8-熊の名前は如何に
会話を重ねていく内に警戒心も解けてきたようなので、この先の事を話題に出してみる。
「えっと、長老…と呼べばいいですか?俺はライアと言います。これから貴方と熊さんがどうやって過ごすか希望があったりしますか?」
『嫌じゃのぅ、砕けた話し方でえぇぞい。そうじゃなぁ…。ワシはお若いのが持っておるその箱庭に住まわせてもらいたいんじゃがよいかのう?』
『オラも出来れば長老と一緒が…』
『お前さんはダメじゃ。箱庭の中を改築するからのぅ…時期が来たらそこの白いのと黒いのに子猫を呼ぶから嫌だと言っても箱庭に詰めておくれ』
終始どこか楽しそうに話を進める長老に白銀と黒銀が嫌な予感に身を震わせるが、ウィンは爪研ぎと聞いているのでどこか余裕そうな顔をしている。
一緒に住む事を拒絶された熊はショックを隠せない様子で落ち込んでおり、肩に乗っているセラフィやマオが慰めている。
ヴィオラは皆が触りたがる尻尾を差し出しているのを見て、無意識に俺が手を伸ばして触ってしまう。
話を聞いているだけだったデミアンが不意に席を立てば、俺に向けてウィンクと投げキッスをしてから声を掛ける
「ライアくんの持ってる箱庭はグレードが低いものだからアタシからそれよりイイ物をプレゼントさせてもらうわ」
「力のある成獣は箱庭の地形も己の力で住みやすいように環境を構築することが出来ると昔本で読んだのヨ。その為にはなるべく広い方が好ましいらしいから少し待っていて欲しいのヨ」
『フォッフォッフォ…有難いのぅ。そうじゃ、本契約の為にもワシの真名をお若いのに教えてやらんと…ちと手を出してくれるかの?』
「あぁ、これでいいか?」
『うむ、よいよい。真名に関しては召喚者のみが知り得る情報となる。他者が知っても意味が無いものではあるが、あまり呼ばれたくないものでのぅ。今のように長老と呼んでもらえると嬉しいわい』
ヴィオラの尻尾を撫でるのをやめて長老の前に手を差し出せば、笑いながら説明をした後にただの飾りだと思っていた亀の尾となる蛇が俺を見た後に手に噛み付く。
僅かな痛みに眉を寄せるものの、目の前に見える光景が僅かながら色褪せ違う空間に連れていかれた様な気分になる。
周りを見れば時間がゆっくりと流れているような錯覚に陥るが、俺の手を噛んでいる蛇の持ち主である長老は少しの間目を見張るもどこか納得したように頷いている。
『ふむ、ワシを喚んだ時点で只者では無いとは思っておったが…あやつらも黙ってはおらなんだろうな』
「長老、何をしたんですか?」
『ん?少しばかり周りとの時間を遅くしただけじゃよ。あの方の御子よ。改めて名を名乗らせて頂こう。ワシは南を守護するよう命を受けた
「綠と凱…それが真名と言うやつですか?」
『えぇ、ワシの真名となります。真名を持つワシのような成獣は認めた者に自ら明かすのが礼儀。御身と出逢えたことに感謝を致しますぞ。ワシの寿命が尽き、次代の玄亀に力を託すまで持てる知識をもってあの
礼儀正しく綠が頭を下げた後に蛇が俺の手から口を離せば、色褪せていた視界がクリアなものへと切り替わる。
先程の真面目な態度からうってかわり爺ちゃんモードに切り替わった綠は熊に声を掛けると俺を見る。
『ほれ、熊よ。お前さんもライア殿に挨拶せんかい。こやつはこう見えてまだ幼くてのぅ。多分、ワシを背負っていたから付いてきてしもうたのかと思うが…これも縁じゃろうて名付けてやってはくれませぬか?』
『長老!何を勝手に言ってるだか!?オラは卒業試験の家造りが達成出来とらんし、名付けはやり遂げた後と言うとったじゃろ!?』
『状況が変わったんじゃ。お前さんのその技術はライア殿の力になる事は間違いなしじゃ。この方は生産系の技術もあるからもっと面白い物も制作したりできるようになるかもしれんぞ?』
「いや、俺が名付けるんじゃアレですし…。彼は長老さんが名付けてあげた方がいいんじゃないか?」
『優しいのぅ、ライア殿は…。なら熊よ…。くま吉、くま蔵、くま吾郎、くま太郎、くま汰…さぁ、どれがいい?』
『待ってけろ、長老!どれも適当過ぎじゃぁ!』
『なんじゃ、ワシに名付けて欲しいんじゃろう?早う選べ』
「ど、どれも可愛い名前だと…思うヨ…」
シャイナが笑ってはダメだと肩を震わせながら熊に声を掛ける。
その言葉を皮切りにマオ達が自分達の名付けの時を思い出しているのか遠くを見つめながらしみじみと語り始めた。
『あぁいう名付け方されんで…わてらは幸せやな…。わてと黒はちゃんと双子と思って貰えるように対になるようなもんを考えてくれた旦那はんに感謝やな』
『うむ、蜥蜴だからとか吉。蛇だから蛇子とか付けられてたら某達は絶対に絶望してたでござる…』
『とと様は体の色とかも色々と考えてつけてくれますの…』
『オレ様はこれからも勝ち続けられるようにって意味でこの名前を貰ったし…雲泥の差なんだぞ…』
『ママ、名前考えてくれてありがとう』
『大丈夫だよ、僕達はどんな名前を付けられても熊さんと仲良くするからね』
『その同情の眼差しとこれしか選択肢が無いという感じやめてけろぉ!』
長老の名前候補を聞いて流石のマオ達も熊に同情したのか哀れみの視線を向けており、まだ決めた訳では無いが泣き出してしまったのだった。
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