7-召喚された成獣
魔法陣の光が部屋を満たすと眩しさに目を閉じれば、デミアンとシャイナの驚いたような声が響く。
最早、眩しさなんてどうってことないとでも言うような声色にそんなに珍しい成獣が来たのかと思って目を開ければ、目の前に黄色地に緑で安全第一と書かれたヘルメットを被り、良く工事現場で働く方々が着ていそうなベストを着てツルハシを振り上げた状態で硬直している熊が居た。
振り下ろすべき標的が居なくなり行き場を無くした腕を下ろせば、口元を両手で押さえながら辺りを見回している。
その背中には尻尾が蛇になっている何年も生きていそうな大きな亀を背負っており、そちらはのんびりとした動きで熊の背を叩いている。
『あばばばば!ここはどこだで!?オラは長老の家さ作ってたハズだど!?』
『フォッフォッフォ…面白ーいことに巻き込まれたようじゃのぅ?ふむ、最近はめっきり減っとったが家族召喚で喚ばれたようじゃなぁ』
『なぁにが家族召喚で喚ばれたようじゃなぁ、だぁ!どうやって家ば帰ればいいと、長老!』
『まぁまぁ、落ち着け…。ほれ、ワシらを呼び出した兄ちゃんが戸惑っとるぞ』
「驚いたわね…。家族召喚で二匹の成獣が来る事なんてあったかしら?」
「昔は良くあったと前任者は言ってたけど…私は見るの初めてだヨ」
『なんや、来たのは爺さんみたいな亀と気弱そうな熊やん』
『立派な部類じゃなくて良かったと言うべきでござるか…』
『むー!!それでも嫌〜!!』
『ちっちゃな兄者はイヤイヤ期なんだぞ』
取り敢えず喚ばれた熊と亀に害は無いと見たのかマオ以外は落ち着いている事に安堵の息を漏らす。
落ち着き払っている亀とは別に泣きそうになっている熊の二匹を見ながら俺は頬を掻く。
格好からして二匹とも戦闘向きではないように見えるのでサポート役だろうか?
取り敢えず魔法陣を離れて隣の応接室のような場所を借りる。
熊は相変わらず挙動不審な様子で出されたお茶を匂いを嗅いだりして警戒しながらも、息を吹き掛けて冷ましてから一口飲んで美味かったのか目が輝いている。
どうやらこの二匹の声は俺にだけ聞こえているらしく、契約が結ばれている証拠なのだそうだ。
『いやぁ、まさかこの歳になって人と契約するとは思わなんだっちゅう奴じゃな』
『オラはなんで長老が平気な顔しとるのか全くもって分からん!』
『そう言いながらお前さんもその茶が気に入ったんじゃろうて…。おっと、話が逸れてしもうたわい…。それで、お若いの。ワシらを召喚した理由を伺ってもえぇかのぅ?』
「えっと、俺も何も考えずにこうして召喚に至ったというか…。けど、折角応じてくれたのだから不自由な生活はさせないように心掛けるよ」
『フォッフォッフォ…なんとも、ワシらに対しても物腰柔らかな良き青年じゃ。でなければ、お前さんの傍に居る子供達も懐かんじゃろうなぁ』
『パパになんかしたらコレで殴ってやる!』
『マオ兄様!いつの間にそんな物騒なハンマー手に入れたんですの!?』
『この前の買い出しで買ってたよ、マオ兄ちゃん』
『若!こんな物騒なもんを兄殿に買い与えたらダメでござろう!?』
『気をつけなアカンもんがどんどん増えとるやんか!』
『大体小さな兄者を怒らせるのは白の姉者と黒の兄者なんだぞ』
前に購入したハンマーを持って今にも殴り掛かりそうなマオを止めている姿を見て怯える熊と、元気だと笑う亀に俺は苦笑を浮かべるしかない。
興味津々なデミアンとシャイナは、何やら耳に見慣れない物を装着している。
先程から会話には入ってこずに終始黙って聞き入っているような感じなのは耳に装着しているものが関係しているらしい。
取り敢えずはバトルに発展する前にどうにかしなければと口を開こうとした所で熊が興味深そうにマオのハンマーを見ていた。
『お前さん面白い物を持っとるじゃなか。ちぃとオラにも見せてくんろ?』
『壊したりしないでよー?』
『幼子が持っとるもんば壊したりせんよ。ふむ、ちっこいもんじゃが面白い細工がされとる…』
『ふむ、喚び出したお前さんにワシらの事を教えようかのぅ。こやつは探鉱熊という種族なんじゃが、本来ならこやつの半分くらいの背丈が通常サイズでな。突然変異っちゅうやつなのか分からんが、採掘、伐採の他にも加工やら色々と得意でのぅ。このサイズじゃて、同族の嫁探しても拒否られるから絶賛独り身の可哀想な奴じゃ』
『長老!!最後の一言は余計じゃ!』
「へぇ。採取が好きなマオとペアを組んだら色々と新しい素材とかも見つけてきてくれそうだな。それに、面倒見も良さそうだし」
ハンマーを見ながらマオと少しずつだが会話を重ね、興味を示したセラフィやヴィオラと打ち解けつつある姿に上手くやっていけそうな気がする。
長老と呼ばれている亀は愉快そうに笑いながらも、未だ警戒している白銀と黒銀と興味が無さそうに欠伸をして俺の前で腹を見せているウィンを見て目を細める。
『ワシの専門は戦闘じゃからな。そこの黒いのと白いのを鍛えてやろう。そこの子猫は近接系じゃろうしワシの甲羅を爪とぎ用に貸してやろうかの。まぁ、ワシは寿命が近いからのぅそこまで強くしてやれんかもしれんが』
『そげなこと言いよって…長老はまだまだ現役じゃろ』
『えー、そんな事ないぞい?ただのちぃとばかしお茶目な爺ちゃんじゃもん』
『自分で言うもんやないと思うんやけど…』
『姉上に同意でござる』
『爪研ぎできるのは嬉しいんだぞー!』
「なんかもう不安しか感じないんだが…食費も、掛かるだろうし本気で稼がないとか…」
なんやかんやと気が合いそうな面々を見て一気に大所帯になったように感じるペットと使い魔、成獣達に俺は深い溜息混じりに独り言を呟くのだった。
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