9-結局

綠とマオ達のせいで泣き始めてしまった熊にどうしたものかと宥めるように背を撫でてやりつつ、今候補として挙げられている名前以外の候補を考える。

流石にこのまま進めれば目の前の感情豊かな熊は一生後悔するかもしれない。

物を作るのが好きならば縁のあるような名前がいいのだろうが、いくつか神の名前が頭に浮かぶもそのまま付けるのは良くない気がする。

マオ達でも呼びやすい名前であれば、もっと絡んでいきやすくなるだろう。


「くま吉とかは嫌なんだろう?俺が考えたものだが、これも候補に入れてみるか?」


『もう今の名前候補から他の案が出てくるなら何でもいいだぁ!ちゃんとオラのこと考えて欲しいだよぉ…』


『虐めすぎたかのぅ…』


「自覚があるなら反省してくれ…長老」


舌を出しながら片足を上げて頭をコツンと叩く綠の姿に俺は苦笑するも、静観していた凱が小さな溜息を吐いてから頭突きをして叱っている。

その姿を見ながら綠と凱はそれぞれ独立した存在なのだなと興味深く見ていたが、今は泣いている熊を宥める方が先だ。

マオ達を見てから名前の候補に思考を巡らせる。

漢字系の名前を持っているのが長老を含めると五で、カタカナ系で名付けたのが三匹である。

バランス的には漢字の方が現在多いのでカタカナで付けても問題は無いだろう。


「長老、この子は加工や物を作るのも得意だったりするのか?」


『そうさな。手先は器用じゃし、要領もいいからしっかりと教えてやれば鍛治も覚えられるじゃろうし結構有能かもしれないのぅ…どこか抜けとるけど』


『最後の一言が余計だど、長老!』


「そうか…。んー、ルフ…はどうだ?確か、どこかに出張に行った時に聞いた鍛冶関連の神様の名前から二文字貰ったんだが…」


『ルフ…オラ、それがいいだ!…気に入っただ!ライア、ありがとう!!』


「ちょっ、待ってくれ!あまり力強く抱き締めな……あ、加減してくれたのか」


『オラはちゃんと加減ができるだよ!人は脆いって長老から聞いてるど』


名前が気に入り感極まったようにルフが抱きつこうとして来たが、朝の騒動とデミアンにより既に体にはそこそこのダメージが残っている。

ここで力強く抱き締められれば確実に折れると思い拒絶しようとするもルフは思ったよりも動きが早かった。

背中が折れる事も覚悟で目を瞑るが、思ったよりも優しく抱きしめられてしまえば拍子抜けしてしまう。

不意に応接室の扉が開いてデミアンが戻ってくれば、この光景を見て首を傾げた。


「ただいまー!ふふふ、一番広い箱庭が残っていたから持ってきちゃ…あら、何この状況?」


「感極まった熊くんがライアくんに抱きついてるのヨ」


「あらあら…もう成獣に懐かれるなんて羨ましいわねぇ…。あ、忘れてたわ。この耳飾りの性能を今度のイベントの運営の人に伝えなきゃいけないから報告書書かないとなのよね」


「大丈夫なのヨ。書類仕事は得意だからデミアンはライアくんの事を頼むのヨ」


デミアンにウィンクをしてから席を外すシャイナの姿を横目に見つつ、絶妙な抱き締め方をするルフを宥めるように背を撫でて離してもらえばマオ達が寄ってきて身体を擦り付けてくる。

マーキングのし直しとでも言うように甘えてくる姿にどうしたものかと思いつつ、デミアンへ視線を向ければ微笑みを浮かべながらテーブルの上に指輪が置かれた。

大きな珠が銀の台座にしっかりと固定されているのでちょっとやそっとでは外れそうにない。


「ライアくんの持っている物は回収させてもらうわね?多分この子達を見てると今まで使った事なさそうだし買取扱いにするわよ?」


「それは有難いです。マオ達が箱庭に入らず俺と一緒に歩くのが好きだったので正直持て余してたんですよね…。今回は長老が使ってくれるみたいなので有難いです」


「箱庭に入る事を嫌う子って実は結構居るのよ。主との繋がりが切れる訳じゃないんだけど姿が見えないと落ち着かないし、他のペット達と仲が悪いと居心地が悪かったりもするからね」


デミアンにアルマから貰った箱庭を手渡し、テーブルの上の指輪を装着すれば綠がじっと珠を見た後に笑みを浮かべる。


『フォッフォッフォ…かなり上等な箱庭じゃのう。準備が整ったら、特訓の始まりじゃからのぅ。この中は多少暴れても問題ないのは昔喚ばれた時に把握済みじゃからな…遠慮なくやらせてもらうぞい』


『アカン、今わての鬣が逆立ったんやけど…どうしよ』


『奇遇でござるな、姉上…。某の龍翼もビリビリしたでござる』


『爪研ぎ放題なの楽しみなんだぞー!』


『…あのお爺ちゃん見てると毛がザワザワするー』


『あのお爺ちゃまとは私、特訓したくないですの…』


『白姉ちゃん、黒兄ちゃん…冥福を祈っておくね…。ウィンは油断しちゃダメだよ』


『『セラ、勝手に殺す(んやない/んじゃないでござるよ)!』』


『オラはマオ達に色々とライアの事を教えてもらわんとだべ』


「アタシもまた家族召喚しようかしら…なんか、大所帯も楽しそうだし羨ましくなってきちゃうわ」


長老が早々に箱庭の中に移動した後、あまり長居しても申し訳ないと思い、お詫びの品としてマオが欲しがっていた大容量の小動物用リュックなどを割引してもらうという形に変更してもらい破格な値段で購入させてもらう。

その後、クエストのクリア報酬として緑色のタマゴと装備ボックスを貰ってから店を後にするのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る