57-マオの問い掛け

ビーネストに向かう馬車に揺られながら、一気に疲れが押し寄せてきて思わず苦笑が浮かぶ。

少し前にクエストクリアの通知と共に、色々とポスカから報酬としてファンビナ商団の情報関連の品を扱いたい場合に見せるバッチなどを貰ったのだ。

R以上の防具のランダムボックスは落ち着いたらマオに開けてもらおうと思う。

その後に貰った黒い殻のタマゴを見た際にライバルが増えると呟きながら、マオがあからさまに嫌な顔をしていた。


「私も色々と団員達と話をしてくるのでゆっくりしていて下さい。ビーネストに着いたらジェスにちゃんとした食事を用意させているので夕食の事はお気になさらずですよ」


「ライアも疲れてるでしょうし、オレは荷馬車の屋根の上で見張りをしながらコイツと喋ってきますね」


ポスカと神威が大変だっただろうからと気を利かせて一人にしてくれるとは思っていなかったものの、少しだけ肩の力を抜く事にする。

簡単なクエストで終わるだろうと思っていたが、その背後には大きな組織が関わっていたりと漫画やアニメ、映画のスパイのような事をした気分になる。

自分があんなにもペット達に女ではないかと疑われるとは思わなかったが。


『パパー、大丈夫?疲れた?』


「はは…流石に疲れたかもしれないな。今日一日でかなりの事が起きたし」


『そうだねー…。…ねぇ、パパ。人は簡単にあんな事を出来てしまうものなのー?』


肩に乗っていたマオが心配そうに俺の頬に身を擦り寄せてくるので優しく撫でていると、不意に問い掛けてきた言葉に目を見張れば、どう答えたものか分からなくなった。

この世界の常識というのをまだ完全に理解している訳では無いし、世の中には真の理を探究して人の道を踏み外す者も実際に存在する。

そういう人々の考えを簡単に理解できるものでは無いと思っているし、そういった事に関して実際に分かる程の知識も俺は持ち合わせていない。


「そうだな…。全ての人が、とは言えないが…こうした事を引き起こす人間は少なからず存在するだろうな」


『…どうしてそんな事したがるのー?誰の為にもならないと思うのにー』


「その人が何を考えているかは、俺にも分からないからなんとも言えないが…誰かの為だったりもする時があるし、自分の欲望を叶えたいという時もある。中には、ただやってみたかったとかの単純な動機の時もあるな」


『ふーん…。複雑なんだねー。パパも、やってみたいとか思うのー?』


「俺は思わない。そもそも絶対に人の為になれる事なんて、この世にはそうそうないと思ってるしな」


この国に過ごす人の為に作る政策や、開発した物などが本当に役に立っていると思える人間は一部だろうとも思う。

特に政策なんて万人の為にと言うが、結局は一部の人間だけ甘い汁を吸えるような内容だったりするものだ。

開発に関しては、莫大な費用が掛かるせいで結局は本当に欲しい人の手に渡らないことだってある。

その他にも扱える人間が実は居らず、無駄に開発する事となり廃棄される物だってこの世には溢れていると言っても過言では無いだろう。

そもそも、欲しい結果が伴う事は奇跡と言えるのかもしれない。


「けどな、マオ。全ては自分の選択なんだと俺は思うぞ?」


『選択ー?』


「ああ。今回、マオは俺を助ける為に道具を使って危ない戦闘に参加しただろう?」


『うん!だって、あの道具ならパパを助けられると思ったんだもん!』


「あの時は本当に助かった。ありがとうな、マオ」


優しく頭を撫でれば、尾を振りながら擦り寄ってくる姿を見て笑みを浮かべつつ、その言葉に続けるように言葉を紡ぐ。


「何もせずに見ているという選択肢もあったけど、俺を助ける為にマオは道具を使う事を選んだ」


『だって、パパが死んじゃうのは嫌だもん!』


「あの助けがなかったら俺は死んでたかもしれない。でも、そうならない為に助けることをマオが選んだから今その結果がここにある」


不思議そうな顔をしながらマオが首を傾げるも、悩ましげに暫く唸った後で結局は分かったような分からないようなと悩ましげにしている。

小さく喉を鳴らして笑いながらマオの腹を指先で擽るように撫でれば、擽ったそうにじたばたと手足を動かす姿が可愛い。


「まぁ、理解するのは難しいと思うが…その時に、自分は何の為にどうするかを決めることが大事って事だな」


『パパー、擽ったいー!…難しいけど、いずれは僕も分かるようになるかなー?』


「分かるようになるさ…。と言っても、話してる間に色々と内容が逸れた気はするけど」


『パパは、ちゃんと僕達の聞く事に答えてくれるし、教えようとしてくれるから大好きー!』


「俺もマオ達が大好きだぞ。お前たちがこの先、何かをすると決めた時に俺は肯定してやれるようにならないとと思ってるが…」


考えてはいるのだが、やはり小さい身体と幼さの残る口調にどうしても心配の方が勝ってしまうのだ。

かと言って、急に大人のような口調で離れられてしまうと寂しくなるだろうし難しいものである。


「お前達が変な人間に関わったり手にかける事がないように俺が気を付けるしかないよな」


『パパは無理だと思うー。自分の知り合いになった人、凄く大切にするくらいお人好し?だもーん』


「なら、悪い人には関わらないように頑張るよ」


『幸運をもたらす僕が居るからきっと大丈夫だよー!人を見る目もあるよー!』


「……なら、変な吟遊詩人とかの台詞を覚えてこないようにしないとな?」


『えー!!面白いのにー!』


久し振りのマオとの他愛のない会話を楽しみつつ、小さく欠伸を漏らすと肩の上で丸まって眠ってしまったのを見て、優しくその背中を指で撫でてやるのだった。

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