53-混ざりモノ・後

脇腹に鈍い痛みを感じつつ、丸薬にしたのは傷の治りは遅くなるが混ざりモノの攻撃を受けても傷跡が癒えるので、頑丈なサンドバックにはなれるだろう。

時間稼ぎでもあるが、黒鉄と白銀に興味を持たせない事も重要な部分である。


「せめて、もう一人居てくれたらいいんだがな…」


『ナブリコロシテ…ヤ……ン?……ナニカ、クル?』


混ざりモノの方にも疲労の色が見えるものの、まだ本気は出していないように思う。

僅かに瞳が細められた所で何かを感じとったのか、混ざりモノが辺りを見回す。

俺には分からない何かを感じたのだろうかと思いつつ、暫くすると地を蹴る複数の足音が耳に届く。

誰か来たのだろうかと思うも、この周辺に居る者達はここへは近寄りたくない筈だ。


「誰が来た…?」


『パ……、………よ……た…!』


『チカヨッテクル…ナニカ…オオイ、ワカラナイ』


微かに聞こえた声は途切れており聞き取ることが出来なかった。

何が来るのか検討が付かず困惑していると、目の前に緑色の何かが飛来する。

淡く光るその姿は、ヴィオラの元に戻らせたセラフィである。

俺の姿を見て目を見張ると、心配そうに何処に怪我をしているのか確認する為に旋回している。


『ママ、大丈夫?もうすぐマオ兄ちゃん来るからね』


「マオがこっちに来るのか?」


『うん。ちゃんと助っ人、呼んできた』


『パパー!お待たせー!!ちゃんと助っ人連れて来たよー!』


「ライア、無事ですか!?」


「ライアさん!助けに来ました…あばばば!ちょ!そんなに暴れないで!?速度上げないで!?落ちるからっ!落ちるからぁぁ!」


複数の足音の正体はこんな所に居る筈のない雄のブルルン達だったようだ。

戦闘を走るブルルンの背にはフルプレートアーマーに身を包んだ神威が居り、その肩にはマオが乗って手を振っている。

何故かポスカもここに来て居り必死にブルルンにしがみついているのが見えた。


『チィッ…ナカマ、ヨンダノカ…』


「見た事もない敵だ…。一人で大変だったんじゃないですか?」


「見ての通り、ボロボロだな…」


「もう、ブルルンには…乗りたくないです…うぇ…」


ブルルン達が平地と森林の境目で足を止め、混ざりモノを見つめながら恐怖から来るものなのか分からないが毛を逆立てている。

これ以上は近付けないと言う素振りを見せるので、神威が颯爽と降りれば乗っていたブルルンの頭を優しく撫でた後に俺の方へと混ざりモノを警戒しつつ歩いて来る。

ポスカは腰が抜けたのかずり落ちる様に降り、地に足が付けば安堵したのか胸を撫で下ろしている。

ふと、一匹のブルルンと視線が合う。

俺を暫く見つめた後に鼻を鳴らすと、他のブルルン達を引き連れてこの場を去っていった。


『あのブルルンがね、パパに借りがあるから返すって言ってここまで連れてきてくれたんだよー!』


「そうか…もしかしてあの時の奴かもな。それで、マオ。よく神威を連れて来れたな?」


『パパにメッセージを送っても反応が無いから村に戻ったその足で商団の団員からこの話を聞いたみたい』


「……後で怒られそうだな」


傍に来た神威が俺の様子を見た後に、混ざりモノへと視線を向ける。

俺と対峙した時とは違い威嚇するように口を開く姿に、神威が強い存在である事が分かる。

ポスカも落ち着いたのか深呼吸をした後に、腰に下げている巾着の中を探り目当ての物が見付かったのか勢い良く取り出す。

その手にはポスカよりも背丈のある巨大な戦鎚が握られており、かなりの重さがありそうなソレを軽々と振り回して確認した後、肩に担いで混ざりモノを見る。


「コイツを使うのは久し振りなので上手く行くかは分かりませんが、ライアさんにこんな危険な事を頼んでしまいましたし…ちゃんと私も戦いますよ!」


「助けに来てくれた所、申し訳ないんだが後7分位であの中心にある研究所が爆発するんだ…」


「ライアさんがマオくんに持たせてくれた資料の中に実験内容が含まれていました。証拠を隠滅する為にはそれ位は仕掛けているでしょう」


「一筋縄では行かなそうな相手ですよね。何か策はありますか?」


「今、白銀と黒鉄が魔法を用意してる。ソレを当てられれば…だな」


チラリと白銀と黒鉄の方を伺い見れば、かなり集中しているのか視認できる程の魔力が二匹を覆っているのが見える。

セラフィが俺の頭の上に降りると、羽を畳んで混ざりモノを静かに見つめている。

神威の肩の上に居たマオに白銀達の傍に居るよう告げれば、素直に頷いて向かうのを見送る。

助っ人が増えたのだから俺も黙って見ていることは出来ない。


「目的は時間稼ぎ。俺達で倒し切れるなら尚良いが、これからどんな変異をするか分からない」


「なるべく慎重に戦った方が良さそうですね」


「隙を見せたら私がズドンと一発ぶち込みますよぉ!」


「……隙を作るのは俺と神威の仕事になりそうだな」


「タゲを引くのは慣れてるので安心してください。ライアもあまり無茶はしないように。テラベルタで食材買ってきたんで祝勝会楽しみにしてます」


軽口を言いながらも神威がハルバートと巨大な盾を取り出せば、大きな音を立てて混ざりモノを挑発する。

標的が増えた事に警戒していた混ざりモノだが、音に釣られるように神威を見ると目にも止まらぬ速さで突っ込んできた。


『ゼンインコロス!コロシテ、ツヨクナル!ソシテ…アノシロイヤツモ、オレノテデ…コロス!!』


殺意の込められた混ざりモノの言葉と共に繰り出される尾を神威が受け止める。

すかさず俺が剣で切り掛かれば、爪で防ぎ盾を足場に背後に飛び退く。

そこを待ち構えていたようにポスカが戦鎚で叩き潰そうと横薙ぎに振れば、尾で地面を叩いて混ざりモノが上空に回避する。

再び混ざりモノとの戦闘を再開するのであった。

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