69-腹ぺこモンスター・中

アイオーンを囲むようにして話をしているマオ達を見ながらスープに入れる食材の支度をする。

キャベツの芯をくり抜き四等分にした物を二玉分と、小さめの玉ねぎの皮を剥いて根と芯を取り除き十字に包丁を入れた物を二十個、後はほうれん草やブロッコリー、人参を細かくみじん切りにした物を入れて牛乳と水を6:4位の比率で入れる。

この世界での名称がちゃんとあるが、普通に現実にある物の名前を使う方が俺的にはしっくりくるのだ。

調理スキルのお陰か材料の仕込みも手早く済ませられるので非常に助かっている。


『ねーねー。ただポスカを噛むんじゃ面白くないからゲームでもしようかー』


『ナイスアイデアやな!ルールはどないするん?』


『んー、足は一点、腕は二点、尻は五点のその他無効で一匹チャンスは三回までの点数方式はどうでござるか?』


『賛成ですの!勝ったら何かご褒美ありますの?』


『勝ったら…ママと添い寝権…三回分は?』


『『『『それで!!』』』』


「お前達…俺の了解も得ずに勝手に報酬にするな…。構わないが、甘噛みにしておけよ?」


『オレ様も参加するぞー!』


『負けないからねー!』


『ん?ちょい待ち、一匹増えとらん?』


『細かい事気にしてるとハゲるんだぞ?』


『姉上はハゲまっしぐらでござるな』


『うぉい!わてには立派な鬣があるんやから黒の方がハゲとるやろがい!』


盛り上がっているマオ達に苦笑を浮かべつつ、コンソメや塩と胡椒でスープの味を整えては焦げ付かないように軽く掻き混ぜてから蓋をする。

その間にブルルンの塊肉を用意すると、豚バラブロック位の厚さになるよう切り分ける。

後はサムギョプサルを作る時の肉の厚みより少し大きくなるように切り分けてから、もう一度包丁を入れ一口より少し大きいくらいのサイズに調整する。

三種類のボウルに山盛りになるよう分けては、一つは塩にし、もう一つはスパイス、最後の一つは隠し味に蜂蜜を入れた焼き肉風のタレで味付けをする。


「ライアさーん!そろそろお昼だと思ってきまし………アレ?なんかマオくん達怖いなー?」


『フッフッフッ…旦那はんとの添い寝権…わてが貰うでー!』


『僕が貰うに決まってるでしょー!パパの隣は僕のもの!』


『負けないでござるよ!』


『とと様の料理の邪魔にならないように範囲と対象指定の結界を張りましたの!存分に暴れますのー!』


『ボクも頑張ってつつく!』


『つつくと噛むは別物だと思うんだぞ?』


来るなり結界に閉じ込められたポスカは困惑したような顔でマオたちを見ている。

話を終えたラプラスも帰ってきたようで今の状況が分からず首を傾げている。

ポスカのみを指定した結界という事で見えない壁が出来ているからか、不思議そうに結界に触れているので俺の方に来るように手招きする。

大回りをする形で傍に来るラプラスにそこら辺に椅子を用意して座るように促す。


「これ、何事なの?」


「あー、ポスカが来たら噛んでいいって言ったら本気のゲームをする事になってな?」


「それは…なんと、まぁ…」


「腹も減ってるだろうから多分本気度二割増位かもしれない」


「ちょっと!ライアさん!なんて事を!私、腕っ節はあっても足はないって言ったじゃないですか!」


「そうだな。マオ達に一度も噛まれなかったら今日、明日の夕飯は俺が団員分も作るぞ」


「死ぬ気で頑張ります!!」


にじり寄ってくるマオ達を見ながら泣きそうな顔で叫んでいたポスカだが、夕飯が俺作のものになり団員分もとなると話は別なのだろう。

両頬を叩いて気合を入れる姿を見ながら、ブルルンの肉の串打ちが終わったのでBBQ用のコンロを取り出す。

木炭が入ると自動で火がつく便利な魔道具なので多少値は張るが、このゲームで調理スキルを持っているならぜひ買って欲しい。

手をかざして網に火が入った事を確認してから先ずは塩から焼いていく。

先にタレを焼くと焦げたタレが網に付くので効率が悪くなるからだ。


「制限時間は最初の串焼きが焼けるまでだぞー」


『あぁぁぁ!肉の焼ける匂いがたまらんっ!』


『あっ、アイちゃんが本気モードになってる』


『皆ー!甘噛みだからねー!本気で噛んだらダメだよー!』


「待って!!ホントに待って!!お肉焼き始めたら今以上に早くなるとか私ついていけない!」


「ポスカくんファイトー!」


「どうせなら素早さの上がるバフくださいよっ!」


「遊びにズルは禁物でしょ?」


「確かに…じゃないんですよー!!!皆、私の尻を狙い過ぎぃ」


『にゃっははっ!楽しいんだぞー!』


必死に逃げるポスカを追い掛け回すマオ達を見ていたが、確かに一匹多いなと思い数を確認する。

白銀と黒鉄に、マオ、ヴィオラ、セラフィとアイオーン。

そこに混ざっている獅子の子供のような姿で青みがかった体毛に尾の先と前足、後ろ足に紫色の炎を纏った子が混ざっているのに気付く。


「アレ?ライアくん。タマゴ落とした?」


「え?まだ使ってないですよ?」


「そうなの?なんか足元に黒いタマゴの殻が落ちてるけど」


最初の挨拶から俺にくん付けする事に決めたラプラスの言葉に足元へ視線を向ける。

俺の位置から二歩分ほど離れた場所に黒いタマゴの殻が散乱していた。


「イッタァァァッ!」


『オレ様の勝ちなんだぞー!』


『むー!!負けたー!!』


『ポスカ殿が逃げ回るせいで結局誰が先に噛むかの勝負になってしまったでござるよっ!』


『意外と体力ありますのっ!腕っ節しかないって嘘つかれましたの!』


見事ポスカの尻に噛み付いた獅子の子供は勝ち誇った顔で尾を揺らしながら飛び跳ねていた。

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