68-腹ぺこモンスター・前
宿の借りている部屋まで戻ってくると、扉の前に神威が預かる事になった子龍が居た。
俺の気配に一瞬警戒したが、姿を確認すると安堵したような表情をした後に歩み寄ってくる。
何かを咥えているのが分かりその場にしゃがみ込むと、差し出されるソレを受け取りどうやら手紙である事がわかった。
「えっと…神威からみたいだな」
〈ライアへ
すいません。今日はフルコマという事をすっかり忘れていまして…。インするのが夜になるのでアイオーンの事を預かってもらっててもいいですか?お腹が空いたら向かうようには言ってあるので…。このお礼は今度必ずします!〉
「お前、アイオーンって言うのか。腹が減ってるのか?」
『パパー。腹ぺこで死にそうって言ってるー』
『腹ぺこ…辛いよね…』
手紙を全て読んでからアイオーンと名付けられた切なそうにお腹を抑える子龍を確認し、早々にご飯を作らなければいけなくなりそうだ。
マオとセラフィが話を聞いてくれているので通訳をしてくれる者が居るのは有難いことである。
多分、部屋にも腹を空かせた食いしん坊が一匹居そうなのでどうせ作るならば纏めて作った方が都合がいい。
「ちょっと待っててくれ…。俺の所の食いしん坊にも声を掛け…」
『話は聞いたで!!』
「なんか前にもこんな事無かったか…?」
白銀達にも確認しようと部屋のドアノブに手を伸ばせば、自動で空いた事に驚いて目を見張るもドヤ顔をしながら身体を伸ばしてまるで立っているかのように胸を張る食いしん坊が居た。
飯の事になると地獄耳なのではなかろうかと思いつつ、奥の方には目を覚ました黒鉄がベッドに座っており足の間にヴィオラが横たわってブラッシングをされている。
昨日の夜に使ったブラシがそのままだったかと思うも、子龍の姿になったからか黒鉄は色々とやりたい事ができるようになったのかもしれない。
『若!おかえりなさいでござる!』
『とと様おかえりですのー!』
『旦那はん!飯作るんやろ!わては何時でもこの腹を旦那はんの料理で満たす準備は出来とるで!何作ってくれるんや!?』
「ただいま、黒鉄、ヴィオラ。…白銀、お前は先に言う事があるだろう…全く」
『パパ、どうする?一発やっとくー?』
『マオ兄ちゃん。それは後でにしよう。アイちゃん限界みたい』
個性が強すぎる俺の使い魔達に苦笑を浮かべつつ、何かしら噛んでいると空腹の苦しさは紛れるかと思い、インベントリからジャーキーを取り出してアイオーンに渡しつつ、本日二度目の食事作りの為に庭へと向かう。
ぞろぞろと引き連れて歩く姿は周りから見れば何事かと思うのだろうが、宿屋の女将達はもう慣れているのか微笑ましげに見てくる。
朝はムニエルだったので昼は何を作ろうかと考える。
「お前たちは何が食べたい?」
『僕はねーミルクっぽいのー!』
『わては朝は魚やったから肉がえぇなー!』
『某はパンケーキが食べたいでござる!』
『私は野菜たっぷりのスープが食べたいですのー!』
『ボクは、ナッツが食べたい…な』
「見事に意見が分かれるな…。アイオーンは何が食べたいって言ってる?」
『お腹に入るなら何でもいいってー』
『なんや、食の楽しみを知らんやっちゃなー!旦那はんの料理を食べたら生物とか出されても受け付けなくなるで!』
白銀がアイオーンを見て眉を寄せるも、二ッと笑って背中を尾で軽く叩きながら告げれば俺を自慢げに見てくる。
要するに、今オーダーした物を全部作れと言っているのが分かり思わず顔を手で覆う。
俺の料理が好きなのは良いが、昼からフルコースばりの飯を作る事になるとは思わなかった。
「仕方ない…。マオとヴィオラのオーダーは合わせてミルクたっぷりの野菜スープ。黒鉄とセラフィのオーダーを合わせて蜂蜜とナッツのパンケーキでいいか?」
『全然いいよー!』
『私も大丈夫ですの!』
『塩味と甘味のハーモニーでござるな!楽しみでござる!』
『ナッツの蜂蜜がけも、美味しい!』
ふと、俺が料理を作って食べさせているせいでこんなに舌が肥えてしまったのだろうかと思ってしまう。
作るのは嫌いではないし、美味しそうに食べるマオ達が可愛いので別に良いかと思ってはいるのだが、非常食嫌いはいつか直さないといけない。
色々と思考を巡らせていたが、何でもいいと言ったアイオーンがジャーキーに惚れたのか懸命に噛んでいるのを見てから早速料理用の器具セットをインベントリから取り出す。
「作ってる間、大人しくしてろよ?ポスカが湧いたら噛み付いていいからな?」
『わかったー!』
手を上げるマオを見て満足気に頷くと、先ずはスープから取り掛かる。
早めに作って冷ましては火を入れてを繰り返し味を染み込ませたい。
肉の方は串焼きを作る事にする。
マオがセラフィやヴィオラに食べさせる役は請け負ってくれるだろうし、姿が似ている黒鉄の様子を参考にアイオーンも食べる事が出来るだろう。
白銀は食う事になると自力で方法を思いつくので心配は要らない。
「ミルクの野菜たっぷりスープか…。キャベツや玉ねぎを丸ごと入れても美味しいよな」
買い出しに行ってよかったなと思いながら必要な食材を確認する。
肉に関してもブルルンの塊肉があるので量も問題ないだろう。
取り敢えず寸胴鍋を取り出してスープを拵える準備をするのだった。
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