65-穢れ
甘い香りを嗅ぎながら歩いていれば、黒鉄が俺から体を離して目線の高さが合うように翼を羽ばたかせる。
成長したばかりだと言うのにしっかりと自分の体の使い方を分かっている黒鉄に感嘆してしまう。
『若…某の体に溜まっていた穢れをどうやって無くしたのでござるか?』
「その前に一つ聞きたい。穢れと業は同一のものなのか?」
『…似て非なるもの。業は某達の精神を蝕む物、穢れは身体を蝕む物でござる』
「なるほど、業と穢れは同一視されやすいが蝕む箇所はそれぞれ違うんだな」
どちらもKRM値として纏められてしまっているが、精神はステータスの事を指し、身体はプレイヤー自身のアバターの事を指しているのだろう。
ステータスも下がるし、手の甲に刻まれた蔦の様なものが全身に広がった後に何が起きるかを考えれば、溜め過ぎてはならないものだと思う。
俺の問から何かを察したのか、黒鉄が睨むように見つめてくる。
『若、ちゃんと答えて欲しいでござる。某の溜めた穢れをどうしたのでござるか?』
「…黒鉄と白銀が背負うべき業と穢れは、俺が指示した事の結果で発生するものだ。その責任は俺が持つべきだろう?」
『何を言っているのか分かっているのでござるか?人の身で背負うには重過ぎるものでござるぞ!?』
肩を掴まれ揺すられながら俺は泣きそうな顔をしている黒鉄の頭を優しく撫でる。
一度でも身を犯したからこそ業や穢れの重さを知っている黒鉄だからこそ、こうして俺を責める事が出来るのかもしれない。
「俺は、前にも言ったがお前達がやらねばならないと思っている事をやらせる気もないし、ましてやこんな物を背負わせたくもない。いずれ回復するなら俺が背負っていた方がいいと思わないか?」
『そういう事では無いでござる!穢れが溜まりきればその身が魔に堕ちると言ったでござろう!?何を意味するか、若なら理解できましょうぞ!』
「分かっているさ。それも踏まえて俺が背負う。お前達が魔に堕ちた時に下さなければならない決断をしなくて済むんだからな」
『何を馬鹿なことを!某や姉上は使い魔でござるよ!?若がその身を削ってまで守るべきものでは無いと分かりませぬか!』
「なら逆に聞く。俺が、お前達を簡単に切り捨てるような奴だと思ってるのか?」
『そ、れは…』
そう見られていたら悲しいとは思うが、黒鉄達から見た俺の事を知るいい機会だとも思う。
悪い主だと言うのであれば矯正する事も可能である。
戸惑うように視線を彷徨わせた後に、前に白銀も陥った譫言のような言葉が黒鉄の口から紡がれる。
『しかし…あの方は、我らを代替えの効く道具だと…。穢れ堕ちれば殺し、その御霊を浄化し記憶を継がせ再び産まれ変わらせれば良いと…あの方は…我を…』
「また、あの方か…。黒鉄、俺を見ろ。今お前の前に居るのは誰だ?何に囚われているか知らないが、今のお前達の主は俺だ。ちゃんと見ろ」
『あ…う……。そう、でござる…。我らの主は…若…。あの方ではない…あの方は、誰…?』
「黒鉄、今はもう考えなくていい。起きたばかりなんだ。少し寝ておけ」
黒鉄の言葉を聞いて、時折だが譫言のように呟き始める理由が何となくだが掴めた気がする。
過去の記憶を強制的に継がせているのであれば、俺を目の前にしていても混同してしまうのは仕方がない事だろう。
頭を抱える黒鉄を抱き締め労わるように優しく背を叩いてやりながら告げれば、小さく頷いてから目を伏せて眠りに就く。
思ったよりも白銀と黒鉄を縛る物は大きいようだ。
新しく生まれたはずの二匹へ、わざわざ記憶を継がせてまでこれまでやっていた事をやらせようとしている事に腹が立つ。
不意にリストバンドから通知音が響きメッセージウィンドウが目の前に表示される。
〈陰陽の主たる使い魔を所持した搭乗者様へ
1.使い魔の業を搭乗者自身が背負う
2.使い魔による陰陽を司る外神への祝詞の使用
3.使い魔の背負う物を理解し、怒りを覚える
上記の解放クエストの条件が達成されました。
これにより、搭乗者様のみが訪れる事が出来るエリアがマップ上に表示されます。
推奨レベル:100
十分な装備と強化をしてから挑戦する事をおすすめ致します。
※このエリアのボスには一度のみ挑戦可能です。
※挑戦に失敗した場合には、使い魔が失われます〉
条件の内容を見て思い当たる節はいくつかあるが、通知が来ていた事には全く気付かなかった。
時折確認しなければダメかもしれないなと思っていると、空から花畑を見ていた四匹が戻ってくるのが見える。
『パパー!白ったら凄いんだよー!空中で一回転とか色々してくれたー!』
『私は酔いましたの…っ。空中一回転は怖過ぎますの…』
『なっはっはっ!わては色々できるようになったんやでー!腹は減るけど…』
『ママ、黒兄ちゃんどうしたの?』
「おかえり、空から見る景色も良さそうだな。黒鉄は少し疲れたみたいで寝てるよ。急に成長したから疲れたのかもしれないな」
『なんや!軟弱やなぁ!わてなんてピンシャンしとるで!』
『白はもう少し、体力なくてもいいかもねー?』
『そうですの…。食べた分だけ体力増えてるのか元気過ぎて困りますの』
『兄さんとヴィオはこのまま落としたろか!』
マオとヴィオラの言葉に騒ぐ白銀を見ていると、セラフィが心配そうに黒鉄の傍へと降り立ち様子を見ている。
とりあえずは解放クエストに関しては後ほどマップを確認しようと思いつつ、宿屋に戻る事にするのだった。
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