55-光の方へ・後

得体の知れない闇の底から感じる視線に囚われていると、黒い腕が混ざりモノの胸から黒に染まりかけている光の球体を取り出す。

セラフィがゆっくりと翼を広げ、光の球体を見つめながら俺の頭の上から飛び立つ。


『我は陽の力を司りし皇の次代を次ぐ者なり。他意によりて誠の姿を奪われし哀れなる子らに、生を司る父の光にてその身体を在るべき形へと別けたまえ…陽体離光ようたいりこう


闇から感じた視線が無くなれば、緊張から止まってしまっていた呼吸をゆっくりと再会する。

黒鉄の詠唱が終わると、体から眩いくらいの白い光を放つ魔力が抜け空へと飛んでいく。

何が起こるのかと思って見ていると混ざりモノの頭上に光の輪が形成される。

薄い布のような物が光の輪から出てくると、その身体を覆うように巻き付いていく。


「陰と陽を操る偉大な者あり…。それは生と死、肉体と魂…あらゆる物の根幹となる二対の神の力を借りられるという…」


「ポスカ…その話はどこで?」


「昔、大爺様に寝物語に聞かされたこの世界の成り立ちに関する御伽噺を読んでもらっていたんです」


ポスカが今の光景を見ながら語り始め、その内容が白銀と黒鉄の性質に似通っていた。

話を聞いている間にも混ざりモノに巻き付いた布が全てを覆い尽くすと、目が眩む程の光が辺りを照らした。

日も落ちていない明るい時間だと言うのに、その光はそれすらも塗り潰す勢いである。

光に塗り潰された先で二つの影が目の前に降り立つ。


[今代の陰と陽の主か…まだまだ、若造のように思うが]


[良いではありませんか、妾は気に入りましたよ]


[ふんっ…まだ幼き奴等に我らを呼ばせた時点で気に入らぬわ]


[まぁまぁ…この者はあの子らがこんな術を扱えるとは知らぬでしょう。それに、この者はあの者の倅…あの者と同じく優しい心の持ち主じゃないですか]


[ぬぅ…また、このような事で我らの神子に無理をさせれば許しはせぬぞ…。守れるくらいに強くなれ]


心に直接響くような男と女の声に目を見張るも、白銀と黒鉄を心配し無理をさせぬようにと釘を刺すような言葉に小さく頷く。

満足とは言えないが納得はしたのか、影と共に光が消え目の前に子供と、まだ幼い龍の身体が宙に浮いていた。

混ざりモノになる前の彼らの姿なのだろうか?

既に地にあった闇と空を照らした光は、元から無かったかのように消えていた。


〈該当エリア確認中………


制限時間内に混ざりモノの存在が消失した事を確認いたしました。

よって、突発クエストをクリアした事とみなします。

成功報酬として、研究施設の爆破を小規模の物へと変更致します……


変更を確認。

引き続き、Arcaをお楽しみください〉


目の前にシステムウィンドウが開かれたかと思えば、この状態に関してのサーチ報告と報酬の支払い処理に関する内容を報告して消えた。

それと同時に研究施設が爆発音を響き渡らせながら崩れていく。


「生きている内にそうそう見られない何かを見届けたのは分かりましたが…ライアさんはなんて子達を連れてるんですか…っ!」


「流石、というべきなのか…?匿名で掲示板を祭りにする人だもんな」


「ポスカ、神威取り敢えずこれを飲んでおけ。まだ何があるか分からないから気を抜くな」


何が起こったのか分からないものの俺達は互いに顔を見合せた後に軽口を交えていると、空に舞い上がったセラフィが体の上で戸惑うように旋回している光の玉の傍へと向かう。

コロコロと鈴を鳴らすような愛らしい澄んだ声を発すると、戸惑っていた光の玉がセラフィの側へと向かう。

羽で包むように優しく抱くと片方の球体を子供の体の方へ導く。


『さぁ、お戻り…君はもう、バケモノじゃない』


セラフィの翼の中で球体が小さく震えたように見えた。

恐る恐る球体が体に触れると、ゆっくりと吸い込まれ子供の指が動くのが見えた。

ポスカと神威に声を掛けて子供の傍へと向かえば、胸の当たりが規則正しく上下しているのを見て生きているのが分かる。

セラフィがもう片方の球体を幼い龍の方へと導くと、体内へ吸い込まれると同時に目を開け身体を起こす。


『グルァァァァアッ!』


「やめろっ!いっ!」


「神威!」


「大丈夫です…。そんなに噛む力は強くないんで混乱してるんだと思う」


大きな口を開け襲ってきた幼い龍の前に立ちはだかった神威の腕が噛まれる。

痛みに眉を寄せるものの噛み千切ろうとしているわけではないのか、龍の目をしっかりと見つめながら対応しているのを見てそちらは任せる事にする。

子供をポスカに任せて白銀と黒鉄の方へと走れば、マオが二匹に薬を飲ませながら介抱していた。


「大丈夫か!?」


『あ、旦那はぁん…わてら、上手くやれたか?』


「あぁ、十分過ぎるくらいに頑張ってくれた」


『それなら、良かったでござる…。申し訳、ござらんが…凄く、眠いゆえ…』


『寝る前に、旦那はんに…確認できて、良かった…』


『うむ…セラにも、感謝を…伝えて…ぐぅ…』


眠そうな声色でそれだけ話し、目を閉じた黒鉄と白銀の背を優しく撫でる。

マオも二匹の頭を優しく撫でるのを見つつ、大きい方の籠を出して白銀を先に寝かせた後で黒鉄を寝かせる。

こうして黒い牙の騒動は一旦終わりを迎えたのだった。

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