70-腹ぺこモンスター・後
上機嫌で飛び跳ねている獅子の子供を見て悔しがっていたマオ達だが、ゲームに決着が着いた事でやっと冷静になったのか新しい家族が誕生していた事に気付いた。
『……ちょっと、パパー!この子いつ孵る予定だったの!?』
「予定通りなら3日後だな。俺もまさか孵ってお前達に混ざって遊んでるとは思わなかったわ」
『楽しそうに遊ぼうとしてる声が聞こえて、オレ様居ても立ってもいられなかったんだぞ!』
マオが慌てたように俺を見て問い掛けてくるので、貰った時の事を思い出しながら答えつつ串焼きを引っくり返す。
肉の焼ける音と香りに我慢ができなくなったアイオーンが寄ってきたので、暫し考えた後に味見のつもりでスープをお椀に少しよそって差し出す。
ラプラスにも味見をしてくれとお椀を手渡しては、彼の動きを見ながらゆっくり食べるよう教え、アイオーンが小さく頷いたのを見てから肉の焼き加減を確認する。
『やっぱ一匹増えとったやないかい!』
『もっとちゃんと言わねばダメでござろう…姉上…』
『あの時、白姉様を弄って邪魔したのは黒兄様ですの…。だから、罪を償うんですの!』
『黒兄ちゃんは、串焼き没収…』
『妹達が容赦ねぇでござるっ!』
『取り敢えずパパの所に行かないとー!ほら、こっちおいでー!』
『わかったんだぞー!』
白銀が責められる感じになるのかと思っていれば、話を茶化してしまったらしい黒鉄がヴィオラとセラフィに怒られているのが見える。
獅子の子は嬉しそうに飛び跳ねていたがマオの声に素直に応じると、俺の方へと一直線に走ってくる。
最初の串焼きが焼けたのでインベントリから大皿を三枚取り出す。
塩から全て焼くつもりなのでコンロから焼きたての串焼きをラプラスとポスカ、マオ達の分へと分けて盛り付けていく。
低めの少し大きい簡易テーブルを傍に置いて串焼きの乗った皿を乗せると、マオ達とスープを飲んでいたアイオーンが傍へ来る。
一旦、焼くのを止めて足元に来て俺を見上げる獅子の子を抱き上げつつ、尻を抑えて地面に倒れているポスカに声を掛ける。
「くっ、すまない…団員達よ…。私の体力がないばかりに…っ。腹ぺこなマオくん達は獰猛なモンスターでしたっ…」
「ほら、そこで落ち込んでるポスカもテーブルのセッティングとか手伝ってくれ」
「ライアくん、このスープ凄く美味しいよ」
「なら良かった。取り敢えずスープの方はまだ火を入れたりするから出来たての内に串焼きを食べててくれ」
『僕達はー?』
「マオ達はこっちのテーブルに乗って食べててくれ」
『了解やー!』
『アイちゃんは某の食べ方を真似するでござるよ』
それぞれテーブルを用意したりして席に着くと食べ始める姿を見つつ、次の串焼きをグリルの上に並べて焼いておく。
腕の中に居る獅子の子の喉元を優しく撫でてりつつ、串を並べ終えれば横目に様子を伺いながら声を掛ける。
「マオ達と遊んで楽しかったか?」
『楽しかったんだぞ!みーんな、足が早いからオレ様も少し本気になっちゃったんだぞ!』
「そうか。楽しかったなら良かったよ」
『主はオレ様を撫でたいだけじゃないんだぞ?』
「ああ、お前の名前を決めようと思ってたんだけど…どうしようかと思ってな」
喉を鳴らしながら楽しかったと柔らかな肉球で腕を叩いてくる獅子の子が口を開けて目を細める。
何となくだが笑顔を浮かべているような気がしてしっかりと抱え直してから、一旦肉をひっくり返して裏面を焼く。
腕の中で食べたそうに耳と尾が揺れているのを見て、マオ達の所から串焼きを一本取ると口元に持って獅子の子の口元に差し出せば肉に食らいつく。
『んんんんん!美味しいんだぞ!早く孵って良かったんだぞ!』
『うぅぅ!僕も最近食べさせてもらってないのにー!』
『兄殿、某達は兄なのでござるから我慢でござるぞ』
『そう言いながら尾が不満げに地面を叩いていますの、黒兄様』
『解せぬでござる!』
『尾は口ほどに物を言うっちゅうやつやな!』
『ボク達しか通じないような変な格言作っちゃダメだよ、白姉ちゃん…』
一心不乱に串焼きに噛み付いているマオ達を見て笑みを零しつつ、追加の肉が焼ければ皿に盛るとポスカ達も負けじと喰らいついている。
童顔のラプラスの口から酒が欲しいと零れれば、まだ昼間なのでダメですと俺が言えば口を尖らせつつも美味しそうに串焼きを食べている。
そろそろ味変すべきかなと思い、スパイスで味付けしたものを焼いていく。
「ずっと名前を考えてたんだが、マオ達を負かしてポスカに噛み付いて勝ってたから…ウィンでどうだ?」
『ウィン…。気に入ったんだぞ!これからも勝ち続けるんだぞー!』
『新しい弟の名前決まったのー?ならこっちおいでー!串からお肉外してあげるから食べなー?』
『ちっちゃい兄者ありがとなんだぞ!』
マオが気を利かせて声を掛けて来たのでテーブルの上に下ろしてやると、串から外した肉を食べて尾を揺らしているウィンの頭を撫でる。
撫でて欲しそうにこちらを見るマオ達を撫でていると、しれっと頭を差し出してきていたポスカを叩いてからミルクスープの方を確認し椀によそっていく。
『あー!美味いわァ!焼き立ての串焼きは噛む度に肉汁が溢れて最っ高や!』
『アイちゃん大丈夫でござるか?若が沢山焼いてくれるでござるからそんなに急いで食べなくても大丈夫でござるよ』
『白姉様のペースが早すぎるから負けてられないと思っちゃったんだと思いますの…』
『すっごいペース早いもんね…』
「神威も腹を空かせてインしそうだし、焼きたてを容器に入れてインベントリにしまっておくか」
怒涛の勢いで串焼きを食べている姿を見ていれば、美味しそうな匂いに釣られてか涎を垂らしながらじっとこちらを見ている子供達が視界に入る。
暫し悩んだ後に手招きをすれば、顔を輝かせてこちらに走ってくるので、串焼きを手渡すと嬉しそうに頬を染めながら食べる姿を見て思わず笑みが浮かぶ。
この後、意識を取り戻した少年を連れてきたジェスとマンダが加わり出来たてのスープも配って賑やかな食事となるのだった。
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