64-次の街への準備・後
軽くポスカから案内された場所を観光がてら巡りつつ、頭に狐、肩に小動物二匹、子龍には抱き着かれて、小竜に巻き付かれているという姿は異様なのか道行く人に様子を伺うような視線を感じていた。
絶対目立つと思って髪型を変えたが、今思えば視界がスッキリしているので前髪が短い物を選んでしまったなとも思う。
道具屋では薬剤を、食材屋では更に沢山の食材を買い込んでいた。
ちゃんと名産の蜂蜜なども購入し、デザートを作って欲しいと言われてもいいようにしておいた。
『見られとるなぁ…めっちゃ』
『まぁ、見られるよねー…』
『ボク…見られるの苦手かも…』
『某は気にしないでござる』
『黒兄様…なんかメンタル強くなってますの?』
「まぁ、俺からしたら普通だが、他の人からしたらこれだけ連れてたら異様だよな」
アルマから貰った箱庭には入りたくないというペット達を連れ歩くとなれば、こうなってしまうのだがこうも視線を集めてしまうとなると何か考えるしかない。
かなり甘やかしてしまっているのは自覚しているが、自分達でも歩かせるようにした方がいいだろうか?
色々と思考を巡らせながら歩いていると、小さな蜜蜂が目の前を通り過ぎていく。
「そういえば、ハニーヴィーナスはまだ見た事がなかったな」
『確かに。僕よりも少し大きいんだねー?』
『手に蜜を持っているのが見えますの!』
『一度に沢山の蜜を運んだりする事もあるでござろうから、その為に体が大きいのかもしれぬでござるな』
「身体が大きくなればその分、力も増す印象があるから、黒鉄の言う通りかもしれないな」
せっせと蜜を運んでいくハニーヴィーナスの姿を見ていると、白銀が暴れるので何事かと視線を向ける。
どうやら鬣が推しべや雌しべと同じものに見えるのかハニーヴィーナスが近寄ってきていた。
蜜を採取しようと引っ張られどうにかしようと声を掛けている。
『ちょっ、こら!わての鬣に花粉はついとらんからこっち来んでえぇねん!』
『白姉ちゃん楽しそう』
『楽しないわい!地味に痛くてかなわんわ!』
「白銀の鬣は綺麗だからな。仕方ないさ」
その場にしゃがみ込んで近くにあったハニーメイデンを一輪摘むと、鬣を引っ張っているハニーヴィーナスの背を優しく指で叩いて花の部分を差し出す。
甘い香りに反応して花の方に移動するのを見て、そのまま花畑の方へ向かうように誘導すれば採取作業に戻っていく。
えらい目にあったと遠い目をしている白銀の頭にセラフィが飛び移り、ボサボサになっている場所を翼で器用に撫でて直している。
『また寄ってこられても嫌やからお店に入ろうや、旦那はん』
『姉上…蜂も群がるおっちょこちょいって奴でござるな』
『やかましゃ!叩くで黒!』
『叩けるものなら叩いてみるでござる!若に当たれば怒られるのは姉上でござるからな!』
『うわぁ…パパを盾にしちゃってるよ…』
『黒兄様…ダサいですの…』
『それに、卑怯…』
ドヤ顔をしながらどこかの手下が言っていそうな台詞を言う黒鉄の姿に額を抑えるも、悔しそうにしている白銀を見て思わず苦笑を浮かべてしまう。
何となくだが姉に対して反抗期に近い行動をする黒鉄が成長は見受けられるものの、あまりいい方向ではないような気もするしどうしたものかと頭を掻く。
マオ達も辛辣な事を言っているのを見て、軽く一発ずつ全員頭を小突いた。
『なんで僕達までー!?』
『わてまだ何もしとらん!』
『痛いでござるよ、若!』
『巻き込まれましたの!!』
『ボクまで…』
「お前たち、黒鉄と少し話すから俺の目の届く範囲で遊んでてくれるか?」
じっと俺を見つめてくる五つの視線を受けながら暫く沈黙が訪れるも、マオが小さな溜息を吐くと白銀の背中の上に移動し、ヴィオラは頭の上から飛び降りてよろけながらも着地する。
白銀は俺の身体から離れれば、宙に浮かび上がり地面の上に居るヴィオラを新しく出来た手で抱き上げると上空へと昇っていく。
「白銀、お前浮かべるようになったのか」
『そやで!でも、まだ旦那はんを掴んで飛べるレベルやないんよねぇ…』
『じゃあ、僕達は白と空の旅してくるからねー!』
『白姉様!くれぐれも落とさないで欲しいですの!』
『ヴィオ姉ちゃん、一応ボクが傍に居るからね』
『有難いですの!!……いやでも、セラは私の事持てますの?』
『………無理』
『白姉様!絶対に!絶対に落としたら、ダメですのぉぉぉっ!』
一瞬で空高く舞い上がった四匹を見つつ、残された俺と黒鉄は顔を見合わせる。
白銀達が離れた事により甘えたモードはやめたのだろうか、俺に抱きついたまま真剣な顔をしていた。
『眠る前に感じていた某の中の穢れが消えているのでござるよ…。何か知っているのではないでござるか、若?』
「……白銀には言ったのか?」
『姉上はまだ穢れが己の身に溜まったことがない故、気付いてはおりませぬ…。話して貰えるでござろうな?』
小さな溜息を吐いた後に、歩きながら話をしようと告げてから観光用の散歩スポットへと足を向ける。
早々に黒鉄にバレるとは思っておらず、納得のいく説明をしなければならない状況となってしまった事に頭が痛くなるのであった。
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