47-業の行く末

木の上で白銀と黒鉄に魔力回復薬を飲ませながら怪我がないか再確認をしつつ、優しく頭を撫でてやれば素直に擦り寄ってくる二匹の姿に目を細める。

先程の話を思い返してみれば、双子だがどこか達観している所があったように思う。

マオやヴィオラ、セラフィは無邪気な子供だが、どこか大人びた話し方や躱し方などを知っているような感じのものだが。


『さっきの話の続きでござるが、業とは全ての行為の先に結びつく結果が善となるか悪となるかで変わってくるでござる』


『良き行いはその先に幸せを、悪しき行いはその先に不幸を招くって言う話があるけど、そういうのと同じ感じやと思ってもらったらえぇかも?』


『まぁ、変わりないでござるが…。某と姉上の場合はまた変わってくるでござろう?』


『あー、んー…せやな…。わてらの場合は、黒は“人の死”に繋がる結果を、わては“人の生”に繋がる結果が業に結び付きやすくなるんや』


「…なら、今回の黒鉄の行動はそれに反したという事になるよな?」


『んん…その声で男口調になられるとなんや、違和感が…。えっと…そうやな。業が少し溜まっとる筈や』


『うむ、某の中に多少なりとも淀みのようなものがあるのを感じているでござるよ』


話をしつつインベントリから濡れタオルを取り出せば、白銀の頭や腹に付いている土を落としてやる。

怪我は無いのだが、綺麗な鱗に汚れが付いているのはやはり気になるものなのだ。

黒鉄の体もタオルで拭った後、フードの中へと入れてやればひょっこりと顔を出す二匹を見ながら話を続ける。


「その業が溜まるとお前達にはどんな影響があるんだ?」


『そうやな…体調不良の原因にもなるやろうし、溜まり切れば堕ちると思う』


「堕ちる?」


『某達が使い魔の枠組みから離れ、人を襲う可能性があるという事でござる』


「俺の使い魔じゃ無くなるっていう事か?」


『多分…?そこら辺はまだハッキリと分からんのや…すまへんな』


申し訳なさそうに落ち込む黒鉄と白銀の頭を撫でてやり、聞いた話を頭の中で整理していく。

攻撃に優れた黒鉄は人の生に繋がる結果をもたらす戦いに、防御に優れた白銀は人の死に繋がる結果に関わる戦闘でなければならない。

だが、逆に人の生死が関わらない獣や魔物などとの戦闘では業は溜まらないという事になる。

なんともあべこべだが、陰と陽の性質からすれば普通の事なのかもしれない。


「なるほど…だから一つの器の中に二つの性質を持つ個体が完全体と言ってるのか…」


陰と陽が別れてしまえばそのデメリットにより、起こすべき行動に縛りが設けられる。

ならば、元から一つであれば人を生かすも殺すも自己の中で問題ないと処理され業として溜まる事が無かったのだろう。

それが今の二匹には備わっていないので溜まった先の事が分からない状態なのかもしれない。

俺の方でも気を付けなければならないが、黒鉄や白銀の意思で進んで殺生をさせないのが一番だ。


「これからはそこら辺も考えて指示を出すよ。逆に、お前達が自ら選んで人を殺す事がないようにも心掛ける」


『状況によってはまかり通らぬ事であるのも分かっているので若がそこまで気にする事でもないでござるよ』


『わて等も自分の体の状況は分かるさかい、危なそうやったらちゃんと伝えるし…旦那はんの性格ならその先も視野に入れて作戦組み立てるから大丈夫やと思っとるもん』


「本来なら、その業は飼い主である俺が背負うべ…き…。咎について聞きたいから話を整理しておいてくれるか?」


『あー、その説明もせなあかんのか…』


『伝えやすくするにも難しいでござるなぁ…』


頭を撫でながら咎についての話を持ち出せば、困ったように顔を見合わせる二匹を見て笑ってしまう。

一度瞬きをしてから目の前に表示されるメッセージウィンドウを見つめる。


〈ライア様 いつもArcaをプレイ頂きありがとうございます。

KRMのステータスが存在する使い魔より情報を得た搭乗者の皆様へこちらのメッセージを自動的にお送りしています。


この先、KRMの数値が溜まりきると使い魔が魔物へ堕ちる事になります。

使い魔自身に蓄積されるKRM値はスポットで休む事で回復いたします。

※所持している使い魔によって場所は異なります。


そうなる前に、元からそのKRMを主である搭乗者様が請け負う機能が存在いたします。

こちらの機能を使用した場合、KRMの数値が溜まるほど搭乗者の皆様にはステータスの低下などのデバフが付与されます。

ですが、メリットとして搭乗者の皆様がKRM値を請け負った場合、時間経過、NPCのクエストクリアなどで数値を減らす事が可能となります。

勿論、この機能を使わずにプレイする事も可能です。


貴方は、使い魔の業を背負いますか?


YES / NO


※この設定はあとから変更する事はできませんのでご了承ください〉


二匹の会話を聞きつつ、目の前に表示されたメッセージを読みながら使い魔の所持者の器を試すような文面だと思ってしまう。

先を行く者達からすれば、ステータスが落ちるという事は攻略などが困難になる要素である。

回復する為のスポットなぞ簡単に見つかるだろうと設定せず、軽んじた事で後悔する結末が垣間見える。


「こんなの、俺からしたら答えは決まりきってる」


メッセージに表示されている選択肢のボタンを押せば、設定完了の画面を表示するとメッセージウィンドウは消えたのだった。

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