56-退避

目的は何とか達成できたようなものなので、ヴィオラが作った結界が解除されるまで待つ。

マオを肩に乗せると魂の状態であったセラフィが俺の傍へと来て少し疲れたような顔をしていた。


『ママ、ボクもヴィオ姉ちゃんに皆無事って伝える為にも先に行くね』


「わかった。セラも今回はたくさん頑張ってくれたな…ヴィオラと一緒に俺が戻るまでゆっくりしててくれ」


『ママが綺麗な格好してたって伝えておく?』


「……ヴィオラだけ知らないのも可哀想だからな」


『ん、わかった。ママ、その姿似合ってるよ』


手を差し出せば暖かな温もりが手に伝わりセラフィが目を細めると、ふと思い出したように告げる言葉に苦笑混じりに俺から返答を貰えば、小さく頷いてから先にこの場を離れる。

白銀と黒鉄の傍で心配そうに籠の中で眠る様子を見ていたマオに手を差し出す。


『パパ、白と黒…大丈夫かなー?』


「俺に暫し眠るって言ってたからちゃんと目を覚ますさ…。マオもお疲れ様だったな。後でちゃんとお風呂とか入ろうな?」


『うん!拾った物もいっぱい見て欲しー!』


「あのバズーカ、ちゃんと鑑定しないとな…。場合によっては封印だ」


『えぇー!?なんでー!』


「なんでもヘチマもない…。危険だからに決まってるだろ?」


マオの白くて綺麗な毛が砂埃などで汚くなっているのを見れば、眉尻を下げながら早く風呂に入れてやりたいと思ってしまう。

白銀と黒鉄が寝ている籠を持って神威達の方へ戻れば、龍は落ち着きを取り戻したのだろうか神威の腕の中におさまっていた。

子供は未だ眠っているのかポスカが姫抱きしている。


「今回の事に関しては、神威にも掲示板に情報を落としてもらう為に詳しく説明をしないと…だな」


「そうですね。ここまで自由度があってクエストも豊富だと色んな事が起きそうですし情報は流しておいて損は無いかと。きっと、感謝されますよ」


「ちょっと、私を差し置いてライアさんといい雰囲気にならないで貰えますか!?私の嫁ですよ!」


「何を言ってるんだ、ポスカ。こんな格好でも俺は男だ。目を覚ませ」


「痛いっ!」


思わずポスカの頭を叩きつつ、未だ戦闘が続いているような音が森の中から聞こえていた。

巻き込まれないように気を付けながらこの場所を後にする為に、ポスカと神威がブルルンに連れられて通った道を使って森の外へと向かう。

少しだが獣の気配が感じられるようになり、あの柱が幻覚作用と共にここら一帯の獣達を遠ざけさせていたのかもしれない。


「なるほど…。ヤバいくらい似合ってるその姿は顔を覚えられない為という事ですか」


「仮面を付けてれば顔の大半は隠れるからな…。と言っても、女装をする気は俺にはなかったんだが」


「……少し、黒い牙の連中に同情しますね。ライアは罪作りな事をしたと自覚してください?」


「こうやってちゃんと声も変えて頑張ってたのよ?」


「実践しなくて大丈夫です!心臓に悪いんでやめてください!」


「ライアさん!私になら幾らでも色仕掛けをしてくれて構いませんよ!!」


「ポスカは怖いからしない」


「くっ!!いけず!」


多少ふざけながらも戦闘に巻き込まれずに森から出れば、待っていたと言わんばかりにファンビナ商団の馬車が停車しており驚いた。

もう必要が無いので仮面を外してインベントリにしまうと、先に馬車に乗らせてもらい化粧落とし用のセットを用意してくれていたマンダに礼を言う。

洗面用具も借りて邪魔にならない場所でインベントリから水とタオルを取り出して化粧を落とす。


「顔が軽くなった気がするな…」


『いつものパパだー!ホッとするー!』


「ははっ、やっぱり違和感あったよな」


『そんな事ないよー?似合い過ぎてて性別疑うくらい女の人だったよー?』


「……俺は男だからな?」


何度目か分からない男発言をしつつ、連れてきた子供は一旦柔らかな毛布を敷いてその上にポスカが寝かせた後に、他の商団員達と話をすると告げてからこの場を離れていく。

残された俺と神威はベッタリと抱き着いて離れようとしない龍の子供を見つつ、取り敢えずはその状態で今までの経緯を説明する。


「なるほど。自由度の高いゲームですから色んな事があるとは思いましたけどNPCから洗脳されて操作権が無くなるとは…凄いですね」


「他のゲームでも同じような事はあったりしたか?」


「まぁ、色んな制作会社がありますからね。一回クソゲーだって騒がれたのは、クエストを受けなくても死ぬ、クエストを受けても死ぬ、クエストをクリアしても死ぬ、クエストを回避したら洗脳されるみたいなのはありましたよ?製作会社側のバグでしたけど」


「なんだそのゲーム…需要あるのか?」


「うーん…そういったのを愛する一部のユーザーには需要があって誰が先に完クリするか競争してましたよ」


「それに比べたら今回の洗脳事件は、NPCに騙された搭乗者側に非があるか」


「そうですね。他の搭乗者に知られないように行ってたクエストの延長線上ですし、欲に目が眩んだ自分の選択でもありますから」


そんな話をしながらポスカが戻ってくると、商団員達と相談したのか子供は親の情報を集めやすいファンビナ商団で預かる話をつけてくれたらしい。

団員の中に子持ちの者も居るらしいので世話をしてくれる者には困らなそうだから一安心である。

龍の方は先の街などにも移動可能である神威が預かり、親を見つけるまで行動を共にするらしい。

俺には聞こえないが神威と龍の間で会話が成立しているようなので、もしかしたらと思う所もあったが言わないでもいいかと触れないでおく。

その他にも持ち帰った情報などの整理や、今回接触した組織の話などの積もる話もある為、ビーネストへ移動する事に決まると馬車が動き始めたのだった。

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