新作ゲームでまったりソロ活始めました～気付いたら有名になってた、なんで？～

62-カツラの宣伝

掛けるタイプのホワイトボードを白銀は首に掛けて涙を流しながら先に食事を摂っている面々を羨ましそうに見ている。

ホワイトボードには、

〈私は宿屋の窓を割ってしまいました。反省中なので餌を与えないでください〉

と、読みやすい綺麗な字で書かれている。

「いいの？あの子…凄く泣いてるけど…」

「いいんだ、ラプラス。悪い事だってちゃんと教えないとな」

『旦那はんの飯が食いたかっただけなんに…腹減ったぁ…』

『姉上、ちゃんと反省するでござるよ』

『そうだよー？このお魚おいしー！』

『表面はカリッとしてるけれども身は柔らかくて脂ものってますのー！』

『ママ、ボク…食べさせて欲しいな…』

「解してやらないとか…おいで、セラフィ」

『わーい』

『むぅぅ、僕も食べさせて欲しいー』

それぞれ器に盛られた食事を美味しそうに食べる四匹を見つつ、ラプラスが白銀の様子を伺い教えてくれるが叱る事も大事なので問題ないと返す。

ちゃんと目を覚ますのが分かっていれば、白銀と黒銀の大好きな肉料理を作るつもりだった。

だが、今回のように起き抜けに同じような事をやらかされれば、財布の中身が大打撃を受ける事は間違いない。

自分達で食べれる三匹は難なく食べていたが、セラフィが傍に寄ってきて甘えてくるので優しく頭を撫でると、ムニエルの身を解して口元へ持っていけば嬉しそうに食べている。

それを見てマオが何とも言えない表情をしていたが、黒鉄がなだめてくれているのが見える。

「あぁ、やっぱりライアさんのご飯は美味しい…」

「ホントっすよねぇ…俺も教わろうかな」

「ジェスは元気付けようと入れる品がおかしいだけだ」

「普段は皆さんもよく一緒に食べてるんですか？」

「最近知り合ったばかりだが、飯を作ろうとするとそこのポスカがタイミングよく来るんだ」

「ふっふっふっ、商団の情報網を使えばライアさんの食事時なんて一発で分かりますよ！」

胸を張って告げる姿に苦笑を浮かべつつ、ラプラスの目の前に置いてある食器の上が空になっているのを見て、おかわりはいるか問い掛ける。

少し視線を彷徨わせた後に頬を染めながら食べたいと告げる姿を見て、やはり自分より年上という言葉は信じ難いが人の年齢ほど分かりにくいものは無いので口を噤む。

涙を流している白銀の前に寄って、反省しているか確認した後でおかわりの用意に取り掛かる。

「そう言えば、さっきのカツラの話に戻るんだがどうやって販売していくつもりなんだ？」

「そこなんですよねぇ…。店頭に並べるだけじゃ食いつきは悪いでしょうし、試着をさせるにも他の人が触れた物は触りたくないとかもある気がするんですよ」

「確かに、衣服なら気にならないですけど髪となると難しいね」

「…良いこと思いついた。ラプラス、配信…してるんだったよな？」

「え、そうだけど？」

「配信する際に、このカツラを使用して軽く宣伝することは可能だったりするか？」

「あ…なるほど。別に構わないけど…」

「ポスカ。ラプラスは吟遊詩人なんだ。世界を渡り歩くし、いずれは有名になる可能性もあるとしたら？」

話が分からず暫し呆然としていたポスカだが、吟遊詩人と聞いた所で目の色を変える。

嬉々として目を輝かせながら商談モードに入るのを見て、後は大丈夫だろうと調理に集中する事にした。

白銀の分なので半身分を調理すれば丁度いいだろうと思いつつ、味を馴染ませる為に少し置かなければならないので先にラプラスの分を用意してしまう。

炊きたての土鍋のご飯も残り半分位でおこげも出来ているので美味しく食べられるだろう。

話を進めている姿を見ながら出来たてのムニエルとご飯を配膳すれば、こちらに目礼をしつつ箸とご飯に手が伸びていくのを見て思わず笑ってしまう。

出来たての美味さを考えれば、こうなってもおかしくないなと思う。

お待ちかねの白銀の分のムニエルを作るべく、骨抜き処理をした半身分のエイジ鱒を三等分の大きな切り身にして焼き始める。

『はぁぁぁ…お預けされとった分、匂いだけでもお腹が満ちそうやっ！』

「なら、食べなくていいか？」

『冗談やー！！匂いだけで満足出来るわけないやん！いけずし過ぎると嫌いになるで！』

「俺の事嫌いになるならもう作らないが？」

『もー！！！旦那はん！あんまり意地悪せぇへんでや！』

「悪い悪い。ちゃんと元気か確認しただけだ。いつもと変わらなくて安心したよ」

首にホワイトボードを掛けたまま、頭を左右に振りながら不満げに言う白銀の姿を見て笑ってしまう。

食べ終えたマオ達も白銀の傍に寄っていけば軽口を叩きながらも、身体に窓を割った事で怪我をしていないかと、さり気なく確認している。

「後二枚焼くから火傷しないように気を付けて食べるんだぞ？」

『やっとや…やっと、食べられる！旦那はんの、料理！』

『感動しているところ悪いでござるが、冷めると美味しさが損なわれる故…手早く食べさせるでござるよ』

『え？ちょまっ…黒？わては猫舌…アチッ！アッチィ！美味っ！でも、アッチィ！』

『なんかストレスでも溜まってるのかな、黒』

「さぁ…いつか、一回くらい白銀を虐めたかったのかも？」

『多分、白姉ちゃんの食い意地に力負けしたからかも？』

「なるほど…お前たちは腹いっぱいになったか？」

『十分ですの！とと様、料理が終わったら抱っこして欲しいですの！』

『ずるいーっ！僕もー！』

「はいはい、終わったらな？」

出来たてのムニエルを白銀の口へ運ぶ黒鉄を見つつ、食べ終えて寄ってきた他の三匹が構え構えと寄ってくるのを見れば、やはりトラブルではなくこうした日常が一番だなと俺は思うのだった。