48-咎喰らい

フードの中からどうかしたのかとこちらを伺う白銀と黒鉄の頭を撫でつつ、これが終わったら夕飯は何を作ろうか考えていたと返す。

夕飯と聞いて目を輝かせる白銀が、肉はダメと言われた事を思い出したのか俯いてしまう。

そんなに肉が好きかと思いつつ、俺は肩を竦めると今日は頑張ってくれてるからさっきの罰は無しにしようと言えば嬉しそうに顔を上げる。


「それで、咎に関して説明してくれるか?」


『ふむ、某から説明させていただくでござるよ』


肉で頭がいっぱいになっている白銀の様子を見て前足で頭を抑える黒鉄の背を指の腹で軽く労うように叩いてやる。

気を取り直すように一つ咳払いをしてから顔を上げればゆっくりと言葉を紡ぐ。


『咎とは、この世で非道な行いや誰からも非難されるべき行いをした者に纏わりつく瘴気のような物でござる。咎を持ったまま屠られた魂はやがて魔に堕ちまする』


「魔に…という事は魔物になるという事か?」


『うむ、屍なのにさも命があるかのように動く魔物へと化しまする』


「それを何故、白銀が喰らっていたんだ?」


『姉上は陰に連なる存在だからでござる。死や罪といったモノの扱いが得意ゆえ、己の中で昇華し世へ返すのでござる』


黒鉄の話を聞きながらもしやと思い、白銀のスキルを確認してみる。

悪食が無くなり、代わりに咎喰らいというスキルが追加されていた。


【咎喰らい(咎に塗れた魂などを喰らうことが出来るが、昇華するまでランダムでステータスが下がる/昇華後はランダムでステータスが上がる)

※上がるステータスは下がっているステータスの2倍の値が適用される】


かなり規格外のスキルとなるが、先程の様子を見ると体への負担も大きいだろう。

なんなら不味い物を無理に口に入れる様なものなので相当なストレスにもなるはずだ。


「……必ず咎を喰らわなきゃいけない必要はあったりするのか?」


『うむぅ…咎を喰らうことに何の意味があるのかまでは分からぬのでござる。ただ、放っておいてはいけないものと言う認識が朧気にあるだけなのでござるよ』


『咎は喰らわんと他の魂に乗り移り汚染する。だから、乗り移る前に喰らってその咎を拭い清浄な物へと還すのだ…』


『姉上?』


『喰らい、昇華しまた新たに喰らう。咎が世界を満たせば厄災が…我はそれを望まぬ故にこの身を穢せど…あの方の為、に……うっ…』


「白銀!大丈夫か?……寝て、るな」


白金の瞳が淡く光を帯びた後に、うわ言のように言葉を紡ぐ。

いつもの口調ではなく強く何かを願うように紡がれた言葉は、一つ一つが何かを意味している気がする。

全てを話し終えた後に、気を失った白銀の身を揺するも反応が無いので頭に耳を寄せれば寝息を立てていた。


「…お前達のレベルが上がれば、また何かを思い出すのかもしれないな」


『うむ、某にも何かやるべき事がある気がするのでござるが…思い出すことが出来ないのでござる』


「落ち込む事は無い。その時が来ればきっと分かるはずだ…。俺はこれから研究所の方を探すから白銀も寝てるし、黒鉄も寝ておきな」


『うむ…少し休むでござる…』


フードの中で白銀に寄り添うように身を寄せて目を伏せる黒鉄に、先程の様子が違った事が気にかかっていたのだろう。

二匹の背を優しく撫でてから木の上から飛び降りると、周辺の確認をしてから再び金属のぶつかり合う音が聞こえる方向を避けて走り始める。

色々な情報を得る事となったが、どうやら俺の周りにはレアの中でも特殊な使い魔やペットが集まりやすい傾向にある気がする。


「あの方、とは誰だ?…俺が選んだ種族と何かしら関係があったりするのか?」


思い返してみれば、序盤のAPPやCHはカンストしており、本来加算されるステータスの上昇値は封印された異常な状態から始まっている。

職業に関しても、共に歩む者とこれからも俺の周りには色々な者達が集まるような何かを感じさせるモノがある。

ならば、鍵となるのは俺が追う事になった精霊龍に関する種族クエストだろう。


「くそっ、モヤモヤするな…。今、考えるべきなのはこの騒動の中心になるだろう研究所だ…。他のことを考えている暇はない…」


一度深く深呼吸をしてから気持ちを切り替えると、ふとドラグの生息地の方が闇に覆われていて黒鉄が見えないと言っていた事を思い出した。

侵入してきていた初心者をドラグの餌食にしていたと言うが、それも実験の為にしていた事だとすればどうだろうか?

その光景を見せる事で自分の下で動く人間達に、近付かせないようにする為にはどうするのが一番いいか考えてみる。

人は恐怖を感じたり、嫌な物がある場所には極力近づかないようにするものだ。

まぁ、一部の人間はそういった場所を好むが。


「……ドラグにプレイヤーを餌として喰わせた場所。そこに研究所が隠されているかもしれない」


目的地を定めれば、中央に向かって走る。

戦闘音が遠のいていくが、逆に薄気味悪い何かが身に纏わりつく様な感覚が強くなっていく。

真実の目のスキルを使えばそれが何か分かるのであろうが、今は使用するべきではないと思う。


「マオが手に入れた書類を俺も目を通しておくべきだったな…」


非戦闘員に近いマオを傍に置いておくのは危ないと思ってした事だが、少しばかり後悔するのだった。

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