66-大事な話・前

一旦宿へと戻ってくれば、楽しげに話をしているポスカとジェス、ラプラスが庭に残っていた。

マンダの姿は見えないので拠点へ戻ったのかもしれない。

宙を舞う楽しさを知ったのか鼻歌を歌いながらマオ達を乗せたまま飛んでいる白銀のお陰で、現在俺の肩にはセラフィが居り、黒鉄を抱えている状態となっている。


「ふむ、カツラだけでなく化粧用品なども扱っておいた方がセットで購入してもらえる可能性が高いという事ですね?」


「うん。他にも扱っている店はあるけれど質がいい訳じゃないらしいから長時間しっかりとメイクが落ちることなく維持できるとなお良いと思う」


「ふむふむ、ならその方向で開発を進めてみましょうかね」


「じゃあ、オレは知り合いの薬草に詳しい人に声掛けてくるっすよ」


「頼みましたよ、ジェス!ぜひ、ラプラスさんはこのまま拠点まで同行頂けたら嬉しいのですが…」


「構わないよ。まだ、時間はあるからとことん話し合おうよ」


吟遊詩人ともなれば、見た目に気を使う職業のひとつだと思い橋渡しをしてみたが、思ったよりも良い方向に話が弾んでいるようなので安堵の息を漏らす。

彼等が使用しているものの中に俺が所持していた物がない事を確認してから宿の部屋へと戻る。

女将さんに再度謝ってから部屋へ戻ると、ゲームだからか既に窓は修復済みであった。


「凄いな、綺麗に直ってる」


『直すのが早いねんなぁ!これなら何枚割っても…ひっ!』


「割ったら、分かってるよな?」


『すんまへんでした…』


『白ってすぐ調子乗っちゃうからなぁ』


『もうこの性格は直りませんの』


『それでこそ、白姉ちゃんだからしょうがない』


すぐ傍に並ぶようにして飛んでいた白銀がベッドの上にヴィオラを置いてから降り立つと、疲れたのか体を伸ばしている。

マオが白銀の上から降りると、俺に抱かれて眠っている黒鉄を見て何かあったのかと訴えるように見つめてきた。

黒鉄をベッドの上に寝かせてからマオに手を差し出すと、手の平に乗った後に肩へ向かって駆け上がってくる。


「白銀、ヴィオラ。黒鉄の事を見ててやってくれるか?」


『ん?えぇけど…。どないしたん?』


「買い忘れた物を思い出してな。ちょっと出てくる」


『了解や!ヴィオも調子悪いみたいやし纏めてわてが様子見ておくで!』


『この体調の悪さは、ほぼ白姉様が原因ですの…』


三匹の頭を優しく撫でてから部屋を後にすれば、マオが鼻先を顎に押し当ててくるので喉元を指先で擽るように撫でる。

セラフィも撫でて欲しそうに寄ってくるので、応えるように頭を優しく撫でれば満足気に目を細めている。


「マオ、お前はお兄ちゃんでもあるから…聞いておいた方がいいだろうと思って連れてきた」


『白と黒のことー?』


『…ボクも、ママに話しておきたい事ある』


「俺も聞いておかなければならない事があると思ってたんだ…。俺は知らない事が多過ぎるからな」


本来ならばヴィオラも連れてくるべきだったのだが、白銀との飛行でグロッキー状態になってしまっていたから今回は省いた。

流石に、体調が悪い者を連れ回すような事はしたくない。

セラフィは自分で飛んでいたし、マオはスリルのある事を好む所があるので色々と耐性があったのだろう。


『パパ、白と黒に何かあったの?』


「なんて言えばいいんだろうな…。本来ならお前達みたいに純粋であったら良かったのに、良くない事を刷り込まれていたと言えばいいのか…難しいな」


『ママ、白姉ちゃんと黒兄ちゃんは…何かに魂を縛られてるんだよ』


『セラ、どういう事ー?』


『ボク、魂になれるでしょ?白姉ちゃんと黒兄ちゃんを別の視覚から視る事が出来るんだけどね…何か糸のような物が、絡み付いてたの』


宿から外に出れば、黒鉄と白銀に声が届く事はないと見て歩きながら会話をする。

周りから見ると独り言を呟いているように見えるだろうが、そんな事は気にもならない。


「その糸からは、何か感じたりしたか?」


『なんて言えばいいのかな…。こう、執着というか…とにかく、良くない感情で溢れてた』


『何それ!白と黒、そんなこと言ったことないよー!?』


「今回の事件をきっかけに白銀と黒鉄が成長しただろう?それがきっかけなのか、少しずつ俺ではない誰かの命令がアイツらに働き掛けている事が分かったんだ」


魂に根深く刷り込まれた事だとは言いづらく、ましてや理解できるかも分からなかったので話していいものかという思いが過ぎる。

この世界の咎や業を喰らい、その身を穢す事さえ厭わないあの様子を話すべきなのか躊躇してしまう。

それから解放できる導は得たが、それをするにも俺がまだまだ弱く行動に移せない事も告げなければならない。

暫し悩んだ末に、ゆっくりと目を伏せて深呼吸をしてから二匹に告げる。


「白銀と黒鉄は、長年俺以外に使役された事を覚えているようなんだ。時折、あの方と言いながら口調が変わる事がある…」


『…そうだったんだ。アレは兄ちゃんと姉ちゃんにとって悪い糸だったんだね』


『白と黒は、大丈夫なの?』


大丈夫かと問うマオの言葉にどう答えるべきなのか分からず、俺は言葉を詰まらせるのだった。

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