59-現実にて

食事をしてから宿屋に戻ってログアウトした俺は、現実で眠る前にPCを立ち上げて掲示板を確認しておく。

神威が情報を流してくれるそうなので、他のプレイヤーがどんな反応をしているかの確認も兼ねているのだが…。


「お…早速伝えてくれてるみたいだな」


掲示板の中でも攻略で賑わっているスレが先頭に来ているので開くと、既に神威が情報を投稿しているのが見えた。

巨乳好きや、リア充撲滅などの問題ないのだろうかと思う名前もチラホラ見掛けるが、発言を許されているのを見ると、ネットマナーさえちゃんと守っていれば容認されているのかもしれない。

どうやら掲示板に接続している面々も、今回の件に関しては驚いたようで、赤い制服に逆さ十字の紋章を付けているNPCには気を付ける為に、見かけた際には情報を記載する為のスレッドを立てると着々と話が進んでいる。

率先して情報を書き込む中に、TrickyとPrettyも参戦しているのが見えた。


「友好的だが、あまり信用ならない商団や組織とかもちゃんと情報が纏めてあるんだな…」


今回は投稿が目的では無いので情報を収集する事に専念し、ふとレアペットとレア使い魔に関する報告掲示板が目に入ったので別窓を開いて内容を確認する。

まだリリースしたてと言うこともあり発見報告の方は数少ないが、レアに分類するペットには特殊な進化条件が設けられている事が多いそうだ。

特に、最初から念話などが使える個体は条件がかなり厳しく達成が困難なのでレベル上げの方が優先されているらしい。


「ふむ、宝石獣、陰陽を司る使い魔、妖仙狐に関する報告はないか…ん?魂魄鳥…セラフィと同じ種族に関しては記載されているな」


ふと目に入った発言に手を止めると、長文なのかスクロールしながら記載内容を確認していく。

魂魄鳥はとある隠された秘境に生息する鳥で天の使いと言われているらしく、ペットの中では少し特殊な枠で治癒関連の能力に長けているらしい。

しっかりとどこの秘境と書かれていない所を見て、記載が制限された内容である事が何となくわかる。

記載の端々にヒントのような物がありそうなので、机の引き出しからメモ帳を取り出し関係ありそうな部分を抜き出しておく。


「後でちゃんと確認しておかないとな。…と、神威の方も上手く掲示板の人々に情報を流してくれたみたいだし明日礼をしないとな」


怪しいNPCの持ち出すクエストは、ちゃんと裏がないかの確認をしようと言う流れで纏まった事を見届けてからPCの電源を落としてベッドに横になり目を閉じた。


窓から差し込む陽射しで目を覚ました俺は、欠伸を噛み殺しながら時間を確認した後に洗濯物などの量を確認して必要な家事を済ませる。

仕事を辞めてから色々と済ませなければならない事や、家事に関しても十分な時間が取れている事が嬉しく思える。

ゲーム内通貨の換金率も安定しているので、光熱費や部屋の維持費などは素材などを売って手に入ったお金で十分過ごせていた。


「最近、朝しか作ってないけど不思議と体力も落ちてないし、むしろ今までより元気なんだよなぁ…」


冷蔵庫の中を開けて食材を確認し、なにか作ろうかと思ったが久々にコンビニスイーツが食べたくなり外に出る事にする。

マオ達が腹を空かせても困るので、ちゃんと時間を確認してから外着に着替えて眼鏡に手を伸ばすも今日はいいかと思い、財布とスマホ、家の鍵を持って外へ出る。

なんとなくArcaに比べると空気が淀んで感じてしまうが、これが現実なのだと思わせてくれるので丁度良いのかもしれない。

玄関の鍵を閉めた所で扉が開く音が耳に入り横を見れば、隣に住んでいる女性も買い物に出るのか楽な格好で外へ出てきたみたいだ。


「おはようございます」


「あ…えっと、おはよう…ございますっ」


一応、隣に越してきた時から居る方なので引越しの挨拶を渡しに行っているという事もあり顔見知りではある。

その時はたまたま、しっかりと女性用のスーツを着用していたので今の格好が少し新鮮に思えた。

と言っても、深く話をする程に仲がいい訳では無いので挨拶を交わした後に軽く頭を下げてから先にその場を後にする。


「…そういえば、現実で誰かと話しをするのは久し振りだな」


挨拶だけだが何かいい事をした気分になり、足早にコンビニに向かうと自転車に乗った青年が横を通り過ぎる。

慌てたように向かっているのを見てスマホを取り出し時計を確認すれば、もうすぐ8時といったところだ。

学校に向かっているのかは分からないが、遅刻しないといいなと密かに祈っておく。

最寄りのコンビニの前まで来れば、軽く食べれるサンドイッチとシュークリームを手に取りお茶を一本持ってレジに並ぶ。

朝方だからか人が少ないという事もあり、品出しやレジを男性一人で回しているのが見えて要領がいいんだろうなと動きを見ながら思っていれば自分の番が来た。


「袋お付けしますか?」


「あー…お願いします」


「わかりました。お手ふきお入れしておきますね。全部で652円になります」


「スマホ決済でお願いします」


「承知しました。画面失礼します」


手早くスマホで決済用のバーコードを表示させれば、慣れたようにスキャナーで読み取り会計が終わるとレシートはゴミ箱に入れてからコンビニを後にする。

あまり褒められたものでは無いが、時間短縮の為に家路を歩きながら買ってきた物を封を開けて食べる。

少し散歩してから家に帰れば、洗濯機を確認し洗い終わっている洗濯物を干す。

持って帰ってきたゴミを仕分けると、部屋着に着替え軽く体を伸ばしてからArcaに接続するのだった。

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