63-次の街への準備・前
腹も膨れたからか満足気にしつつも舌の痛みにしかめっ面をしている白銀と、してやったりと言う顔でそれを見ている黒鉄を眺めながら、俺は食器を洗っていた。
肩の上にはマオとセラフィが乗っており、時折飛んでくる泡を割って遊んでいる。
ヴィオラは触りたそうにしているマンダの気配を察したのか、仕方がないと言いながらカツラの宣伝契約まで話が進んでいるポスカ達の傍に居る。
「今回は色々と疲れたな」
『そうだねー。パパも大変だったし』
『ママ、お疲れ様』
「お前たちもお疲れ様だ…よく、無事に怪我もせずにやり遂げてくれた」
『小さな兄殿も、セラもよくやってくれたでござるよ。特に、セラには後の事を色々と押し付けてしまって申し訳なかったでござるが』
『黒兄ちゃん、いいんだよ。アレはボクの役目でもあるんだから』
皿を洗い終え食洗機に掛けながら労いの声を掛けていると、黒鉄が翼を広げて飛び上がり俺の傍へとくれば胸元辺りに抱き着く。
蜥蜴の頃に比べて重みが増しているものの、まだ小さいからか負担になるようなものでは無い。
普段は一歩後ろで控える従者のように身を引いているのに、こうして堂々と甘えてくるのは珍しいと思いつつ、尻尾が自由になるように腕を回して抱えるようにすると肩に顎を乗せるようにして喉を鳴らしている。
『黒、ずるーい!というか、大胆になったねー!』
『甘えたい時に抱きつけると言うのは良いでござるな!』
『あ!黒!ズルいやんか!わても抱き着く!』
「ちょ、待て!白銀!お前口の周りのバターを拭いてから…というかお前の場合は巻き付くだろう…」
『黒兄ちゃんも白姉ちゃんも…甘えたモードってやつなの?』
『むー、今回は譲るけど…パパの1番は僕なんだからねー! 』
『兄様達ずるいですの!私も甘えたいですのー!』
体長が伸びた事により白銀は片足から胴、首に掛けて緩く巻き付きながらバターで口周りがベタベタのまま頬擦りしてくる。
ヴィオラが俺達を見て叫んでいるが、撫でてくれているのでマンダを邪険にも出来ず悔しげにしている。
こうした時間がやはりいいなと思い黒鉄を抱えたまま少し動きはぎこちなくなるものの、リストバンドを操作してクエストの期日を確認し、期日が設けられていない事を再度確認する。
焦る事もないので昨日のような危険なクエストには巻き込まれないように気を付けつつ、各街でゆっくりと観光をしながら進んでいくのも有りだ。
ドラグの生息地も冒険者や搭乗者たちが行き交うだろうし休憩場所となるビーネストのような村も賑やかになっていくことだろう。
『パパー、これからはどうするのー?』
「先ずは次の街に行くつもりだ。ドラグを倒さないといけないが」
『今のわてと黒やったらドラグも一発で倒せる気がするで!』
『姉上…それは言い過ぎでござるよ』
「いつまでも黒鉄と白銀に頼るわけにはいかないからな…今回は、俺が一人でやろうかと思ってる」
『えっ!?』
『若、一人でやるつもりでござるか?』
「あぁ、一人でもドラグ一匹くらい狩れないとこの先お前達におんぶに抱っこは嫌だからな」
黒の背中を優しく撫でつつ、インベントリを開いて濡れタオルを取り出せば白銀の口元を拭ってやる。
その後に俺の首筋を軽く拭いてから濡れタオルをすぐに戻す。
マオがバターの匂いがしなくなっている事を嗅いで確認し、OKサインを出してくれたのを見て優しく頭を撫でる。
『ママ、食洗機終わったみたい』
「ありがとう、セラフィ。これをインベントリにしまったら少し散歩でもするか」
『行こや行こやー!』
『若、買い物するなら荷物持ちするでござるよ!』
『運試しみたいな事なら僕に任せてー!』
『えっ!私も連れて行って欲しいですのー!』
散歩に行くとは言ったが、こんなに色々とペットや使い魔を引き連れて行けば注目の的になり兼ねない事に気付く。
しかし、ベッタリとくっ付いて離れないのにわざわざ引き剥がすのもどうかと思い暫し悩んだ後に、マンダに声を掛けて男がしていそうな髪型の物を持っていないか確認する。
迎えに来てくれたと思ったのかヴィオラが尻尾を振りながら俺を見てくる。
現在載せられる場所となると頭の上だけなのだが、白銀と黒銀が大きくなったお陰で意外と辛さを感じるようになっていた。
「そういえば…振り分け前のステータスがあったから少し力に入れるか…」
「ライアさん、これなんてどうですか?」
「ん?ああ。コレだったら良さそうだな。借りてもいいか?」
「こちらは差し上げますよ。いつもポスカやジェス、俺達がお世話になってますので」
「悪いな。まだ商談は終わってなさそうだし食材の買い出しがてら散歩してくるよ」
「分かりました。ポスカ達には俺から伝えておきます。今の所、変な輩が居るという情報は無いので楽しんできてください」
片手間に力に少しポイントを割り振ると体が重さを感じなくなる。
その間に差し出された黒髪の短く切り揃えられたカツラを空いている手で受け取り、頭に装着すれば軽く馴染ませるように指を通す。
名残惜しげに差し出されたヴィオラを頭に乗せてもらうと、マンダに散歩してくると伝えてからその場を離れる。
漂う花の香りを楽しみながら村の散策をするのだった。
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