54-光の方へ・前
神威が巧みに混ざりモノの気を引いて隙を作ってくれるので、剣気を纏わせた俺の剣の刃で致命傷は避けられてしまうものの、少しずつだが細かな傷を負わせる事が出来ていた。
ポスカが戦鎚を使って追撃を試みてくれているのだが、まだ一度も決まっていないので大きなダメージを入れられていないのが残念である。
「くっ!すばしっこいですね!私の攻撃が一度も当たりません!」
「……ちゃんと狙って振ってないからじゃないんですか?」
「あー、神威…。ポスカは運動神経が、な」
「当たれば石の魔物のゴラムだって一発で粉砕できるんですよ!これでもっ!!」
悔しげに叫びながらも己の方へと来た混ざりモノに反応してポスカは戦鎚を振る。
動きが大振りという訳ではないのだが、この一撃は受けてはならないと野生の勘が働いているのか、その体躯を活かして混ざりモノが避けに徹底しているのだ。
苛立たしげに戦鎚でポスカが地面を叩けば、轟音と共に地面が陥没し亀裂が入る。
「アレがまともに入ったら形勢逆転になりそうなんですけどね…」
「そうだな…。だが、奴の動きも大分鈍くなってきている。白銀と黒鉄の用意が終われば何とかなるはずだ」
『パパー!一旦ソイツから離れてー!』
「神威、ポスカ!一旦距離を取れ!マオが何かするみたいだ」
「わかりました!」
『オマエラァ!ナニヲ、スルキ…ガァァァ!』
白銀と黒鉄の傍に居たマオから声が掛かれば、一度そちらへ視線を向けると小さなバズーカを構えているのが見えた。
そう言えば荒城と対峙した時も使っていたなと思いつつ、神威とポスカに指示を出せば混ざりモノから十分に距離を置く。
負ったダメージで思考が鈍っているのか反応が遅れた混ざりモノが叫ぶも、突如飛来した光の玉に反応する事が出来ずに直撃する。
苦悶の声と己の身を焼く炎に地面に倒れて転げ回る。
『イダイッ…アヅイッ!アァァアァァァッ!』
「コレ、ライアさんが作ったんですか?」
「いや、こんなの作れる技量は俺にない」
「これはどう言った原理で動く代物なんでしょうか…興味があります」
傷口が炎に焼かれる痛みに叫ぶ混ざりモノの様子を見つつ、一時的にだが体を休める時間が出来たことに安堵してしまう。
今の内に各自の負傷具合を確認し、回復薬や丸薬などで体力を回復しておく。
ポスカに対しては爆発に巻き込まれた場合に取り返しが付かない事になる可能性を踏まえ、マオと白銀達の傍に居るように指示をする。
「あと制限時間は何分ぐらいありますか?」
「残り3分弱って所だな…」
『ナンデ…ドウシテ…?イイコニシテタノニ…ママ、ムカエニクルッテ…!コロス!コロス!オレヲ、コンナカラダニシタ!ユルサナイ』
混ざりモノの中で意識がせめぎ合うかのような言葉を発した後、動きを止めると切った筈の腕が再生し尾に棘が生えていく。
負った傷はそのままだが最初に戦った時の姿から少し進化している気がする。
目が血走り俺と神威を捉えた。
その後に聞こえた地を蹴る音に神威が反応し一歩前に出て盾を構える。
「ぐっ!盾を貫通した!?」
「神威、大丈夫か!?うぐっ!」
『パパ!パパから離れろぉぉ!』
神威の苦悶の声に様子を確認すれば、爪が盾を貫通して持っている手に刺さっていた。
混ざりモノを離そうと剣を振るも、もう片方の爪で防がれ棘の生えた尾で俺の腹を貫く。
鋭利なトゲが刺さる痛みに眉を寄せれば、マオが混ざりモノに向けてバズーカを発射すると、盾から爪を引き抜き尾の棘を俺から引き抜く。
腹部の痛みに出血からか体力が一気に減るのが分かる。
バズーカから放たれた光の玉を避ければ、次はポスカやマオを標的と定めたのだろう視線がそちらを向く。
「行かせ、ないっ!」
「神威!」
「ライアは早く治療を!」
持っていた盾を混ざりモノに向かって注意を引くように投げた後に、ハルバートを持った神威が立ちはだかる。
邪魔な盾が無くなった事で混ざりモノは薄らと笑みを浮かべて神威に飛び掛かる。
インベントリからたまたま作れた中級の回復薬を取り出し刺された後の残る腹に掛けては、神威の援護をするべく走り出す。
『すんまへん、旦那はん。準備に時間が掛かってもうて』
『本来ならば、まだ扱う事のできない術でござるがこの場を納めるには一番効率がいい故…。セラ、若の傍に居るでござるな?』
『うん、黒兄ちゃん。白姉ちゃん』
『荒業やから負担は多いかもしれんが…任せたで?』
『若、この後暫し某達は眠りに付くと思いまするが直ぐに目覚めると思うので安心してくだされ。…では、姉上』
『あいよ。…我、陰を司る王の次代となりし者。他意によりて咎を背負いし魂を安息に導く為、死を司りし母の慈愛の手をお借りせん…
白銀の身体から練り上げられた魔力が抜け、黒い玉へと変わると混ざりモノから少し離れた地面に落ちる。
黒い水溜まりの様なものが形成されると、底から無数の黒い手が伸びてきて混ざりモノに絡み付く。
『ナンダ、コレハァ!オレガ、スワレル!?』
穴の中から一本の大きな手が出てくると、混ざりモノの胸の当たりを貫いた。
その異様な光景を見る事になった神威は驚きに目を見張り、ポスカは瞬きをした後に顎に手を添え何かを考え込み始める。
俺はその先の黒い水溜まりから見定めるような視線を感じており目を離す事が出来ずにいたのだった。
この時、リストバンドに第二条件達成の表示が出ていた事にも気付く事は無かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます