6-ラビリアのペットショップ・後

危うくこの世とおさらば仕掛けた俺だったのだが暫くソファーに横になり休ませてもらった事で回復し、現在二階で魔法陣の修復をしているシャイナの姿をデミアンと一緒に眺めていた。

マオ達が威嚇するので俺に直ぐに抱き付けない距離をキープして立つデミアンに若干の申し訳なさを感じつつ、虹蜘蛛の縦糸を魔法陣の線の上をなぞる様に丁寧に垂らしている。

虹蜘蛛の横糸も所持していたのでこちらの方がいいのではと告げたが、横糸だと万が一失敗した時にその粘着性が凄まじく修復不可能になるそうなのだ。


「シャイナはホント細かい作業が得意で羨ましいわぁ…。アタシがやるとどうにも上手くいかないのよねぇ」


『多分、繊細な作業は絶対に任せられないタイプだと思うでござる』


『任せた時点で事故りそうやんな』


「そこの龍くんと蛇ちゃん…今、失礼な事考えなかったかしらん?」


『勘も働くみたいなんだぞ』


『下手に変なこと言えないねー』


デミアンに睨まれて困ったように狼狽えている姿を横目に、魔法陣の上に置かれた虹色に輝く蜘蛛の縦糸が綺麗だ。

魔法陣の中心に女神の涙石が置かれ、魔法陣を囲むように一定の間隔で魔石が配置される。

シャイナが用意を終えると膝に着いたゴミを払ってから窓辺に立て掛けられている杖を魔力で引き寄せて手に持つ。

深呼吸をしてから縦糸を杖の底で押さえながらシャイナは詠唱を始めた。


〈我、汝と汝を求むる者との絆の導き手なりー

古き盟約によりこの陣を用いて我らの呼び声に応えし友をこの地へ誘う為の門を再びここに設けるー

願わくば永遠の縁が結ばれん事をここに願うー

家族召喚・再構築サモンファミリア・リビルド


シャイナの詠唱と共に中心に置かれた女神の涙石から淡い桃色の光を放ち、蜘蛛の縦糸を伝って魔法陣全体に広がる。

魔石が呼応するように光を放つと引き寄せられるように宙に浮かび上がれば、円を描くように回転すると女神の涙石に吸い込まれる。

桃色の光が部屋中を満たし眩しさに目を腕で隠し、光がゆっくりと消えていく。

部屋の明かりが元の照明だけとなった事を確認してから魔法陣を見ると、魔法陣の上に乗せられていた虹蜘蛛の縦糸と女神の涙石は陣に同化したのかそこには無い。

魔法陣の修復が上手くいった事にシャイナは胸を撫で下ろすと、膝から力が抜けたのか崩れ落ちそうになるのを何時移動したのかデミアンが支えるように抱き留める。


「お疲れ様、シャイナ」


「上手くいって良かったヨ…。私の魔力量だと足りるか分からなかったけど、ライアくんの持ってた魔石が最高純度だったから成功したようなものなのヨ」


『マオ兄様が見つけてきたものだから最高純度なのは当たり前ですの!』


『ヴィオ姉ちゃんが胸張ってどうするの…』


「成功したなら良かったです。アルマさんに他の店の手伝いを頼まれてたので」


「あら、アルマちゃんがそんな事をお願いしてたの?なら、後でお礼の手紙を送っておかないといけないわね」


「アルマ様は先見の明があるので私達のピンチが見えてたのかもしれないのヨ」


「まさか王都からテラベルタに出向するとは思わなかったけど、結構のんびり屋さんだからその方が良かったと言うべき部分も多いわよねぇ」


倒れ掛けたシャイナを横抱きして近くの椅子にデミアンは座らせると、懐かしげにアルマの事を話す。

昔からあんな感じでマイペースだったようだが、新人や上の者達からも一目置かれる存在だった事が分かった。

陣の状態を確認するようにデミアンが中央に立てば、軽く魔力を流してみているのか呼応するように虹色の光が放たれる。

問題がない事を確認してから俺を手招きするので傍に行けば、陣の上に乗った瞬間に体から何かが抜けていくような感覚に陥った。


「本来ならお金を取るんだけれどもライアくんは修復する為に一肌脱いでくれた功労者だからね!特別に一回分サービスしちゃうわ!」


「え、待ってください!俺にはマオ達が居ますし…」


「大丈夫よ!今居る子達とも相性のいい存在をちゃんと呼び寄せてくれるわ。後悔させないから安心してちょうだい」


『あの筋肉男許さないー!パパには僕達だけで十分なのにっ!』


『完璧に油断してる所をしてやられたでござるな…』


『あのマッチョが抱き締めた時に旦那はんをわざと気絶するまで追い込んでおけば…』


『白姉様、その方法だと最悪、とと様がお亡くなりになってたので同意できかねますの…』


『むー、ママ…男にもボク達みたいなペットにもモテモテだから心配』


『まぁ、なるようにしかならないんだぞ…。主に仇なすならその場で殺っちまえば問題ないんだぞ』


『『『『『確かに』』』』』


「お前達、流石に思考が危ない方向に行き過ぎだから落ち着け」


魔法陣に乗ってしまった時点で中断が出来ない仕様なのか足を動かしたくても動かせない状態に俺は眉を寄せる。

デミアンとシャイナはどんな成獣が出てくるのか期待にソワソワしているが、逆にマオ達はどす黒いオーラを発しながら俺の背中を睨んでいる。

どんな成獣が呼び出されるか分からないが、血が出るような大惨事にならない事を俺は祈るしかないのだった。

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