中して食べていられたのか、空になったドリアの皿を見つめ悩んでいそうなターニャに声を掛ればおずおずと皿が差し出される。

笑みを浮かべながら受け取ってはウィンを長老に預けてから再びキッチンへと戻る。

料理人やメイド達も一旦休憩というように集まって賄いとしてドリアを美味しそうに食べている姿を見つつ、おかわり分を用意するとオーブンに入れて焼いている間に使用した調理器具を洗ってしまうのだった。

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