51-混ざりモノ・前
研究員がこの場を離れる姿を見送る形となってしまった事に舌打ちしつつ、目の前に残された子供だったナニかを見つめる。
爬虫類さながらの滑らかな体表に衣服だった物の切れ端を纏ったソレは、二足歩行の蜥蜴のような姿となり変異を終えた。
血走ったその眼光に理性は感じられず、本能のままに強固な牙を剥き出して俺を睨みつけている。
「会話を仕掛けてきた時点で動くべきだった…。何かしらの情報を得られるかもなんて思ったのがダメだな」
『ここ、爆発するとか言うとったよな?どれくらいの規模なんやろ』
『分からぬ、だが…目の前のアレは放置してはならぬと分かるでござるよ』
「ここらで見掛けるようになったドラグは、この施設での人体実験の失敗作…なのかもしれないな」
フィールドボスのリスポーンの時間を短縮させるアイテムがあるとは聞いたが、黒い牙のギルド長であるアギトは洗脳されていたのだ。
他のギルド員とも連絡ができていない状態だっただろう。
このクエストが他者に知れれば報酬が無くなるような仕様であった場合、何がなんでも情報の公開は避けたいはずだ。
レアな報酬が欲しいという搭乗者の心理を逆手にとった嫌なクエストだと思う。
「取り敢えず、目の前の敵をどうにかしないとだな」
『アレ…子供なんやろ?元は人間の…なんで同族にあんな事が出来るんや…』
「多分…あの研究員は人と同じ種族じゃないんだろう」
『…どういう意味でござるか?』
先程の会話を思い返してみれば、研究員はこの仮面の使用条件を知っていて人族が使っているのは滅多にないと言っていた。
ならば今までに使用されている所を見た事がある、人よりも長命な種族である可能性が高い。
そんな話をしていると目の前にメッセージウィンドウが表示される。
〈強制クエスト
20分以内に混ざりモノを倒せ
成功:研究施設の爆発回避、情報の入手
失敗:研究施設の爆破ダメージ:HP-99%〉
表示されたクエストの内容に目を見張れば、暫し立ち尽くしていた二足歩行の子供だったモノが俺に向かって突っ込んでくる。
全体的な身体能力が向上しているのか、その小柄な姿では考え付かない程の速さで俺の傍へと辿り着いては鋭利な爪を喉目掛けて突き出してきた。
仰け反って避けた所で隙を生むと思い、篭手で受け止めるが速度の乗った重い一撃に体勢が崩れる。
『旦那はんっ!』
『コロ、ス…コロス!イヤダ!コンナコト、シタクナ……』
「くっ、白銀…黒鉄。お前達を一旦降ろす。離れた場所から援護、出来るな?」
『承知!』
『いくら元は子供でも、お前さんの為にもここで終わらせてやらんとな…っ』
結局は仰け反る事となったが、篭手に爪の先端が当たり金属を引っ掻くような音がする中で、何かを譫言のように呟く眼前の混ざりモノの言葉に眉を寄せる。
そのまま押し退けられ倒れそうになるが、即座に片足を後ろへ出して踏ん張りを効かせて堪える。
振り払うように腕の力で爪を弾けば、ガラ空きとなっていた腹部に蹴りを入れた。
元が子供だからか体重は軽いままなのだろうか後ろに吹っ飛ぶ姿を見ながら、一旦離れた場所に白銀と黒鉄を降ろすと身動きが取りずらいローブを脱ぎ捨てる。
「苦しいよな…。ちゃんと、終わらせてやるからな」
『アア゙ア…アアアアァァッ!』
ボソリと呟きながらインベントリから槍を取り出す。
牙と爪を用いて接近戦を仕掛けてくるなら、牽制しながら戦える方がいいだろう。
相手の動きを予測して突き出せば、上手くすれば大ダメージを狙うことも可能だ。
『姉上、アレは動きが早い。確実に拘束できる魔法を頼むでござる』
『了解や、黒。旦那はんが気を引いてくれとる間にちゃちゃっと用意せんと』
わざと俺に聞こえるように大きな声で話しているのかは分からないが、素早さも考え広範囲に影響のある拘束系の魔法を使うつもりなのだろう。
意図が分かれば用意が済むまで白銀と黒鉄の傍へと近付かせないように動く事も視野に入れる。
足に力を込めたのか硬い砂地を踏み締めた時のような音が聞こえれば、混ざりモノが動いた。
「くっ、硬いっ!」
走ってきた混ざりモノに向かって横薙ぎに槍を振るえば、飛び上がったのを見て槍の持ち手を変えてそのまま無理矢理斜めへ振り上げる様に槍先の軌道を変える。
空中で避ける術は無いため腕を交差させるようにガードする混ざりモノの腕に当たるが、鱗の硬さに後方へ弾く事しか出来なかった。
先程の荒城の体表の硬さにも劣らぬであろうその肌に思わず眉間に皺が寄る。
「接近戦が一番良さそうだ、なっ…!」
弾き飛ばされただけでそこまでダメージが入らなかったのだろう。
混ざりモノが薄らと笑みを浮かべているのが見えた。
目の前の敵が、別の何かに成った合図かのように動きを止める。
『ギヒッ、ギヒヒッ!』
顔を手で覆うと混ざりモノは四肢の感覚を確かめるようにその場で飛んだり腕を振るう。
想い通りの動きができるかを確かめるようなその動きに、このままではマズいと手に持った槍を混ざりモノに向けて投げた。
『ギヒッ…ウゴク、オレノ…オモイドオリ…』
投げた槍は混ざりモノに届く前に捕まれ無力化される。
そして、玩具を扱うように軽く振り回すと楽しげに笑みを浮かべながら俺を見たのだった。
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