17-喧嘩はダメです
二杯目のドリアを用意している間にマオ達の大きな声がキッチンまで届いたので俺は目を瞬かせる。
何かあったのかと思い自分で元々所持している器具などを食洗機に掛けつつ、おかわり分を持って客室に戻ればルフを取り囲むようにしてマオ達が集まっていた。
綠と凱は落ち着いた様子で笑いながら遠目に見守っているが、何か企んでいそうな気がする。
『もー!!ウィンもこの子も勝手に混ざるのなんでー!?』
『元から居る子だと思って、オラ一緒に食ってただよ…』
『わてらの匹数把握しとらんルフはんと親しくなるんを狙うやなんて…ちっこいけど策士なんちゃうか?』
『うー、コイツ…あの狼と同じ感じがして嫌なんだぞ…』
『お兄達やだ!パパ殿が見辛いです!退くのです!』
『あ、若…この子が何時孵ったか分かるでござるか?』
「いや、皆目検討がつかないが…」
おかわりのドリアを所望していた長老やマオ、ルフに食べさせ役の黒鉄の前に置きながら、先程一瞬視界に入った茜色の毛の子狼がマオ達を押し退け姿を見せると尻尾を振って俺を見ていた。
俺を呼ぶ声は少年のような声色でよく見れば靴下を履いているかのように前足の先は黒い毛が生えており、後ろ足は白い毛が生えてる。
尻尾は根元の方が白っぽい毛から始まり、中間あたりは綺麗な茜色で柔らかそうな毛が生えているのかフサフサしているが、尾の先はしっかりと尖り黒い毛となっている。
空色の瞳を輝かせて俺を見つめる子狼と暫しの間視線を交わしていると、ターニャがドリアを食べながら声を掛けてくる。
「やっぱりその子、客人さん所の子だったのかい?」
「えっと、この子は何時頃から一緒にいました?」
「キッチンに入って来た時には一緒に居たけどねぇ…?」
「あ、それなら私がお答えできます!キッチンに案内した際に客間にマオくん達を案内していたら客人さんの足元に突然タマゴか現れて孵ってましたよ」
「……因みにタマゴの殻は?」
「こちらに!ペットの飼い主さんによっては記念に集める方も居ると聞いた事がありましたので!」
「ありがとう、ミアさん」
気を利かせて回収してくれていたのか橙色のタマゴの殻が入った袋を俺に差し出してくれたミアに礼を言いつつ受け取れば、最近予定よりも前倒しで産まれてくるのには何かあるのだろうかと思ってしまう。
運営が密かに孵化時間短縮キャンペーンでもやっているのだろうかと考えながらも、インベントリに袋を仕舞うと子狼に向けておいでと声を掛ればマオ達を掻き分けて俺の足元へと走ってくる。
目の前で子狼がちょこんとお座りをしたのを見て前足の付け根部分に手を差し入れ抱き上げ、尻の下に腕を回すような抱き方に変えれば首筋に顔を埋めてきた。
『パパ殿!パパ殿!良い香りがします!カッコイイです!素敵ですー!』
「うぉ…なんか、マオ達とは違って勢いと圧が凄いな?」
『が、まん…我慢ぅ……』
『マオ兄ちゃんステイ、ステイだよ…』
『ここ最近しっかり甘えられてないからか、マオ兄様の限界が来てしまいそうですの…』
『わてらも大所帯になっとるから我慢せなアカン所が多くなっとるからなぁ…』
『姉上、またドリアが長老殿の餌食になりそうでござるよ』
『フォッフォッフォ…バレてしもうたわい』
『そのドリアはわてのやから手を出すんやないわ!』
限界寸前のマオを落ち着かせようとセラフィとヴィオラが声を掛けており、その傍では白銀のドリアを奪おうと画策していた綠が黒鉄に告げ口をされている。
ルフは困ったようにマオ達を見ているがドリアを食べる手が動いており、熱そうにしながらも口元は緩んでいるので思ったより神経は図太いのかもしれない。
子狼を睨みながら唸るウィンに気付き、手を伸ばして優しく頭を撫でた後に抱き抱えれば俺に擦り寄るものの顔は背けてしまう。
「マオ、後で相談があるから一緒に散歩しようか」
『!!する!パパと散歩ー!』
『あ、ずるっ!わてとも今度散歩してぇや!』
「これからの事もあるし今度一匹ずつ話もしようと思ってるからその時にな?」
『若!約束でござるよ!』
『とと様とのデートですの!』
『ボク、楽しみ』
『フォッフォッフォ!このジジイとも、散歩してくれるのかの?』
『え、オラもその中に入ってるだか?』
「きっとその中には私も…」
取り敢えずは場が収まりつつあるので安堵しつつ、この二匹のステータスはちゃんと確認しておかねばならないのと、子狼の名前も考える必要がある。
マオ達に便乗してポスカが何か言っていた気もするが大したことでは無いだろうと思いつつ、腕の中で喧嘩を始めそうなウィンを宥めるように背を撫でる。
「あの狼はトワイライトっていう名前だったよな…。直訳で黄昏とかそう言った意味合いだった気がするが…」
『パパ殿がつけてくれる名前、楽しみです!そっちの獅子よりカッコイイのがいいです!』
『な!俺様の名前は充分カッコイイんだぞ!』
「コラ…俺が抱えてる時に喧嘩するんじゃない。言うこと聞けないと、落とすぞ?」
『うっ…ごめんなさい、パパ殿』
『ごめんなさいなんだぞ…』
あからさまに耳を垂らして落ち込む二匹の頭を優しく撫でつつ、名前はどうしようかと考える。
子狼の茜色の体毛は夕暮れ時を思わせる色だ。
色々とそれに関連する言葉を連想するが、どれも長く名前にするには微妙な所もある。
運営がトワイライトという名前を使ってなければ決めていたのだが、生憎と使われてしまっている。
しばし悩んだ後に、気に入るかは分からないので子狼の目を見ながら問いかける。
「名前なんだが、ダスクはどうだ?夕暮れっていう意味があるんだがその白から黒に変わっていくような尻尾の色が夜へ向かうような感じに見えてな」
『ダスク…ダスク!ぼくの名前はダスク!気に入りました、パパ殿!』
尾をブンブンと揺らしながら口端を上げると頬を舐めた後に軽く鼻を俺の唇に押し当ててくるダスクに目を見張れば、マオ達の居る方向からどす黒いオーラが漂ってきている気がする。
何故かポスカが居る方向からも同じようなオーラを感じれば、腕の中にいたウィンがダスクに負けじと俺の唇に鼻を押し付けてきた。
『…まだ、僕だってチューしてもらった事ないのにっ!』
『わてかて我慢しとったのに…あんな新参者達に先を越されるやなんて…』
『許せませんの…許せませんのぉ!』
『ママの唇を奪うなんて…万死に値する』
『可哀想でござるが、今ここで殺っておかねばならぬな…』
「私のライアさんの唇を…返せぇ!」
嫌な予感にドリアを持ってキッチンの方へと逃げていくターニャを見て、俺もウィンとダスクを置いて逃げようとしたが大喧嘩に巻き込まれてしまう。
下手したら流血沙汰待ったナシだったのだが、機転を効かせた綠のお陰で事なきを得るものの、ボロボロになった客間は暫くの間修理の為に使用不可となったのだった。
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