50-研究施設
足跡を追って行くと、ドラグの姿は一匹も居らず巨大な樹が中央に生えていた。
切り倒す事がかなり難しそうな程に幹が太く、何百年も生きていそうなその樹が不自然でもある。
これだけ大きな物ならドラグの生息地の目印として地図に書かれていてもおかしくないが、インベントリから地図を取りだし地形を確認するも、ここは本来何も無い平地だった。
『え、ただの木しかないやんな?』
『姉上、木など無いでござるよ?他の木と同じ位の高さに作られた柱のような物があるでござる』
白銀の言葉に即座に言い返す黒鉄の言葉に俺も真実の目を発動させれば、大樹に見えていた物が柱の姿に切り替わる。
人一人が入れそうな入口が一つあるだけで他には何も無い。
どうやら柱の先端から黒い霞のような物が辺りに散布されており、アレが目眩しの効果があるのかもしれない。
「なるほどな…。ここは本来、何も無い平地なんだが…アレが研究施設か」
『では、あの柱は人工的に造られた物と言うことでござるな』
『黒が柱に見えるっちゅうんなら…隠したい物やろうし…ほな、さっさと壊すべきやんな』
「取り敢えずは近付いてみよう。…既に、俺達に気づいて何かしようとしているかもしれないが、な」
真実の目の効果を切ると、小さく深呼吸をしてから辺りの警戒を怠る事無く柱の方へ向かう。
柱には独特な模様が刻まれており気味の悪さを感じさせる。
ゆっくりと近付いて行くと柱まで後、半分程の距離まで近付いた所で柱の入口が開き、重い鉄の首輪とリードに繋がれた小さな少年を引き連れた白衣の下に赤い制服を着た男が出て来るのが見えた。
「子供、と…施設の研究員か?」
『っ、なんや…アレッ…何を連れとるんや、あの男…っ!』
『若、アレは人ではござらぬっ…。某は魔法の準備をする故、姉上…分かっているでござるな』
『分かっとるわっ…! 』
声を震わせながら研究員ではなく少年を凝視する二匹の焦ったようなやり取りを聞きつつ、俺も警戒態勢を取る。
鼻歌交じりに近寄ってきた研究員は、俺に見えるように下卑た笑みを浮かべながら紳士や貴族がするような礼をする。
「ンフフ、我が研究施設へようこそ!謎多き女商人よ…貴女の魔石を買い取れる事を楽しみにしておりました、が…どうやら狐だったようで残念です」
「あら、最初はちゃんと売ろうと思ってたわよ?コレでも。けど、アンタ達がどうにも胡散臭いから少し調べてやろうと思っただけ」
「おやおや、そこは取引を終えて直ぐに退散するべきでしょう。商人というのは金と己の命が1番大切な生き物と存じておりますよ?」
「お生憎様、私は気になった事はとことん調べたい主義なの。そんな商人はお嫌いかしら?」
「フーム…とっても魅力的ですよ?その仮面を扱える容姿端麗な人族に会える事なんて、滅多にありませんしね…。出来れば、研究サンプルとしてお持ち帰りしたい位に…ね?」
普通に会話をしていた筈だが、研究員は笑みを浮かべたまま仮面の事を知っているかのような口調に言葉が出なくなる。
心臓が耳元で早鐘を打つような感覚に襲われ、冷や汗が背を伝うもこれ以上の動揺は見せるべきでは無い。
「非常に残念でならないのです…。貴女のような珍しい品を扱う商人が良きパートナーとして我々に協力関係を築いてくれたら大助かりだと言うのに…」
「こんな柱を建てて変な研究をしてそうな組織になんて首さえ突っ込みたくないわよ。危なすぎるじゃない」
「おや、我が組織は貴女を危険になんて晒しませんよ?丁重に扱うに決まってるじゃないですか…」
「洗脳を施して操り人形にするんじゃなくて?黒い牙のリーダーのように…さ…」
「ンフフフフ…洗脳にも気付くだなんていいですねぇ…。実にいい。強気な所もまた、魅力的だ」
「お褒めに預かりどうも…。嬉しくないけど、ね」
まるで時間稼ぎのような会話の応酬に違和感を覚えつつ、ふと研究員の隣に居る子供の様子がおかしい事に気づいた。
胸元を抑え苦しげにしゃがみ込んだかと思えば、身体が肥大化していき首輪が壊れ衣服が裂ける。
もう時間かと言うように研究員は肩を竦めると、微笑みを浮かべながら俺を見つめてくる。
「どうやら時間のようですねぇ。地下で密かに進めていたせいで研究は半分程しか結果は出せていませんが、上々といった所です」
『アッ…ガッ…イタッ…イタイッ…タスケ、テ…』
「こう言った子供の方が成人よりも適合率が高いという事もわかりましたし、ここからは去る事に致します」
『ヤ、ダ…ヤダヤダヤダヤダ…ッ…カイブツニ…ナリタク、ナイ…ッ』
「この研究施設も時期に爆発いたしますので貴女も収穫はないと思いますが…」
『アッ、アッ…あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!
』
「また相まみえる時があれば、その時はお茶でも振る舞わせていただきますよ。それでは…楽しいひと時を…ね?」
子どもの姿が完全に爬虫類へと変貌する間、研究員は悠長に話を続ける。
目の前で泣きながら人ならざるモノとなった子供は、元の声も分からぬ悲鳴のような咆哮を空に放つ。
それすらも些事のように微笑みを湛えたまま研究員は俺に熱い視線を送ると、背後にゲートを開きこの場から消えたのだった。
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