12-シスコンな姉(?)
こちらへ歩いて来ながら軽く頭を下げる牛頭と馬頭を見て前にもこんな事があったなと思いつつ、ルフに抱き締められ幸せそうに眠る琴葉を回収しに来たのだろうと考える。
他の人から見たら如何にもな格好の男二人に俺が絡まれているように見えるかもしれないが。
「おぉ、やっぱり…あの時の兄さんじゃぁ!」
「今回もお嬢がお世話になったようで申し訳ねぇ!」
「いや、前みたいにいきなり泣かれてしまうとかは無かったので大丈夫ですよ」
「なら良かった…と言えば良いのか分からんのじゃが兄さんは今すぐココを離れるべきじゃ!」
「お嬢はワシらが預るんで、はよぅ逃げた方がいい!」
「え、いきなりどうしたんですか?」
初めの方は再開に喜んでいたが、ハッとしたように此処から去る事を勧めてくる二人に首を傾げる。
ルフは琴葉を抱いているから動けない状態なのでマオ達が何かあったかと心配そうに俺の傍へやって来ると、牛頭と馬頭を威嚇している。
俺の肩にマオが移動してきたかと思えば、白銀が身体に緩く巻き付き牛頭と馬頭の顔をしみじみと見つつ、黒鉄が頭の上にセラフィを乗せて腕にヴィオラを抱えている。
臨戦態勢のように俺を守る気満々のマオ達に落ち着くように告げるも、ウィンだけは牛頭と馬頭の着ている服装に興味津々なのか彼らの足元で飛び跳ねていた。
『凄いんだぞ!肩当てから棘が生えてるからタックルとかしたら沢山ダメージ稼げそうなんだぞ!オレ様も欲しいんだぞ!』
「な、なんじゃあ?可愛い子猫がオレ達を見てるぞ、兄ぃ」
「普通は警戒して寄ってこんのに珍しい事もあるもんだなぁ?じゃなくって、兄さん!早くこの場を離れ…」
「牛頭?馬頭?アタシの可愛い琴羽は見つかったのかしら?」
「「ひぇっ!来ちまったぁ!」」
石畳の床を靴音を響かせながらこちらへと歩いてくる誰かが見えるが、逆光で顔に影があり表情までは確認できず陽の光を反射している赤い髪が綺麗である。
小さな溜息を吐きながら俺を一瞥した後に牛頭と馬頭に声を掛ければ、何とも男らしい低い声にマオが目を擦って歩いて来ている人物を何度も確認している。
白銀と黒鉄も動揺してか視線が右往左往していた。
目の前まで来ると俺よりは少し背が低い細身の体の線が出る赤いドレスを身に付け、襟元に柔らかそうなファーのあしらわれた黒いジャケットを肩に羽織っている女装した男が正面に立つ。
顔立ちも中性的で赤い長髪を一つに結い上げ、見える青色の瞳は外国の血を引いているのかもしれない。
赤いピンヒールを華麗に履きこなし、その手には
「牛頭、馬頭。この男は誰だい?」
「あ、えっと…前にお嬢がご迷惑をお掛けしてしもうた人でして…」
「あぁ…琴葉がテラベルタに居た時に会ったって言う王子様ね?ふぅん、確かに…あの子が好みないい顔してるじゃないかい」
俺を頭から爪先まで値踏みするように見ては、気に食わなそうに睨み付けるもその後ろに居るルフを見て目を見張る。
正確にはルフが抱き締めて寝かし付けた琴葉を見てなのだが、小さく肩を震わせると靴音を響かせながら駆け寄ると頬を緩ませ写真を撮り始めたのだ。
「琴葉たん…かっわぃぃぃわぁぁ!熊に抱き締められて寝てる天使サイコォォォ!」
「えっと…あの人は…」
「お嬢がこのゲームをやる為の保護者であり実の兄である乙葉様じゃ…」
「死にたくなければオカマとは言わんように…」
「…牛頭さんに馬頭さんは、苦労されてそうですね」
頬から一筋の涙が伝っていくのが見え、牛頭と馬頭の苦労が垣間見えた気分になる。
マオ達は失礼にならない程度に乙葉を見つつ、それぞれ思った事を口にしていた。
『なんか、パパが女装してた時も思ったけど…世の中には性別を間違えて産まれてきたんじゃないかっていう人、結構居るんだねー』
『わても、あの時だけは頭がバグるんやないかと焦ったわ』
『とと様の女装、見たかったですの!お姉様達狡いですの!』
『若は美しかったでござるよ…』
『ポスカがガン見してたよ、ママを…』
『旦那はんに手を出しとったら凍てつかせて割り砕いとったわ』
『オレ様も主の女装見たいんだぞー!』
「……女装はもうしないからな?」
ドラグの住処の事件での話で盛り上がるマオ達に眉を寄せながらキッパリと拒否の意を示す。
本当に必要であればやらなければならなくなるとは思うが、進んでやりたいというものでは無い。
神威に女装の件でも怒られているし、何より黒い牙の連中に見つかるとややこしい事になりかねない。
「はぁ…最高だったわ…。この熊、貴方の使い魔?」
「はい、そうですけど…」
「ふぅん、その他にも琴葉とツーショットをしたら可愛くなりそうな子を沢山連れてるわね…。本来なら嫌だけど、アンタが琴葉と仲良くするのを許してあげるわ」
「は、はぁ…」
「それと、アタシとフレンドになる事を許してあげるわ。何か困り事があったら相談しなさい。荒事でも何でも相談に乗るわよ」
ほぼ強制的に乙葉に牛頭、馬頭とフレンドになるも、琴葉は寝ていたので俺から申請しておく。
ルフから琴葉を起こさぬ様に横抱きに乙葉は受け取ると、愛おしげに頭を撫でる姿に親のような愛情が垣間見える。
俺に向けて軽く手を振ってからこの場を離れていく彼らの後ろ姿を見送ると、疲れがどっと押し寄せてきてベンチに腰掛けると俺は深い溜息を吐くのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます