52-混ざりモノ・中
自分より弱い獲物を見るかのように口の端を吊り上げながら混ざりモノが愉快そうに笑う。
持っていた槍を地面に叩き付けるようにして折ると、尖った断面を俺に向けて投げてきた。
篭手を装備している方の腕を使って払うように弾き飛ばしたと同時に、風を切るような音が聞こえる。
ハッとして下を見れば、身をかがめた混ざりモノが笑みを浮かべながら見上げていた。
『サッキノ、オカエシダ』
「ぐはっ!!」
混ざりモノが地面に両手を置いて深く息を吸い込むと、俺の腹に足が触れたのを確認し吸い込んだ息を一気に吐き出し、渾身の力を込めた蹴りが打ち込まれる。
腹に穴が空いたのではないかと思う程の衝撃を感じると、背後へと吹っ飛ばされた。
受け身も取れずに地面を転がり、うつ伏せの状態で咳き込みながら顔を上げれば、追撃をするべく追い掛けてくる姿が見える。
痛みに目が眩むも早く動かなければと身を起こそうとするが、混ざりモノが追い付き背の上に乗ると爪が左肩に突き立てられる。
「ぐっ、がぁぁぁっ!」
『ギヒヒッ!イイコエ…モット、キカセロ』
「いっ、ぎ…っ!」
肩に突き刺さった爪を更に傷口を広げるように動かされ、尋常じゃない痛みを奥歯を噛み締めながら耐える。
『旦那はん!!』
『姉上!詠唱に集中するでござる!今の某達では若の弱点になるだけ!』
『くっ!!アイツ…許さへんぞ…っ!』
この光景を見た白銀が取り乱すのを黒鉄が諌めている声が聞こえる。
俺の苦痛に満ちた声を聞いて喜ぶ混ざりモノの声に腹が立つも、傷付いていない方の手で痛みを堪えながら地面の土を手に握り締める。
浅い呼吸を少しでも整えようと深呼吸をしてから、舌を噛まないように歯を食いしばって上体を起こす。
まさか起き上がるとは思っていなかったのか驚く混ざりモノの目を狙い、握っていた土を掛ける。
『ギャッ!?クソ…オマエ、ヒキョウ!』
「はぁっ…ぐぅっ…悪いが、俺も…やられっぱなしでいる訳には、いかなくてなっ!」
『コロス!コロス!!コロシテ、クッテヤル!』
土が目に入り片手で顔を覆いながら爪を振り回す混ざりモノから一旦距離をとる。
インベントリから回復薬を取り出し左肩の傷に振り掛ければ、痛みと熱を伴いながら傷口がゆっくりと塞がっていく。
混ざりモノが左肩を狙ったのはこちらの腕に自分の爪を防ぐ篭手があったからだろう。
インベントリから師から貰った剣を取り出すと、左手の回復がまだなので歯で鞘を噛み締めて剣を抜く。
抜き身の剣の鞘をしっかりと握り、ここまでのやり取りで制限時間の半分弱を奪われていた事に眉を顰める。
『若!後5分程時間を下され!』
『わて等を怒らせたんや…元が子供でも許さへん!』
「5分か…長く感じるな…」
刀身に剣気を纏わせながら深く息を吐き出す。
左肩の痛みも次第に落ち着いてきたので多少だが心に余裕を取り戻す。
まだ視力が戻っていない混ざりモノの様子を見てわざと音を立てるように動く。
それに反応して腕を振り、何に当たることも無く空振りとなれば苛立たしげに声を上げる。
『ドコダッ!ヒキョウモノッ!』
「卑怯者らしく…色々と考えてるのさっ!」
『イッ!ソコカァ!』
少し大きめの石を拾い頭を目掛けて投げれば、硬い皮膚にぶつかるだけの衝撃でも僅かな痛みは感じたのだろう。
大腕を広げてこちらへ飛びかかってくるのを見て俺は僅かに目を細めると、体制を低くし肘の間接部分を狙って剣を振る。
剣気のお陰で切れ味が良くなった刃が硬い皮膚に当たる。
赤い刀身が難なく関節を断ち切り、血の付着した爪が生えている腕が宙を舞う。
『ガッ、アァ゙ァァァァァァァッ!!』
「痛いだろ…俺も、尋常じゃないくらいさっきは痛かったんだ」
『ニンゲン、フゼイガァァァァァ!』
断ち切られた腕から流れる黒い血に、最早それが人の身体ではなく違う身体である事が見て取れる。
研究員に話を持ち掛けられたあの時に、直ぐさま助けに入れば何か変わっていたのだろうかと思った。
目の視力が戻ったのであろう混ざりモノが俺を睨み付け、大きく口を開ければこちらへと駆けてくる。
関節部分を狙えば先程の様に断ち切る事が出来るだろう。
『オマエノウデモ、オナジヨウニシテヤルッ!!』
「そう簡単に、やらせてたまるかぁっ!」
執拗に腕を狙って爪を振り翳してくるので回復した左腕の篭手を使って防ぎつつ、機動力を削ぐ為に膝を狙う。
爪と金属のぶつかる音が響く中、大人しく混ざりモノが身を引こうとしたので詰め寄る。
不意に脇腹に衝撃を受け痛みに眉を寄せながら再び地面を俺は転がる事になった。
「ゲホッ…何が…?」
『ギヒッ、ソウダッタ…オレニハコレモアッタ』
「……尻尾か!うぉっ!」
一瞬何が起きたのか分からず瞬きしていると、混ざりモノが己の尻にある尻尾を撫でながら下卑た笑みを浮かべる。
先程までは無かった筈の尾が時間経過によって生えてきたのだろう。
爪や足による攻撃と更には尾での攻撃にまで気を付けなければならない状態に思わず舌打ちする。
『ギヒッ…オマエ、タタキツブスノモ…イイナ』
「勘弁願いたい…なっ!」
混ざりモノは上空に飛び上がると、身体を回転させて勢いを付けているのを見て意図を察すれば、身を転がして脇腹を抑えながらその場を離れる。
地面に叩き付けられた尾が地を割り僅かながら陥没させたのを見て冷や汗が頬を伝う。
「くそっ、より厄介になったな…っ」
痛む脇腹を庇いながらも身体を起こすと、剣を杖代わりにして立ち上がる。
頼みの綱は白銀と黒鉄の魔法だ。
己の体力とクエストの制限時間を確認し、この状態を維持しなければならない事も踏まえ、インベントリから継続回復効果のある丸薬を取り出し口に入れるのだった。
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