14-女料理長・前
門の前で倒れているポスカをマンダとジェスが回収に向かって行くのを見つつ、案内の為に来てくれた使用人のミサにキッチンへ案内してもらっていた。
料理人の作ったご飯に不備があったかと心配していたが、そうではなく自分が作った食事をマオ達が食べたがっていると説明すれば、なにか察したような顔をして頷いていたのが少し気になる。
慌ただしくしているキッチンへと踏み入ると視線が俺に集まり目を瞬かせるが、マオ達を連れたまま来てしまった事に気付けば申し訳なさに頭を下げる。
「すみません。キッチンを借りようと思ったのですが、マオ達を連れたまま来てしまいました。ごめん、ミサさん。マオ達が待っていられる部屋は近くにある?」
「でしたら、向かいの客室の方にお連れしますよ」
『そっかー。僕たちが居たら料理出来ないよね』
『旦那はん、兄さん達はわてと黒とルフはんがしっかりと見ておくさかい安心してや』
『私も居るから安心していいですの!』
『一番安心できないのは白の姉者と黒の兄者なんだぞ…』
『み、皆が暴れないようにオラがちゃんと見ておくだよ!』
『ルフ兄はそんなに気負わなくていいよ。何かやらかせばママが怖いだけだから』
マオとセラフィはルフの肩の上に乗り、白銀がヴィオラを、黒鉄がウィンを抱える形でこの場を離れていくのを見送る。
身体に毛が付いていないかを確認してから再度キッチンに顔を出せば、腕を組みながら俺を見る女性が居た。
小豆色の髪を頭巾の中に綺麗に仕舞い、少しキツイ印象のあるツリ目がちの緑色の瞳が特徴的である。
「アンタがポスカ様が気に入っている客人かい?私はターニャよ。キッチンに来たって事は何か料理のリクエストでも?」
「いや、良ければ少しキッチンを借りれないかと思いまして…。さっき連れてた俺のペット達がお腹が空いたと言うので何か作らせてもらいたいんです」
「…私らの料理じゃ口に合わなかった…って事かい?」
「あ、そういう訳じゃないんです。皆さんの作る料理も美味しいって食べてたんですけど…俺が作った物も食べたいと言われたもので…」
俺以外の作る料理も普通に食べるのだが、毎日作っていた事もあるし何より今回は俺が作りたいだけなのでマオ達をダシに使ってしまう事に罪悪感を少しばかり感じてしまう。
僅かに目を細めながら真意を探ろうと俺を見るターニャの視線に冷や汗を掻くが、小さく息を吐くと肩を竦めながら了承の言葉が耳に届く。
「客人の行動を制限したいわけでもないし…構わないよ。ポスカ様にもアンタが料理をしたいと言ったら貸して欲しいとも言われてるしね」
「ありがとうございま…」
「但し…私の分も作る事が条件だ」
「えっ…?」
「ポスカ様からアンタが猫の遊び場で料理を習ったと聞いてるからね。あのソアラが料理を教えるなんて相当な実力者なんだろう?」
「いや、普通に趣味で料理をしてるくらいでそんなに期待させる程の実力は持ち合わせていないというか…」
「何言ってんだい、あのポスカ様にマンダ様、それにあの人の胃袋も掴んだんだろう?期待させてもらうよ」
意地の悪い笑みを浮かべながらキッチンを出て行くターニャの後ろ姿を見つつ、大事になったなと思うも残っていた他の料理人たちが助手は要るかと問い掛けられたので大丈夫だと返す。
ターニャの口から出た猫の遊び場とソアラの名にそわそわとしていた人々は、俺の言葉に残念そうに肩を落としてそれぞれ作業に戻っていく。
多少の申し訳なさを感じつつ隅の一角を借りる事にすれば、やはり簡易式の調理台などより広さと清潔感のある設備を見て感嘆の息を漏らすと早速作業に取り掛かる。
インベントリから使い慣れた鍋や包丁などの調理器具は用意しつつ、これから作ろうと思っている料理に必要な耐熱皿などを用意する。
「結構マオ達はミルク感がある物が好きだからな…。今日はドリアでも作るか」
そうと決まれば残り物に炊いたご飯があるかと確認するも、炊飯前の米しかなかったので炊いている間にソースなどを用意しようと思い、土鍋と牛乳、塩を取り出す。
先ずは米を研いでから土鍋に入れると軽く平らに慣らしてから米が見えなくなるまで牛乳を注ぐ。
軽く塩を振りかけて木べらで軽く掻き混ぜてから蓋を閉じて火にかける。
「ドリアにするからな。少し硬くても更に此処から火を入れるから芯が残る事は無いし問題ない、ハズ…」
独り言を呟きながらクリームソースを作る為に、深めのフライパンを取り出す。
インベントリから玉葱、キノコ、コッコの肉を取り出す。
キノコはエリンギに似た形をした物と、マッシュルームに似ている物を薄くスライスしてから脇に避けておく。
その後に玉葱を薄切りにすると、一度包丁を洗ってからコッコの肉を一口サイズに切る。
材料の仕込みが終わったのでフライパンを中火で温めると、油ではなくバターを一欠片乗せて全面に馴染むようにして溶かす。
玉葱の薄切りからフライパンに入れ、ある程度火が通るまで炒めてからコッコの肉、キノコと順に投入し焼き色が付いたのを確認してから薄力粉を加える。
牛乳を少しずつ注ぎ入れしっかりと薄力粉が溶けたことを確認してから塩と胡椒でコンソメで少し薄味に仕上げる。
「今炊いてるご飯にも少し塩が入ってるし、塩分のあるチーズを更に加えるなら控えめで十分だよな」
「私は塩辛くてもライアさんが作った料理ならなんでも食べますよ!」
「うぉわっ!いつ湧いた!?」
焦げ付かないようにクリームソースを掻き混ぜながら呟くも、背後から返事が返ってきたので振り返れば額に絆創膏を貼ったポスカが満面の笑みを浮かべて立っていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます