15-女料理長・後
チラリと周りを見渡してマオ達の姿がない事を確認してから笑みを浮かべてそのまま背中にポスカが抱きついてきた。
傍から見れば年の離れた弟が甘えているような光景だが、現在料理中でありふざけていればクリームソースが焦げかねない。
周りの料理人達が口元を両手で覆いながら動揺しているのが分かるも、出来るならポスカの保護者を呼んできてくれないだろうかと視線を向けるが、意図は汲み取って貰えず何人かは頬を染めながら凝視している。
しかも、必死に表情を取り繕おうとしているが口元が緩んでいる。
「おい、マジかよ…。ポスカ様が客人にあんな風に抱き着くなんて…」
「しかもすっごい笑顔だし俺、初めて見たわ…」
「もしかして、あの噂って…本当だったのか!?客人さんが意中の人だったのかよ!」
コソコソと話をしている声が聞こえてくるも、ポスカは否定しようとはせずに笑顔を浮かべながら俺の背中に頬を擦り付けていた。
料理の邪魔にならないように腰周りに腕を回しているので邪険にも出来ず、ポスカにとって絶好の甘え時となってしまっている。
「ふふふ…マオくん達が居ない今こそ絶好のチャンス…。ライアさん、良い匂いがしますぅ」
「ポスカ、それは今作ってるクリームソースの匂いだ…。満足したら離れてくれよ?」
「当分満足しないのでこのまま抱きついてますね!!」
「護衛用にマオだけでも連れておけばよかったな…」
深い溜息を吐きつつソースにとろみが付いてくれば一旦火を止めてから、土鍋の様子を横目に見つつインベントリからスプーンを取り出す。
クリームソースの味見に少しスプーンで掬い取り、息を吹き掛けてから口に入れると味は薄目だがしっかりと食材の味もしていい感じだ。
服を引かれて振り返れば目を輝かせて口を開けるポスカに肩を竦めつつ、一口分スプーンで掬うと息を吹き掛けてから口元に差し出してやれば嬉しそうに食いつく。
「んー!!おいひいです!やっぱり、ライアさんのご飯は最高です!」
「褒めても何にも出ないぞ…。後は米が炊けたら耐熱皿に移し替えてチーズとパセリを掛けて焼くだけだな」
クリームソースが出来てしまえば後の工程はそこまで時間が掛からないので待っている間に更に耐熱皿にバターを塗っていく。
この光景を見ていた料理人達の中でうっとりとしながらこの光景を見ている少し小柄な男と、背が高い男がコソコソと話をしている。
「生で美青年同士の絡みが見れるなんて…ボク幸せ。尊いよぉ…。どっちがタチでネコなんだろう…クルトはどっちがどっちだと思う?」
「ふむ…俺は、客人さんがタチでポスカ様がネコ、だと思うな」
「ボクも同じ!…体格差って良いよね」
「……カインは、体格差もいけるんだな」
胸の前で手を合わせながら俺とポスカを見て身悶えているカインと呼ばれた背の低い青年を、熱っぽい視線でクルトが見ている事に気付いた様子は無い。
キッチンの様子を伺うように見ているメイド達もチラホラ居たのだが、誰も止めるつもりもなく様子を見ているだけである。
土鍋からご飯の炊けるいい香りがしてくれば、一旦火を止めて蒸らしに入る。
「ポスカ…そろそろ離れろ。オーブンとか使わないといけないからしゃがむ時に邪魔になる」
「名残惜しいですが仕方ないですねっ!客室の方で大人しく待ってますっ!」
満足気な顔で俺から離れて客室の方へ向かう後ろ姿を見送れば、深い溜息を吐いてから軽く身体を伸ばす。
『なんでポスカからパパの匂いがするのー!?』
『コイツ!わてらが居らんからってなんかしてきたんやな!?』
『下のブツを噛み千切ってやるんだぞ!』
『行くんだ、ウィン…ボクは止めない』
『あばばば!落ち着いてくんろ、お前達ぃぃ!』
客室の方からここまで届くようなマオ達の大きな声が聞こえるも、俺は何も知りませんと言う顔で蒸らし終えた土鍋の蓋を開けて中の米の様子を確認する。
牛乳を吸って更に白く艶やかに炊けている米を見て一口分へらで掬い冷ましてから口に入れて噛み締めれば、牛乳の甘みと米の甘みの中に塩味がしていい感じに炊けていた。
そこからは手早く耐熱皿に均等に炊きたてのご飯をよそってからクリームソースを掛けて馴染むように混ぜ合わせる。
チーズとパセリを掛けてからオーブンに入れて焼き色が付くのを待つ。
沢山作る癖ができてしまっているので、余分に作ってしまった分はキッチンを借りたお礼に料理人と廊下から覗いていたメイド達の賄いとして食べてもらう事にする。
ちゃんと白銀やポスカのおかわり分は残しているので大丈夫、だと思いたい。
「取り敢えずマオ達に食べさせてから一回片付けに来るか…」
箱庭に居る長老にも声を掛けなければいけないので意外と忙しいなと思いつつ、焼きあがったドリアを皿に乗せ大きなお盆に乗せてから客室へ向かう。
熱い内に持っていった方がいいと気を利かせて一緒に配膳しようと同じようにトレーにドリアを乗せて手伝ってくれるミアに礼を言う。
手の空いているメイドに客室のドアを開けてもらうと、ターニャが怒りの形相でポスカにコブラツイストを仕掛けている場面を目撃する事になる。
『いけー!もっとやったれですのー!』
『料理長なのに素早い身のこなしでござる!』
ターニャに向けて応援するマオ達の姿を横目に部屋の中を見渡せば、頬に真っ赤な紅葉の跡を付けて正座をさせられているジェスが居る。
一体何があったのかと思うも、料理を持っている俺が視界に入ったのか舌打ちをしながらポスカを解放し、ターニャはソファーに腰掛けたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます